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先日、医薬品のネット販売について28品目の措置が公表された。5品目については販売禁止、23品目は3年間販売を禁止し、その間を調査期間とする方針を田村憲久厚生労働大臣が発表した。

ネット販売は危険なのか?

23品目は処方薬から一般薬に切り替わったばかりの薬(スイッチOTC)で安全性がまだしっかり確保されていない、5品目についてはリスクが高いから今後も売らない、と判断がなされたようだ。

これ以外の薬については販売が認められ、禁止された28品目は全体の0.2%とごくわずかだ。しかし問題は0.2%しか禁止されていないという部分ではなく、「ネットによる販売は危険だから」という根拠の無い理由で禁止されている事だ。ネット販売を推進する側からすればこれは到底納得できない理由だろう。

結論から言えば今回出された方針は不毛の極みだ。自分はこれまで3回も医薬品のネット販売について記事を書いたが、ネット販売は安全か危険か?という不毛な議論は安倍総理が初めて総理大臣になった時から数えても7年も議論が続いている。

今年6月には全面解禁が閣議決定なされたにもかかわらず、その結論は覆された。田村厚労相によれば、すぐにではないが暫くすれば解禁されるから閣議決定とはなんら矛盾しないと説明した。

一部の医薬品が販売禁止になった理由。

28品目を対面販売に限った理由は以下のように報じられている。
薬ネット販売、23品目は3年間制限 厚労相表明
「これらの薬を店頭の対面販売に限る理由について田村厚労相は「本人の挙動などを五感で確認する必要がある」と説明、専門家が判断した結果だと強調した。さらに、安全性が未検証の段階でネット販売を認めると、医療用からの切り替えが進まなくなる懸念があるとし「(市販薬が)安定的に増えるようにするほうが成長に資する」と述べた。」    
2013/11/7 朝日新聞デジタル

また、これらの規制が残った28品目については代理購入や買い置きの禁止、大量購入が出来ないような措置を取る、と対面販売でも従来と比べてかえって規制が強化される事になるようだ。

これだけ長期間にわたって議論をしてきたにもかかわらず、ネット販売が危険だという根拠のある話は何一つ出てきていない。過去の議論については「薬のネット販売が再禁止されるらしい」でも詳しく説明した。現代の医療はエビデンス(根拠)をベースに行うのが常識のはずだ。それがエビデンスもなしに対面のほうが安全、ネットは危険、と決め付けるような議論を医療関係者が行うのは非常に不可解だ。

ケンコーコムの後藤玄利社長は記者会見で、販売後の顧客に対する直接的なフォローなど、顧客とダイレクトにつながっているからこそ出来る様々な安全対策について説明し、「安全性について、一体どこまでやれば認められるのか?」と不満を述べた。対面販売ではまず出来ない事までやっているのだから、こういった不満が出るのも当然だろう。

内閣府の規制改革会議に参加しているという中央大学・法科大学院の安念潤司教授は「反対派は『ネット販売は一般的に危ない』、という奇妙な信仰を持っていて、その信仰が立法にも反映されている」と、反対派がまともな根拠を示さない事について、会見では痛烈に批判している。

少なくとも過去にネット販売が対面と比べて危険という根拠が示された事は無く、ネット販売が原因で問題が起きたことも無い。問題の起こる可能性が高いと合理的に説明された事も無い。販売後に薬に問題が発生した場合のトレーサビリティなど、ネット販売のほうが明らかに優れている面もある。

ネット販売が危険だとする根拠は長期間の議論でも結局一つとして出る事は無く、それどころかチェーンドラッグストア協会からは「ネット販売なんて信用できない、NASAの月面着陸の映像だって作り物だと言われていた位なのだから」と時間を浪費させ議論をかく乱するような話しか出て来ていない。これは「薬のネット販売が再禁止されるらしい」でも指摘したが、今でも動画が残っている。

