困った顔の女性

ダンダリンの第4話は企業業績の悪化による内定取消がテーマであった。企業側の事情による内定取消の問題点はドラマの中でも詳しく触れられていたので、今回の記事では、逆に、学生側の事情による内定取消につき考察を加えてみたい。

卒業できなかった場合

昔から良く知られている学生側の事情による内定取消事由は、「単位不足で卒業できなかった」ということである。会社は、3月31日時点での大学卒業を条件に採用内定を行っているのであるから、卒業ができないと判明した時点で内定を取消すことができるのは法律上も当然の帰結である。

急病で期末試験を受けることができなかったなど気の毒な事情の場合もあると思うが、厳しい言い方をすれば基本的には自己責任である。遊び過ぎて単位を落としてしまったというのは論外であるし、不注意による単位の数え間違い、ギリギリしか単位申請せずリスク管理が甘かったなど、いずれにしても内定先の会社には何ら責任はないことなので、内定を取消されても学生は対抗する術はない。

ただし、交渉することは可能である。会社に卒業できないことを正直に話し、入社を1年待ってもらうことができた、などの話は私も耳にしたことがある。これは法律うんぬんの話ではなく、調整力というスキルだ。こんなことを言っては見も蓋もないかもしれないが、仕事の世界では法律の知識よりも調整力や交渉力が物を言う場面も少なくない。

その会社のことが好きで、本当に入社したいという気持ちで内定を頂いたのならば、「卒業できなかったので内定を辞退します。ゴメンなさい。」ではなくて、「今年卒業できずにご迷惑をおかけして申し訳御座いません。しかし私はこの1年で○○なスキルを身につけて、一層御社に貢献できる人材になろうと思いますので、入社を1年待っていただけませんでしょうか。」くらいは申し出てみるべきだと思う。結果的にNGであればやむを得ないが、その積極性は、今後の社会人生活で必ず役に立つはずだ。

内定期間中に病気や怪我をした場合

法律の世界に話を戻そう。次に説明するのは、内定期間中に病気や怪我をしてしまった場合である。理論的には、3月31日を基準として、4月1日から就労できるかどうかで考え、3月31日において労務提供が不可能と考えられる場合には、採用内定が取り消されることになる。

具体的に考えると分かりやすいので、いくつかの事例を想定してみよう。

例えば、入社前の3月上旬、立ちくらみや体の痛みが激しいので病院に行ったところ、白血病と診断され、長期入院が必要とされた場合である。この場合は4月1日から就労することは出来ず、完治する時期も読めないし、完治するかも分からない状況なので、残念ではあるが、採用内定取消はやむなしであろう。

同様に、入社前の3月上旬に、学生時代の最後の思い出作りに仲間とスキーに行ったが、スキー中の事故で怪我をしてしまい、全治2ヵ月と診断された場合である。この場合は、4月1日から就労できないからといって、内定取消にはならない。2ヵ月後には就労できることがほぼ確実に想定でき、そもそも新卒採用者は即戦力を期待しているのではなく長期雇用システムの中で時間をかけて育成していくことが前提であるから、1~2ヵ月の遅れで内定を取り消すのは社会通念上酷だと考えられているからである。

但し、そのスキーの事故の結果、2ヵ月後に治癒はしたものの、不幸にも車椅子の生活になってしまった場合で、内定していた職種が外回りや製造現場での作業である場合は、その約束した仕事ができないということになるので、他のポジションを用意する余地のある大企業を除き、内定取消には社会的相当性が認められる可能性が高い。

内定期間中に妊娠をした場合

我が国においては、新卒採用者の入社後のスケジュールを考えると、新入社員全員を対象とする集合研修や現場実習などを行う企業が一般的である。採用内定後に妊娠が明らかになった場合は、入社後すぐに産前産後休暇等を取得する可能性が高く、新入社員にとって不可欠なこれらの研修、実習を受けることができない。したがって、妊娠が判明した時点で、新入社員研修を受けられないことを理由に採用内定を取り消すことが合法か否かが問題となる。

この点、使用者が、妊娠、出産、産前産後休暇の取得、育児休業の取得などを理由として労働者に対して不利益な取扱いをすることは、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法で禁止されているのだが、採用内定者は、まだ「労働者」ではないのだから、これらの規定は適用されない。

したがって、内定通知書の内定取消事由の欄に「新入社員研修を受けることができない場合」と書かれていたとき、採用内定者は、そのことを知りながらも、自己責任のもと、あえて「妊娠」を選択したことになるので、内定取消となっても仕方が無いともいえる。基準を明確に示した判例や通達は現時点で存在しないが、とくに中小企業の場合は業務に与える影響の度合いが大きいので、妊娠した採用内定者の内定を取り消すことに合理性が認められる可能性は、大企業に比べれば相対的に高いであろう。

とはいえ、このようなセンシティブな事案はマスコミの好物であるから、もし、妊娠を理由に内定取消しをしたことが表面化した場合、社会的な批判にさらされるリスクを予想しなければならない。それでも内定を取り消すかは会社側からすれば「経営判断」事項になるであろう。

一方、労働者側から見ても、最終的には自己責任で決定することであるし、仮に内定取消にならなかったとしても、出産、育児休暇から復帰後に同期入社者に追いつくことの困難さや、人事考課で何らかの不利益を受ける可能性があることについてはリスクとして認識をすべきである。

また、労使協定を結ぶことにより、入社1年未満の従業員を育児休暇取得の対象から外すことが可能なので、内定を受けている会社がこの労使協定を結んでいた場合は、産前産後休暇は取得できるが、育児休暇を取得することはできず、結局退職せざるを得なくなる可能性についてもリスクとして認識をしておきたい。

尚、筆者の私見としては、確かにあえて内定のタイミングで妊娠や出産しなくても…という思いはあるが、人間色々なバックグラウンドを持っているし、婚姻や出産は人生の一大イベントでもあるから、可能な限り、内定先の企業を含め、社会全体でバックアップをしていってほしいものである。

ダンダリン第1話~第3話についても補足記事を書いているので合わせてご一読頂きたい。
労働基準監督官は水戸黄門ではありません。~ダンダリン第1話の補足
「名ばかり店長」に人間らしい働き方を!~ダンダリン第2話の補足
被災労働者が労災隠しに同意すると1億円損するって本当!? ~ダンダリン第3話の補足

榊裕葵  特定社会保険労務士・CFP


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