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ミクシイが揺れている。2014年3月期の売上予想は前年比で40%近くも減少の80億円、営業利益は16億円の赤字転落と報じられている。この事態を打開すべく、6月に就任した新経営陣が先月に打ち出したのが大幅な配置転換だ。

人事異動か? 追い出し部屋か?

10月に行われた人事異動では、30名の社員が突然カスタマーサポート部門へ異動したという。11月1日付けでも社員の半分以上となる250名もの異動が発表されている。当初の30名の異動についてはウェブ上で匿名の告発もあり、「これは追い出し部屋ではないのか」との批判もなされている。

昨今では誰もが名前を知る大手企業でも追い出し部屋が設置されているとの報道が相次いでいる。企業側は当然否定するので実態がどうなっているかは不透明な部分も多いが、なぜこういった措置がなされるのだろうか。

追い出し部屋は「自己都合退職を強要する事」が目的で設置されるが、これは言葉からして矛盾している。自主的な行動を強制的に促す、というなんともおかしな事を企業がやらざるを得ない理由は、解雇ができないからだ。アレコレ理由を挙げても結局最後はそこに行き着く。

整理解雇の四要件とは?

日本では過去の判例を積み上げた結果、「整理解雇の四要件」と呼ばれる厳しい条件がある。それが解雇に関する以下のような4つのルールだ。

1.人員削減の必要性 → 解雇すべき理由がある(業績の悪化など)。
2.解雇回避努力義務の履行 → 解雇回避のための努力をしている(役員報酬のカット・希望退職者の募集・配置転換など)。
3.被解雇者選定の合理性 → 解雇の人選基準が合理的・公平である事。
4.解雇手続きの妥当性 → 解雇の対象者や労働組合と話し合い、十分に理解を得ている事。


これらの手順を踏んでいなければ解雇は出来ない、これをクリア出来るまでノロノロしていたら会社が潰れてしまう、だから無理矢理にでも自主的に辞めてもらおう……となるわけだ。

企業が解雇をする理由は基本的には業績が悪化して仕事が無いから、という状況が一番多いだろう。この点について、グリーは希望退職を募って退職金に上乗せまでしたのに対して、業績が悪化したとはいえ資金的に余裕のあるミクシィがこんな事をやるのはおかしいのではないか?といった報道もなされている(いきなり研修部屋へ ミクシィ不可解人事 東洋経済オンライン・2013/11/5)。

ミクシィは以前から「金余り」で知られていて、2013年3月期決算でも113億円の現金を保有している。未回収の売上(売掛金)も焦げ付きの心配がほとんど無い大手の取引先ばかりのようなので、それも合わせると140億円の資金を確保している。負債総額は36億円しかないので、差し引きでも100億円以上の資金が手元にある計算だ。一方で給料として計上されているのは年間で約16億円となっている。現状では赤字を考慮しても、人員の整理をしなくてもしばらく支払いで困る事は無いだろう(いずれの数字もミクシィの2013年3月期決算、有価証券報告書より)。

企業に雇用責任はどこまであるのか?

こういった数字を見ればお金が余っているなら雇用を続けても良いじゃないかと腹を立てる人もいるだろう(先の東洋経済オンラインの記事では「希望退職だと優秀な人から辞めてしまうから」というコメントが紹介されている)。こういった怒りも理解出来ない事はないが、仕事のない社員の雇用をずっと続けたら、いつかはお金が尽きて会社が潰れる。

企業は社員をどこまで雇用する責任があるのだろうか。潰れるまで雇用する責任はあるのだろうか。先に挙げた四要件でも潰れるまで解雇出来ない、とはなっていない。さすがに潰れるまで雇用を維持しろという無茶な意見はごく少数だろう。では「仕事が無くなったら解雇しても良い」と「潰れる寸前になったら解雇して良い」の間にちょうど良い着地点はあるのだろうか。

