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「従業員満足を満たし社員のモチベーションを高めると企業業績は上がる」ということは以前から言われていることです。昨今、いわゆる「ブラック企業」が話題になるとともにあらためてその効果が見直されているようにも思われます。しかし、本当にそうなのでしょうか。そもそも「従業員満足」とはどのようなことを指すのでしょうか。そしてそれは、中小企業にとって実現可能なことなのでしょうか。

「働きやすい会社調査」から考える業績が上がる会社

2002年から日本経済新聞社が行っている「働きやすい会社調査」というものがあります。一定の基準で選定した企業にアンケート調査を行い、働きやすい会社かどうか、制度の有無・取組み状況を確認・評価をするものです。評価にあたってはビジネスパーソンへのインターネット調査に基づき、働きやすい会社の条件として重視する項目を確認し、回答得点にウエイトを付与しています。つまり、働いている人たちが「働きやすい」と考える条件を重視して企業の評価を行っているのです。

質問および評価の指標は次の4つの領域に分類されます。
・「人材の採用・育成(採用・研修・人事考課に関する制度やその内容)」
・「多様な人材の活用(キャリアパス・勤務の多様化などに関する制度やその内容)」
・「職場環境の整備(休暇/定年・メンタル/健康管理に関する制度やその内容)」
・「多様な働き方への配慮(介護休暇/育児休業制度・時短勤務に関する制度やその内容)」

その結果に基づく昨年のランキング(ベスト10)は以下の通りです。

『働きやすい会社調査 2012年ランキング』
1 パナソニック
2 日立製作所
3 東芝
4 ダイキン工業
5 ソニー
6 第一生命保険
7 富士フイルム
8 キヤノン
9 イオン
10 損害保険ジャパン

日本を代表する企業が並んでいます。自分が就活をしていたころ、憧れだった企業も多数ランクインしています。こうした企業には、さまざまな福利厚生の制度が整備されていると聞き及んでいます。しかし、残念ながら業績的には、、、非常に厳しい状況に置かれているといわれる家電メーカーが多数並んでいます。

つまりここから言えることは「働きやすい会社≠業績が上がっている会社」ということです。

「働きやすさ」だけではモチベーションはあがらない?

なぜでしょうか。仮説として考えられるのは、「"働きやすさ"="制度"」だけでは業績に結びつかず、働く人の「"働きがい"="モチベーション"」が必要なのではないか、ということです。「仏作って魂入れず」という言葉がありますが制度だけ作っても運用に問題があれば機能しません。制度がなければやる気も出ない、という側面は無視できませんが、それだけで人がやる気になるわけではないのです。

そして、別な調査(日経リサーチ「組織活性化診断調査」)で、業績が伸びている企業と縮小している企業の差を見てみると、職場環境はほとんど違いがありません。差がつくのは、「企業理念に共感できる」や「キャリアアップがはかれる」「コミュニケーションがとれている」「仕事を通じて社会会貢献が実感できる」などといった、組織インフラではなく「ワークスタイルや社会との関係性」がモチベーションの源泉になるという結果になっています。

つまり「働きやすさ(組織インフラ・制度)は確かに大事ではあるけれど、それは必要条件であって十分条件ではない。"働きがい"を指標にしたマネジメントが大切だ」と考えられるのです。

働くということはお金を稼ぐ手段であるだけでなくて、社会的存在である人間の根幹でもあります。調査結果も踏まえて考えると、「働きがい」を高めることは社員のパフォーマンスの向上に、引いては企業業績の向上につながるはずだ、という仮説は大きく間違ってはいないと思われます。そう考えれば、企業には「"働きがい"を高めるために共感できる経営理念・経営目標を設定し、それを社員と共有し実践していくこと」が求められるようになってきます。

差別化としての「経営理念」

ところが多くの人々が経営理念は役に立たないと考えているようです。それはなぜでしょうか。本来経営理念は組織の行動を規定するものです。個人の信念がその人の行動を決めるように、経営理念に基づいて企業の行動原理を決めていくはずです。しかし現実はそういう組織は少ないのではないでしょうか。経営理念は組織の行動原理が一致していなければ、それを「お題目」だと捉えるのも無理のないことです。いくら美しい言葉で経営理念を示してところで、それが組織設計をする上で活かされていないとするならばまさに「絵に描いた餅」です。

特に人事制度・人事評価については、理念と行動を一致させなくてはなりません。「経営理念」に従って行動をし、結果的に赤字になってしまったような場合に「会社に損失を与えた」ということで評価を下げるようなことがあれば、従業員のモチベーション向上など起きるわけがありません。

もちろん、理念を従業員と共有し実践するということは簡単なことではありません。個人レベルでも、信念と行動の乖離はおきます。まして企業理念は、創業者などある人間が作りあげた理念が他の人にとっても理念にならなくてはいけないわけですから、それを共有するにはかなりの労力がかかります。トップが率先垂範することはむろんのこと、経営陣が、あらゆる場面で経営理念が評価軸になるように組織を運営していかなくてはいけません。

それでもなお私は、中小企業こそ、企業理念と行動原理の一致を目指すべき、と考えています。なぜなら、労力も手間もかかりますが、お金をかけずにできることだからです。制度・インフラを整備するには多大な費用が掛かります。そこで勝負して大企業に勝てるわけがありません。また、理念を共有することにどれほど手間がかかると言っても、組織が小さいほうが浸透しやすいことは間違いありません。そこに活路があるのだと思います。

そして、企業理念の組織への浸透は、容易に真似ができないゆえに、「差別化」の源泉になるのです。

中郡久雄 中小企業診断士


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