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オリエント急行にも匹敵する、日本初のクルーズトレインとして話題を集めているJR九州の「ななつ星」がいよいよ10月15日から営業運転を開始する。

私は9月末から10月頭にかけて九州を一周する鉄道の旅を楽しんだのだが、線路に「ななつ星」用の標識が設置されたり、博多駅に専用ラウンジがオープンしたりと、運行に向けての準備はしっかり整っているようであった。

この旅の中で、私はたくさんのJR九州の電車に乗り、また、JR九州の関係者の方々とも話をさせていただいた中で、JR九州に「ななつ星」が誕生したのは決して偶然のことではなくて、JR九州という会社に息づくDNAが必然的に生み出したものだと感じた。今回の記事では、なぜそう思ったか、私なりの「気付き」を紹介させていただきたい。

JR九州の経営環境

まず、大前提として認識しておきたいのはJR九州が置かれている経営環境だ。JR各社の中で比較すると、決して恵まれているほうだとは言えないであろう。例えば、JR東日本や西日本は人口数百万人の大都市を複数抱えているし、JR東海は日本一のドル箱路線と言われる東海道新幹線を有している。これに対し、JR九州では人口が100万人を超える都市は福岡市だけである。九州新幹線が開業したとはいえ、九州域内の移動に関しては航空機との競合も激しい。また、九州内の高速道路網も整備され、自動車社会であることもJR九州にとっては大きなデメリットだ。

そのような経営環境の中、JR九州は移動を必要とするお客様から、航空機でもなく、自動車でもなく、鉄道を選んでもらわなければならない。そのためには何をすればよいか、その創意工夫はJR各社の中でも群を抜いていると私は感じた。

一例を挙げるなら、JR東海が運営する東海道新幹線は、速くて快適でありさえすれば東京⇔名古屋⇔大阪間の移動に関し、絶対的なシェアは崩れないであろう。ビジネスユースが中心であるし、空港までの移動時間を含めれば航空機に対しても新幹線の優位性が高いからである。

しかし、JR九州の場合、それだけで優位性を確立することは難しい。積極的に移動手段としてチョイスしてもらうためには、ビジネス客には安らぎを、観光客にはワクワクを与えられるような付加価値が必要になってくる。

九州新幹線専用車両として登場した800系「つばめ」号には、木目調の内装、オレンジ系のぬくもりあるシート、ブラインドにすのこを採用するなど、和の暖かさを感じられるよう、随所に工夫、こだわりが見られた。私自身も、実際に乗車してみて、東海道新幹線に乗ったときには感じない高揚感を覚えたものである。

新幹線以外の在来線特急にも、乗客が「楽しさ」を発見できるような仕掛けが随所になされていた。

JR九州のホームページにも「移動に便利なだけでなく、乗ることそのものが、忘れられないイベントに」というフレーズを見つけることができ、お客様の「移動」を「楽しみ」に変えたいのだ、というJR九州の意気込みを感じることができる。

JR九州の強み

一方で、JR九州には強みもある。それは、豊富な観光資源だ。由布院や別府のような有名な温泉地、阿蘇山や桜島といった大自然、日本三大夜景のひとつに数えられる長崎の夜景など、枚挙に暇が無い。観光需要の取り込みに積極的なのもJR九州の経営の特徴だ。

JR九州内には既に、観光名所へアクセスするための数多くの列車が走っている。例えば、博多と湯布院を結ぶ「ゆふいんの森」号。山や森をイメージした緑色の観光特急だ。この列車は九州を代表する温泉地まで連れて行ってくれるだけではなく、車内のカフェでオリジナルの弁当やドリンクを注文したり、ボードで記念撮影をしたり、車窓から見える観光名所を説明する放送が入ったりと、車にはない鉄道だからこその楽しみ方ができる。ここにも、「移動に便利なだけでなく、乗ることそのものが、忘れられないイベントに」の精神が息づいている。

別の例としては、熊本県の八代市と鹿児島県の隼人市を結ぶ路線は「肥薩線」を紹介したい。熊本・鹿児島間の移動は鉄道ならば沿岸を走る鹿児島本線(現在は九州新幹線)がメインであるため、いつ廃止されてもおかしくない路線であった。

しかし、この路線には日本一美しい車窓と言われるビューポイントや、歴史的建造物の駅舎、スイッチバックやループ線といった観光資源が満載の路線である。この路線を廃止してしまうのは、あまりにも勿体無い。

