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人間は自分の都合で行動する

皆さんはゲーム理論という名前は聞いたことがあるだろうか?ゲーム理論の存在は知らないかもしれないが、「ビューティフルマインド」というアカデミー賞を受賞した映画なら知っている人は多いだろう。ラッセルクロウが演じるノーベル経済学賞を取ったジョン・ナッシュの生涯を綴った映画だ。

そもそもジョン・ナッシュが登場する前もゲーム理論は存在したのだが、彼が編み出した方法「ナッシュ均衡」によりゲーム理論が大きく発展した。ゲーム理論についての詳細説明は割愛するが、要するに自分と(競争)相手がいた場合、自分の得られる利得を最大にするような戦略を選択する行動を定義したものだと考えればよい。

そう、人とは自分の都合で行動する生き物なのだ。

従来の経済学との違い

このゲーム理論から発展して最近では行動ファイナンスとか行動経済学(以下、行動経済学)という学問が注目されている。それは、人間の合理的行動を仮定する経済理論に真正面から対抗する学問だと言っていいだろう。

従来の経済理論の前提"合理的な行動"を簡単に言うと、価格が安ければ安いほど消費者は多くモノを購入する行動、また価格が高ければ高いほど生産者はモノを売ろうとする行動のことだ。つまり価格の高低レベルが両者の行動を決定していると言ってよいだろう。

一方でそんな合理的な行動は現実には存在せず「人は自分の都合で解釈して自分の都合で非合理的な行動する」と主張するのが行動経済学だ。非合理的行動を理解するために1つ例を挙げてみよう。

例えば、町に競合するスーパーが2つあり同じAという商品を売っていたとしよう。商品Aの前に以下の宣伝文句が貼り付けてあった場合、あなたならどちらのスーパーで購入するだろうか?

スーパーB: 「現金で払えば1000円で、クレジットだと30円加算」と表記
スーパーC: 「通常では1030円のところ、現金でのお支払いは1000円」と表記

この選択肢を見たほとんどの人がスーパーCを選ぶ。どちらもディスカウント後に支払う価格は同じなのにも関わらずだ。これは、価格を消費量の決定要因としていた従来の経済理論と矛盾する。それは、従来の経済理論では同じ満足度を得られる両者を区別することはなかった(必要がなかった)。

しかし、現実では同じ条件下であっても表現を少し変えただけで、人は非合理的な選好をしてしまうケースが頻繁にある。こういった人間の心理行動を経済学に当てはめたのが行動経済学だ。

人の認識を狂わせる"アンカーリング効果"

しかし、なぜ人はこのような非合理的行動を選択するのだろうか?実はこの行動は心理学の一つ、アンカーリング効果(anchoring effect)が影響している。アンカーとは船のイカリを固定するという意味があるのだが、アンカーリング効果は、最初にイカリ(情報や数字)をおろした地点が、その後の人々の判断に影響を与えてしまうということだ。例えばアウトレットに行くと、その名前だけで“安い”とアンカーがおろされているため、初来場で他と比較したわけでもないのに安いと感じるこの感覚だ。

このアンカーリング効果が、日本の産業に対する人々の意識にも使われている。「日本は輸出中心の国で円高に振れてしまうと日本がダメになる」というフレーズを聞くことはまだまだ多い。「ダメになる」といった直接表現ではなくても、いつしか人々の頭の中に"日本は輸出国=円高は日本をダメにする"というアンカーがおろされてしまっていた。

ところが、人々の意識に反して、事実は全く異なる。

人々のアンカーは"日本は輸出国=円高は日本をダメにする"という点で担保されているとすれば、日本が輸出国でなければそのロジックは崩れることになる。

結論から言おう、日本は輸出に依存した国ではない。

"円高"ではなく"円安"のほうが心配ではないか?

日本が輸出依存国でない理由は以下の3点でわかる。

1. 日本の輸出依存度は対GDPで約13%であるということ(韓国46%, ドイツ38%) データ出所:JETRO、財務省
2. 1の13%は1960年代から数字はあまり変わっていない
3. 貿易代金の受取/支払額は輸出より輸入した商品のほうが圧倒的に多い(「財務省の貿易統計」で通貨別の取引比率を参照)

我々が懸念すべきは行き過ぎた円安のほうだ。2のように約50年近く数値が変わらないのに人々の意識が変わらないのは、アンカーが深くおろされ人々の頭に深く浸透し過ぎててしまい、たとえアンカーを払拭するような(真の)事実が出てきても、頭から消し去る事は容易ではなくなっている。人々が日々目にする映像や活字が円高悪寄りの見解を示せば、さらにアンカーを取り除くのは難しい。

自分の知らない分野だとどうしても最初に出てきた情報や数字が判断のアンカーになってしまうのは仕方ない。アンカーリング効果の犠牲にならないよう、知らない分野であるがゆえ「なぜこの情報?」「なぜこの数字?」と自分の脳に問いかけ、客観的な視点を養っていくことが肝要だ。

もちろん、その分野についての深い知識を持っていくことが一番大事なのは言うまでもないことなのだが。


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