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昨日、住友生命が元本割れした学資保険について、損失の一部返還に応じたというニュースが報じられた。朝日新聞の一面やヤフートップに掲載されたので目にした人も多いだろう。

学資保険とは何か?

その名の通り、学資保険は将来の教育費に備えて加入する保険だ。払った保険料の大部分が戻ってくるので、終身保険などと同じく積み立て型とも呼ばれる。今回の報道では払った保険料が1.5倍以上になって戻ってくると説明されていたものが「元本割れ」してしまったという。

各社の報道によれば、大阪高裁で有利な和解を勝ち取った男性は、長男・長女のために払い込んだ保険料から48万円も減った額しか受け取れなかったようだ。長女分については273万円の払い込みで259万円を受け取り、長男分については253万円の払い込みで途中解約をして225万円を受け取ったという。あわせておよそ48万円の損失だ。

現在売られている学資保険は、その多くが払った保険料より多く戻ってくる、といううたい文句で販売されている。生命保険的な機能として、親が亡くなった場合は保険料の支払いがそれ以降免除される。今回問題になった学資保険は、利率が経済情勢により変動するタイプだったようで、契約当初の利率が続けば1.5倍に増えるはずだったのだろう。

しかし、長期にわたる金利低下が反映されて実際には予想を大きく下回る利回りとなってしまった。これが事前にしっかり説明されていれば、株と同じで自己責任になっていたはずだ。裁判で契約者にとって有利な和解が勧告されたのであれば、著しい説明不足や元本保証と誤認されるような説明があったのだろう。

産経新聞の報道によれば、住友生命のコメントとして「営業職員が満期の受取額を一部断定的に説明し、顧客が誤解する不適切な事案はあった」と問題があった事を認めている(住友生命、学資保険の「元本割れ」分を返還 大阪高裁で和解成立 2013/10/28)。今回の和解は保険会社が説明不足を理由に返還に応じた異例の対応とされている。かつての保険金不払いに続いて、保険会社がいい加減な対応をしてきた事が改めて認定されてしまった事になる。

今回問題となった住友生命の「ちびっこライフ」という商品名でウェブを検索をすると、元本割れなんて聞いていなかったという不満の声がいくつも見つかる。Q&Aサイトやブログ等の中には何年も前の書き込みもあり、報道でも近年学資保険の返還請求訴訟は近年増えているとも伝えられている。今後返還請求が多数なされる可能性もあるのではないか。

学資保険は必要なのか?

自分は日々の業務で、保険の加入を含んだ家計の相談に多数載っている。お客様の中には子供が生まれたら学資保険、と思い込んでいる人は少なくない。学資保険の目的は将来の教育資金をためる事で、保険自体が目的ではない。目的が達成できるのであれば手段は何でも良いはずだ。では教育資金をためる手段として学資保険は最も優れたものなのだろうか? 全くそんな事は無い、といつも説明している。

学資保険について、一昔前に売られていたものは元本割れするものは珍しくなかったようだ。ただ、これについても払った保険料の一部が積み立てにまわり、一部が死亡時の保障等にまわる、だから保障に使われる部分が多ければ元本割れする可能性はある、と明確に説明してればなんら問題もなかったはずだ。

今回問題となったのは、販売時の高金利が維持されれば最終的に元本も保証される(実際にはこの言葉使いは適切ではないが)という、メリットがあるように感じられる商品だった。しかし、実際には元本が保障されているわけではなく、保険料に使われた目減り分を積み立て部分の運用益で穴埋めするような商品であり、金利が下がれば払い込んだ保険料を割り込むのは自明の商品だ。しかし、こういった適切な説明がなされなかった理由は客が求めていた機能は元本保証であって、目減りする可能性があれば多くの加入者は保険よりも銀行預金を選んでいた事を売り手も分かっていたからだ。

現在売られている学資保険は戻り率が110%など、払った以上にお金が戻ってくると強調されている。実際には子供が生まれてから大学に入る時期まで20年近く払い続けて運用もするのだから、低利回りでもこれ位のリターンは十分達成できる。通常、保険は万が一にそなえるもので、確実に発生する教育資金の準備に保険が最適という事は考えにくい。教育資金の貯蓄で求められる機能はすでに説明したとおり、元本の保障性だ。しかし各種の運用方法の中でも、保険による積み立ては元本保証に決して向いていない。

保険会社は金利が上がれば国債の価格下落で大損をする状況であり、都市銀行や地銀と比べても長期国債の保有割合が極めて高い。これは以前「お金は保険会社に預けるな」でも説明した。元本保証系の運用方法の中で少しでも利回りが良いものを……という事で多くの加入者は学資保険を選ぶのだろう。しかし、実際には銀行預金との差額は戻り率が110%でも決して大きく無い。銀行預金ならば1000万円+利息までは保障されるが、その元本保証の引き換えに得られるリターンとして、学資保険は見合っているのかなんとも疑問だ。

