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社労士でありCFPでもある私は、年金相談に付随して資産運用に関する相談を受けることもある。その中で少なくないのは外貨預金に関する相談だ。我が国ではバブル崩壊以来、超低金利時代が続いており、多くのFPが外貨預金を推奨したり、金融機関も高金利をアピールして外貨預金の商品の勧誘に力をいれている。

ところが、外貨預金には為替リスク以外に思わぬ落とし穴が存在する。そのことをお伝えするため、今回は架空の相談事例を設定し、説明をさせていただくこととした。

お客様からの相談内容

はじめまして。私は爪野明子(つめの あきこ)と申します。どうしても理解できないことがあり、私ももっと勉強をせねばという思いから、相談をさせていただくことにしました。

私は爪に明かりを灯す思いで貯金を300万円ためました。しかし、頑張って貯めた300万円を銀行に預けても、年間に数百円とか数千円しか利息が付かないことにホトホト嫌気が差していました。

そんなある日、新聞を読んでいたら、私が口座を持っているナニワ中央銀行さんが、外貨預金に関する広告を大きく出していて、その広告には「米ドル預金 金利15%(1ヶ月もの)」と書かれていました。私は驚くとともにこの米ドル建の外貨預金に強く興味を持ちました。

私は、外貨預金なんてやったことはありませんでしたが、国内有数の規模と歴史を誇るナニワ中央銀行さんの金融商品だから、決して怪しいものではないだろうし、金利が年15%なら月換算しても1.25%だから、300万円をドル預金すれば、1ヵ月後には利息が3万円以上ももらえる計算なので、何でお得な話なんだろう!・・・と思い、早速この金融商品で300万円をドル預金にしたのです。

ところが、1か月後、この外貨預金が満期になって戻ってきて、私は目の玉が飛び出るほど驚きました。なんと、戻ってきた日本円が、預け入れた金額よりも減っているのです。為替レートは、預けた時も戻した時も1$=100円で同じだったのですよ!

利息分が増えていないだけでも信じられないのに、元本が減ってしまったなんて、まさに「寝耳に水」「晴天の霹靂」です。私は素人ですが、円高になったときには元本が目減りするリスクがあることくらいは知っていました。でも、レートは預入時も満期時も同じだったのですよ!それなのに、何故、私の元本は減ってしまったのか教えてください。このままでは悔しくて夜も眠れません。

FPの回答

まず、最初にお話しなければならないことは「為替レート」という言葉の意味についてです。爪野様は先ほど、「レートが100円」とおっしゃっていましたが、外貨預金をするときには、この「レート」という言葉を、もっと正確にご理解頂かなければならないのです。より具体的に申し上げますと、外貨預金をする際には、次の3つのレートを意識する必要があります。

①まずTTM(仲値)というレート。これは、銀行が外貨取引をする際に基準とするレートです。しかし、私たちはこのTTMのレートそのもので外貨預金をしたり、円に戻したりをすることはできません。銀行は、このTTMを基準として、そこに自分の手数料を織り込み、実際に私たちが、外貨預金を預けるときや円に戻すときのレートを決めています。

すなわち、下記②、③で説明しますよう、銀行は顧客が外貨預金を預けるときはTTMより円安になるように、顧客に外貨預金を円で払い戻すときにはTTMより円高になるように、「預入専用レート」と「払戻専用レート」をそれぞれ設定していて、その差が銀行の儲けになっています(顧客にとっては、隠れた手数料ということになります)。

②TTS(売値)というレートは、私たちが外貨預金を預けるときに実際に適用される「預入専用レート」です。米ドルの場合は、TTMに対して+1円とされる場合が多く、爪野様が外貨預金をしたナニワ中央銀行でも、TTM100円のときのTTSは101円でした。

③TTB(買値)というレートは、私たちが外貨預金を円に戻すときに実際に適用される「払戻専用レート」です。米ドルの場合はTTMに対して-1円とされる場合が多く、爪野様が外貨預金をしたナニワ中央銀行でも、TTM100円のときのTTSは99円でした。

爪野様は、1$=100円とおっしゃっていましたが、お持ちになった資料を見させていただきますと、やはり1$=100円というのはTTMを見ておっしゃっているようで、外貨預金を預けたときはTTSを適用して1$=101円で換算され、円に戻したときにはTTBを適用して1$=99円で換算されています。TTMは確かに100円で変わりませんでしたが、TTSとTTBの差である2円が、爪野様の損失となっているようです。

折角なので、私のほうで具体的に試算をいたしましょう。

(1)預け入れのとき
3,000,000円÷101円(TTS)=29,703米ドル

(2)1か月後満期になって円に戻すとき

①元本
29,703米ドル×99円(TTB)=2,940,597円

②利息
29,703米ドル×15%÷12ヵ月=371米ドル
371米ドル×(100%-20.315%)=296米ドル
    (利息には国税15.315%+地方税5%)
296米ドル×99円(TTB)=29,304円

③元本+利息
2,940,597円+29,304円=2,969,901円

以上の計算結果の通り、TTSとTTBの為替差損が金利収入を上回るため、これが損失の原因となっていたのです。

ここまで説明をして爪野様もお気づきになったかと思いますが、この外貨預金商品は、為替相場が円高に振れたときはリスクとしてやむを得ないにしても、為替相場が安定していてTTMレートが変わらなかった場合や、僅かしか円安に振れなかった場合にも投資家側が損をするように設計された金融商品なのです。逆に銀行側は、ノーリスクで2円分の為替差益を得ることができるので、銀行にとっては非常に旨みのある金融商品ということになります。だからこそ、銀行は新聞に多額の広告費をかけてでも、大々的に短期の外貨預金をPRするのです。

今回の件については既に終わってしまったことなので損失を取り返すことは出来ませんが、今後外貨預金へ投資をする際には、金利だけでなく、銀行が適用するTTS、TTBの為替レートの差による損失についても是非注意するようにしてください。

本日は御来所頂きありがとうございました。

事例を通して伝えたかったこと

以上の事例を読んで、どのように感じていただいたであろうか。外貨預金への投資を検討する際、我々はどうしても広告やパンフレットの中で意図的に強調されている金利の高さに目を奪われてしまいがちだ。とくに1ヶ月ものや3ヵ月ものの外貨預金は、驚くほどの高金利が提示されているので尚更である。

しかし、外貨預金のTTS/TTBによる為替差損は、実際に計算してみると我々が想像している以上にインパクトが大きい。極端な例を言えば、1ヶ月ものの短期の外貨預金を繰り返すような場合は、毎月、外貨と日本円を往復させることになるので、TTS/TTBの差額だけで元本がどんどん萎んでいってしまう。上記、爪野さんの事例では、TTB,TTSはTTMに対し±1円であったが、通貨の種類や取り扱い金融機関によっては、±2円や3円、あるいはそれ以上になる場合もある。

したがって、外貨預金をするときには金利が高いか低いかだけではなく、必ず、その外貨建の金融商品に適用されるTTB/TTSがTTMに対してプラスマイナス何円なのかを確認し、為替手数料込みで収益性の有無を判断するように心がけていただきたい。金利収入が為替差損に負けるリスクが高い外貨預金には、たとえ表面的な金利が魅力に見えても、手を出すのを控えるのが安全である。

榊裕葵  特定社会保険労務士・CFP


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