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明日の朝は10年に1度の規模と言われる台風26号が首都圏に最接近する見通しだ。通勤通学の交通機関にも多大な影響が出ることが予想されている。サラリーマンやOLの方は、所属する会社から「安全を見て出勤するように」「自宅待機で構わない」など、指示を受けている方もいるかと思うが、会社からは何も指示が出ていないので判断に困っている方もいるかもしれない。

そこで、台風で電車が動かなかったために会社に遅刻や欠勤をした場合、法的にはどのような扱いになるのか、この機会に社会保険労務士の目線から整理してみたいと思い、本稿をしたためることとした。

台風は会社に責任無し

身も蓋もないが最初に結論を申し上げると、会社は台風で従業員が遅刻や欠勤をした場合、法律上は原則としてその部分の賃金をカットしても良いことになっている。これは、雇用契約の大原則である「ノーワーク・ノーペイ」という考え方だ。直訳をすれば「従業員から労働が提供されなかった場合、会社はその従業員に対して賃金を支払う必要は無い」という意味になる。

ただし、「ノーワーク・ノーペイ」の原則には例外がある。それは、会社の責任によって従業員が労働を提供できなかった場合だ。例えば、会社が運行している従業員専用の送迎バスが故障して従業員を迎えに行けなかったため、従業員が労働を提供できなかった場合を想像してほしい。この場合には、会社は労働基準法第26条の規定により、少なくとも平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならない。会社に重大な過失があったため就労できなかった場合には民法536条2項の規定を適用し100%の賃金を請求することも可能であろう。

では、台風が来ることは会社に責任があると言えるだろうか。この点、台風は自然現象であるから、会社に責任が無いのは明らかであろう。行政解釈においても、天変地異による休業については会社に休業手当の支払は必要ない(昭23.7.20基収第2483号)と示していることからも、自然現象に起因して従業員が労働を提供できなかった場合、会社に責任はないとしている。

そうであれば、台風によって電車は遅れ、遅刻または欠勤した場合には「ノーワーク・ノーペイ」の原則が、原則通り適用され、会社が賃金をカットすることは法的に認められるのだ。

多くの会社では「仕方ないよね」という暗黙の了解のもと、実務上は所定時間出勤したものとみなして勤怠処理をしているのではないかと思うが、実は、欠勤扱いされても従業員は文句は言えないのだ、という法律の大原則は認識しておくべきであろう。

就業規則を確認するべし

あわせて確認していただきたいのは、自分の勤めている会社の就業規則である。就業規則には、「交通遮断休暇」が定められている場合がある。「従業員が地震、水害、火災その他の非常災害により交通を遮断された場合で、その出勤することが著しく困難であると認められた場合に交通遮断休暇を与える。」といったような内容の規定となっているはずだ。交通遮断休暇は有給の場合と無給の場合はあるが、私が知る限りでは有給扱いにしている会社が多い。

会社が就業規則によって法律よりも優遇された内容を定めた場合には、その会社の従業員にとっては、就業規則で定められた内容が法律上の権利となることを覚えておいてほしい。

「就業規則」と聞くと、従業員に色々な義務を守らせたり、就業規則に違反したら懲戒処分を受けたりと、ネガティブな印象を持っている方も少なくないかもしれないが、就業規則には「義務」だけでなく、従業員の「権利」も定められているのだ。だから、会社員の方は是非、自社の就業規則にしっかりと目を通し、「自分はこのような権利を持っているのだ」ということを認識していただきたい。自然災害がらみであれば、不幸にも自宅が風水害で毀損してしまった場合、「罹災休暇」などを就業規則で認めている会社も少なくない。

有給奨励と振替休日

ここから先は、どちらかと言えば会社経営者や人事担当者向けの内容となる。台風が接近して翌日は多くの従業員が出勤することが難しいだろうと思われる場合の実務的な対応法だ。

「来れそうな人は来て下さい。でも、危ないと思ったら無理しなくてもいいですよ。」という扱いにして、従業員の自主的な判断に任せる会社も多いのではないかと思うが、この場合、多少無理しても頑張って出勤した従業員と、額面どおり「無理しなかった」従業員の間で不公平感が生まれることがある。とくに、遅刻や欠勤した者を無事故扱いして給料を支払う場合は問題になりやすい。かといって、逆に法律の規定どおりビタ1文支払いません、というのも、実際問題としては難しいのではないか思われる。

そこで、「こんな方法もありますよ!」ということで、次の2つの対応方法を紹介したい。

1つは有給休暇の「奨励日」とすることだ。この際に気をつけるべきことは、有給休暇は法的には従業員に自由に取得させなければならないので、会社が「明日は台風が来るので有給で処理しますから休んでください。」と、「命令」をすることはできないということだ。

「命令」ではなく、あくまでも「奨励」である。具体的なアナウンスの仕方としては、「明日は台風が近づいていますので、休んでも構いません。但し無給扱いとなりますので、希望者があれば有給休暇で処理することも可能です。」というような形だ。

「言葉尻」に気をつけてアナウンスをしてほしい。有給休暇の申し出は「任意」であることを強調することはもちろん、「休んでください」ではなく「休んでも構いません」のところもポイントである。「休んでください」と言い切ってしまうと、会社が休業を命じたことになり、有給休暇を申請しない従業員に対して「休業手当」の支払義務が生じてしまうからだ。

休むのも従業員の任意、有給休暇を申請するのも従業員の任意である。よほど反抗的な従業員でない限り、会社の申し出に「協力」してくれるであろう。

2つ目の対応方法は「振替休日」を使うことである。就業規則に定めがあることが前提だが、明日台風が来ることが分かっているのだから、いっそのこと、その日を休日にしてしまい、替わりににその週の土曜日を出勤日にするような処理だ。

就業規則に定めがあれば、会社の「業務命令」として休日の振替を行うことができるので、全従業員について一斉に振替休日を適用すれば、台風が来る日は全社休業にし、土曜日に休業にした日の業務を行わせることができる。もちろん、割増賃金も発生しない。


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