そこでJR九州はこの路線に「はやとの風」「いざぶろう」「しんぺい」といった観光列車を走らせ、トレインクルージングを楽しむ路線として、維持するとともに、再開発を図っている。車窓が美しいビューポイントで列車を一時停車したり、観光的な見所がある駅では5分~7分の停車時間を儲け、乗客は自由に下車して駅周辺の観光を楽しむことができるのだ。鉄道の旅の新しい楽しみ方である。

乗客を受け入れる駅側も、工夫をこらしていた。多くの駅で、その地域のイメージを髣髴させるようなデコレーションが施されていた。ある駅では、いかにも手作りな感じで、ホームに人間や動物のぬいぐるみ?が置かれていたので、駅員さんに話を伺ったところ、「駅が殺風景だったので、駅長が、お客様に楽しんでもらえる駅にしよう!」と号令をかけ、駅員皆で作ったんですよ、と教えてくれた。

また、観光列車にはキャビンアテンダントの女性が乗車している。車内販売を行ったり、車内放送で車窓の解説をしてくれることはもちろん、熊本と阿蘇を結ぶ「あそぼーい」号のようにキッズルームがある列車では、子どもと一緒に遊んだり、絵本の読み聞かせなども行ってくれる。

駅で観光停車するときにはキャビンアテンダントも乗客と一緒に下車をして、見所を解説したり、写真撮影の手伝いをしたりと、バスガイドのような対応もしてくれる。

私は1人旅だったので電車を背景に自撮りで写真撮影しようとしていたところ、「お撮りしましょうか?」と声をかけていただいたりなど、積極的に気を遣ってもらい、あたかも航空機に乗ってサービスを受けているかのような高いレベルの「おもてなし」を感じた。

更に言えば、観光列車が停車した駅の中には、停車時間の間に地元の野菜やフルーツを購入できる即売店があった駅もあり、地元経済にも一役買っているな、と思ったものだ。

「ななつ星」を生み出した経営判断

JR九州には、このような蓄積があったからこそ、「ななつ星」は誕生したのだと思う。

他の移動手段との競争が激しいので、積極的にお客様に鉄道を選んでもらうために、「移動手段+アルファ」のサービスを提供しなければならないという経営環境を認識することに始まり、九州の強みである観光需要を積極的に取り込み、そして沿線も巻き込んで地域経済を活性化させていきたい、その集大成としての「ななつ星」の誕生なのではないかな、と私は感じた。

輸送効率と収益性だけを考えたならば、できるだけ無駄の無い車両を作り、赤字路線は廃止するべきであろう。運賃収入に繋がらないカフェテリアカーやラウンジカーを連結するなどもってのほかだ。

しかし、JR九州は短絡的にそのような考え方はせず、鉄道の旅を楽しんでもらうことによってJR九州のファンを増やし、観光列車の話題性で日本全国や海外からも観光客を集め、九州全体の経済発展を下支えする中で、自社も発展していこうという経営姿勢を取っているのだと私は感じた。

実際にJR九州の損益計算書を見てみると、確かに、営業利益は鉄道事業のみでは赤字である。しかし、その赤字を周辺事業で補い、JR九州グループ全体としての営業利益では黒字を確保している。例えば、リゾート列車ブームで九州への観光客が増えればグループ会社が経営しているホテルの収益性が高まり、鉄道事業の赤字を補うという構図だ。

鉄道会社だから鉄道で黒字を出さなければならない、という考え方をしたならば、現在九州各地を駆け巡っている観光列車は存在せず、ななつ星も誕生しなかったであろう。

私個人としてはJR九州の経営スタンスを支持し、応援したい。

JR九州に限ったことではなく、一般論としても企業がリストラを実行して目先の黒字を確保したとしても、それは一時しのぎにすぎない。未来につながるビジョンが描けなければ、縮小均衡を繰り返し、最終的には消滅するだけだ。

JR九州の「ななつ星」の運行開始は、そういった意味でもひとつの大きな経営判断の結果だと思っている。「ななつ星」の製造や運行にかかる経費は、JR九州にとって決して小さくはない負担であろう。しかし、縮小均衡の道ではなく、「ななつ星」の運行によって「九州」の話題性を高め、先行投資は重くても、九州全体の発展と共にJR九州も発展するのだ、という経営姿勢が一層明確に示されたのだと私は感じている。


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