対面販売にまで制限が加わった理由。

今回、個人的に驚いた面としては、対面販売にまで規制が加わった事だ。これは今までの議論で反対派がネット販売の問題点を指摘できなかった事が大きな原因だろう。

以前、「医薬品のネット販売解禁は既定路線だ ~成長戦略第3弾で公表か?~」でも掲載したが、今年5月に行われた検討会で配布された資料がある。この資料では、販売時の情報収集として対面、テレビ電話、電話、ネット(ウェブ・メール)と4つある販売方法において、量や質に違いはあっても収集出来る情報に差がない事を説明している。

これは賛成派ではなく厚生労働省が議論の叩き台として作成した資料だ。そして違いがある点としては、専門家(薬剤師)が目視する、臭いをかぐ、接触する、といった事は対面でしか出来ないという事になっている。ただ、それについても但し書きとして「購入者が使用者と異なる場合は情報の収集はできない」、つまり代理購入の場合はその限りではないと明言されている。

代理購入という弱点。

これまでの議論で代理購入は反対派にとって常に最大の弱点だった。今まで繰り返し指摘された事が「代理購入が出来る時点で対面販売は客の顔色を見て……なんて話に説得力が無いじゃないか」「対面で代理購入する場合と、ネットで本人が買う場合と、一体どちらが安全なのか?」という矛盾だ。顔色を見る、話を良く聞く、といった事はネットでは出来ないという反対派の話も、代理購入の抜け穴がある限り意味がない。

いよいよこのままでは全面解禁になりかねないという所で、反対派は代理購入の禁止という最後の手段を使ったという事だろう。ここまで厳格な販売方法は反対派でもやりたいと考えていた訳ではないはずだ。どうにかしてネット販売に歯止めを掛けるために、反対派も痛手を負ったような形だ(今までやっていなかった事を一体どのようにやるのか、それをやるだけの能力やノウハウが薬剤師にあるのか、何とも不思議だ。五感という事は触診までやるという事なのか)。

処方薬が最後の本丸?

以前の記事では、反対派はそこまで言うなら対面販売でも代理購入の禁止や身分証明書の確認を導入すべきだと指摘した。まさか本当にやるとは思ってもいなかったが、記者会見や各種報道では、ネット販売反対派がこうまでしても絶対に守りたかったのは、一般医薬品ではなく、処方薬ではないか、とも言われている。

記者会見では「厚生労働省が作った条文の案には、全く関係の無い処方薬についても対面で書面を用いて情報を提供しなければいけない、という話がどさくさにまぎれて出てきて愕然とした」という話も出ている。

11月6日夜に放送されたワールドビジネスサテライトでもケンコーコムの後藤社長はその点に触れ、番組コメンテーターのロバート・フェルドマン氏は「海外では処方薬をネットで買う事は日常茶飯事」と呆れながらコメントをしている。

医薬品のネット販売と経済に関する記事は以下を参考にしてほしい。
■薬のネット販売が再禁止されるらしい。
■医薬品のネット販売が安全か危険かという議論はもう必要ない。
■医薬品のネット販売解禁は既定路線だ ~成長戦略第3弾で公表か?~
■追い出し部屋が出来る理由。 ~ミクシィは悪くない~
■ザ・リッツ・カールトン大阪は「紳士淑女」なのか?

楽天の社長三木谷社長やケンコーコムの後藤社長らは首相の判断に最後の望みを掛けるというが、司法の場で争う可能性もあるとはっきり明言している。最高裁まで争って決着が付いた事を再度裁判で争うという、全くもって不毛なやり取りが再度発生する事を考えれば、時間も税金も無駄だ。そして再度国側が負けるとなれば一体悪いのは誰なのか。とっくに終わったと思っていた話がゾンビのようによみがえってしまい、何とも頭の痛い問題だ。

※こちらの記事について、ケンコーコム・後藤社長よりツイッターで以下のような賛同のコメントを頂きました(リンク先はアゴラに掲載した同じ記事)。

フェイスブックでも以下のようなコメントを頂いています。
「医薬品ネット販売に関して情報が錯綜しているので、久しぶりにブログを書いてまとめようかと思っていたら、きわめて的確に今回の件をまとめているページを見つけた。現在の論点をほとんど網羅している。たぶん、お目にかかったことはない方だと思うが、外部情報だけでここまで分析できることにビックリ。」

中嶋よしふみ シェアーズカフェ・店長 ファイナンシャルプランナー


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