業績悪化が止まらないのであればいつかは解雇に至る。それならばちょうど良い着地点を考えるまでも無く、解雇は「仕事がなくなった時点」が正しい。なぜなら給料は仕事の対価として払うものであって、失業保険ではないからだ。解雇されると生活できないから雇用を続けるべき、という意見は別の言い方をすれば「失業保険を企業が負担すべき」という意見と同じだ(言うまでも無く、いつか業績は回復するだろうからすぐに解雇をしない、と企業が考えるのならそれも一つの判断だ)。

現在、雇用は企業にとって最大のリスクである。

売上が減って仕事もない、だけど社員を解雇できない……。これは企業にとって最大のリスクだ。業績が悪化した時、お店や工場なら閉鎖すればコストをカットできる。しかし、解雇は簡単に出来ない、となれば社員を雇用する事は企業にとって大きなリスクだ。

景気悪化時には在庫・設備・雇用と三つの過剰が生まれる。在庫や設備ならばその時点で保有している分だけが損失額となるだろう。しかし雇用だけは解雇しない限りずっと給料の支払いが続く。つまりどこまで負担が生じるのか不透明なわけだ。社員を雇用する時に「生涯賃金分の支払い義務が生じる」と考えれば、企業が雇用について及び腰になるのは当然だろう。結果として解雇規制が強ければ強いほど、企業は雇用を増やさない。

これはベキ論で何を言っても無駄な話だ。雇用した従業員について責任は発生するが、雇わない事について採用を企業に強制する事など出来ないからだ。結果として、企業は採用数を限界まで絞る。そして雇用後も給料を可能な限り抑え、残業時間の長短で雇用調整を行い、どの部署でも使える人材として育てるなど、採用した後にも雇用リスクを回避するために強い解雇規制が社員の働き方に様々な悪影響を与える。

雇用はセーフティネットなのか?

現在のような強い解雇規制があると、正規雇用の枠内に入れた人と入れなかった人の格差は拡大する。つまり、正規雇用される事がセーフティネットになっていて、正規雇用の枠から外れると一気に転落するような状況だ。こういった「正規雇用がセーフティネットになっている」異常事態はすぐにでもやめた方が良い。セーフティネットは国の役目であって、企業は利益追求に専念させるべきだ。もちろん、ある程度は企業も雇用の責任を負うべきだが、それを限界まで負わせるのは無理がある。

企業が雇用をギリギリまで維持させる事が前提になっている現在の仕組みは余りに危険だ。企業はそんなに安泰のものではない。いつ消えてなくなるか分からない「会社ごとき」にセーフティネットの役目を負わせる事がいかに異常で危険か、多くの人が良く考えるべきだ。その弊害はすでに書いたとおりだ。結局会社を動かしているのも一人一人の個人で、企業は利益を追求するために作られた「仕組み」でしかない。

働き方に関する記事は以下を参考にされたい。
■労働基準監督官は水戸黄門ではありません。~ダンダリン第1話の補足
■女子大生でも分かる、3年間の育児休暇が最悪な結果をもたらす理由。
■サービス残業は日本の文化だ ~ブラック企業が生まれる下地~
■ブラック企業を消す方法。 ~解雇規制・雇用流動化について~
■ブラック企業は「公表」ではなく「取締り」をするべきだ。

ワカモノの大企業志向が強まっていると言われるが、雇用をセーフティネットと考えるのであればきわめて合理的だ。就職活動で自殺者が増えているのも、ブラック企業の過酷な労働で社員が辞めないのも、正規雇用されるか否かで人生が左右されると多くのワカモノが信じているからだ。自分は自営業として働いているので、このような風潮は思い込みとしか思えず強い違和感を覚えるが、まだ世間の事を知らない大学生がそう考えてしまうのもある意味で仕方の無いことだ。

次回は従業員が雇用リスクを受け入れるメリットと「失業保険」は誰が負担すべきか?を書きたい。

中嶋よしふみ シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー

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