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「反対するなら対案を出せ」
ある提案がなされ、それに反対する人がいる場合によく耳にするフレーズです。国会でもそうした場面を見かけます。企業の会議でも同じようなことが起きていることも多いのではないでしょうか。

このフレーズ、常に非建設な意見を言って意思決定にブレーキをかけるような人がいる場合には、そうした人をおとなしくさせるという一定の効果はあるでしょう。しかし、問題はないのでしょうか。そもそも「対案を出せ」は意思決定の場で有効なのでしょうか。

マイナスの効果は考慮していない?

なんらかの問題がありそれを解決する。多くの提案はその目的のために提出されます。当然。プラスの効果を期待しているわけです。ですから、反対者に対案を求めるということは、より大きなプラスの効果がある案を出せ、と言っていることになります。

もちろん、反対者がより効果的な案があると思い原案に反対をしているなら対案を出すべきです。しかし、本当にその原案の方向はプラスの効果を生むという保証はあるのでしょうか。原案がマイナスの効果を生むと考えて反対した場合、求められるのは対案ではありません。まずはこの案をストップさせ、根本から練り直しすることが目的なわけですから、対案など出しようがありません。

この場合に求められるのは、反対の根拠を皆が納得いくように説明することです。対案を出すことではありません。それでもなお対案を求めるとするならば、それは「論点ずらし」と指摘されても仕方がありません。

情報の非対称性

次に「情報の非対称性」の問題があります。提案者は時間をかけて情報を集めた上で原案を提示します。それに対しその提案を受ける側は、直前にその案を聞かされることがよくあります。起案を指示した上職者には事前の説明をしているでしょうが、その他の参加者は会議の場で初めて内容を知る、という場合も多いのではないかと思います。精査する余裕は与えられていない、ということになります。

こうした場合、提案者が情報を独占している状態にあります。提案発表に必要ではない情報は参加者には知らされません。また、本人が意図する意図しないは別にして、都合の悪い情報は隠蔽される可能性もあります。

本来、対案を出すためには、情報の共有と事前の準備の時間が必要です。その条件が揃わない段階で対案を求めるのは、真意がどうあれ、議論を打ち切って結論を押し通したいのだ、と思われてしまうでしょう。

「直感」は案外正しい

反対するなら論理的に根拠を述べ、皆を納得させる、というのが基本です。しかし、それにこだわると別な落とし穴があるようにも思えます。

「なんとなくおかしい」「違和感がある」ということで反対した人がいる、つまり「直感」をもとにした反対者がいる場合、どう扱うべきなのでしょうか。根拠が明確ではないから、ということで切り捨ててもいいのでしょうか。

「直感」は経験知であり身体知です。これを言葉にするのは難しい。だから往々にして無視してしまいます。しかし、良質な経験を積み上げてきた人の直感は精度が高く、熟考した上で下した結論とほぼ変わらない場合が多いものです。

直感でそうした判断を下せるのがなぜなのか。理由は説明することは難しいですが、これを個人の問題に引きつけて考えてみましょう。

違和感を覚えながらも理由がはっきりしないのでそのまま進めてあとで後悔をした、と言う経験をされた方は多いのではないでしょうか。直感に従っておけばよかったな、と思ったことがある人はたくさんいるはずです。ここから推察すると、経験を積み熟知した内容については、直感はかなり正しい判断をすると考えられます。

もちろん論理は大切です。できれば直感を論理的に説明できるようになるに越したことはありません。しかしそれができないからといって、可視化できるものや論理的に通じるものしか認めない、となってしまうと大事な判断を誤る可能性が高くなると思います。

「いまさら止められない」を止める

「対案を出せ」は適切な場面で使われれば有効に作用することもあります。しかし時に提案者が自分の意見を押し通すために使うこともあるのです。対案要求を異論封殺の手段として使ってしまう場合があるということです。逆に、対案が思いつかないから反対しない、というもの思考停止です。これでは有意義な結論を得ることができなくなります。

おそらく提案者としては「ここまで案を考えてきたのだから、いまさら止められない」という想いがあるのだと推測されます。また、その人に原案作成を指示した人(多くは上職者)からすると、何らか問題を認識して解決策としての案を求めたわけですから「なにもしない」ということは決断しにくいのでしょう。

しかし、決断することはなにか具体的なアクションを起こすことだと思われている節がありますが、「やらない決断」というのもあるわけです。「いまさら止められない」と言ってアクションを起こし、それが間違った方向に進んでしまえば、場合によっては取返しのつかない事態を引き起こしかねません。

「『いまさら止められない』を止める」という決断が必要な場面もあるはずです。リーダーやファシリテーターは、意思決定の場でこうしたことに十分に配慮しなくてはなりません。「対案を出せ」というフレーズは慎重に取り扱わなくてはならないのです。

直感力に関する記事は以下も参考にしてください。
【読書】正しい判断は、最初の3秒で決まる / 慎 泰俊

中郡久雄 中小企業診断士


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