学資保険の幻想。

結局、学資保険がそれなりに市民権を得ている理由は以下の4つだ。

1.銀行預金とは別立てで強制貯蓄出来る。
2.親が亡くなった時に安心。
3.教育費の貯蓄といえば学資保険、という思い込み。
4.銀行よりは利回りが高いのでお得という思い込み。

1は「お金が貯められない病」にかかっている人の考えだ。将来の教育資金がどれ位かかるか、正確に把握出来ればちょっと貯まったから使っちゃおうとはとても思えないだろう。このビョーキへの処方箋のためだけに保険のデメリットを甘受するのはなんとも効率が悪い。これはFPにでもアドバイスを受けて治した方が良い(自分はFPなので、当然これはポジショントーク)。

2は学資保険が保障するのは200~300万円程度の保険金だ。通常、親が亡くなれば保険料の支払いが免除される一方で受け取るお金はそのままとなる。したがって、保険料が免除された分が生命保険のような保障となる。これは貯金よりも学資保険を選ぶ材料に思えるかもしれないが、200~300万円位のわずかな生命保険は掛け捨てならば月に数百円で加入出来る。子育て世代の20代30代ならばなおのこと保険料も安い。教育費について万が一に備えたいならば生命保険に少し上乗せすれば良いだけだ。

3.4について、学資保険はネーミングによる効果がかなり大きい。すでに説明したように教育費の貯蓄に保険は不向きだ。朝専用缶コーヒーみたいなもので、名前に騙されるのは辞めた方が良い。利回りが高いのは確かだが、その分銀行預金と比べて元本保証が無くなる。リターンはリスクもセットで考えるという当然の事をやるべきだ。

結論として、学資保険はいらない。元本保証がしっかりなされる預貯金や個人向け国債で十分だ。

虚偽説明で損をした人はどうすれば良いか?

さて、今回報道されたケースと似た状況にある人は少なくないだろう。しかし、数十万円のために裁判を起こすのは無理という人もいるに違いない。そんな人が利用すべき制度は「金融ADR」という制度だ。これは裁判によらない紛争解決手段として、お金をかけずに、もしくは小額の負担で、短期間で解決を図る事が出来る。まだ制度が出来てから3年程度と日が浅いが、金融機関が相手のトラブル解決手段としてはかなり使える制度だ。

保険会社ならば、生命保険協会等がADR(紛争解決)機関として指定されている。住友生命のHPでも生命保険協会が紛争解決機関として紹介されている。手続きとして、まず生命保険協会の相談窓口に申し出る。この段階では保険会社との間に入ってもらい、アドバイスを貰う事が出来る。ここで解決が出来なければ、裁定審査会に裁定申し立てが出来る。申し立てが受理されれば、裁定手続きに入る。詳しい流れはこちらのページで説明されているので参考にされたい。

裁定手続きが始まれば、金融機関側には以下の3つの義務が発生する。

1.裁定手続きへの参加義務。
2.報告・説明・資料提出等の協力義務。
3.和解案の尊重、特別調停案の受け入れ義務。

簡単に説明すると、1は話し合いの場に金融機関を強制的に引っ張り出す事が出来る。2は金融ADRにおいて説明や資料の提出を拒む事が出来ない。3はADR機関からの和解案、調停案を金融機関は原則として受け入れる義務がある。金融ADRは利用者保護を目的に作られた制度のため、事業者側と対抗するにはかなり協力な仕組みだ。

ただし、和解案が出た後でも、事業者側が最終的に裁判に訴え出た場合は受け入れ義務の例外となるので注意されたい。なお、通常のADRと金融ADRは中身がかなり異なる。3の受け入れ義務も金融ADR特有のルールだ。自分で調べて金融ADRでお金を取り戻そうと考えている方はこの点にも注意されたい。

保険・消費者問題の関連記事は以下も参考にされたい。
■お金は保険会社に預けるな その1
■お金は保険会社に預けるな その2
■ソフトバンクのせいで家を買えなかった人がいるかもしれない件について~分割払いは借金である~
■正しすぎるライフネット生命の新卒採用
■ライフネット生命の新卒採用に挑戦してみた。

2005年に発生した保険金不払い問題も、当初は一部の保険会社の問題から最終的に28社まで拡大した。今回も同様の流れになるのか何とも言えないが、問題はいつか必ず露呈する。早期に解決する以外に、事業者側にも加入者側にも選択肢は無いだろう。

中嶋よしふみ シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー


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