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グローバル教育熱に最も悩んでいるのは、当の教育の担い手である中学/高校の英語の先生たちかもしれない。そんななか、東京都教育委員会では来年から、若手の英語教員を毎年200名ずつ短期留学させる施策をスタートさせる。

「都の教員、短期留学…五輪向け、英語力アップ」(11月7日・読売新聞)や、 「都教育委:英語の先生、留学必修 来年度、指導力強化へ」(11月25日・毎日新聞)によれば、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを見越して、都は来年度から中高生に英語を教える教員らの能力強化のため、採用3年目の英語教員を毎年200人短期留学させ、外国語指導助手(ALT)も大幅に増員するそうだ。

お子さんを学校に預けている親御さんから見れば、英語教師のスキルアップは願ってもないことであろう。他方、英語教師サイドのプレッシャーはすさまじいもののようだ。

自信喪失、高い要求。悩める英語教師の実像。

数か月前に、高校で英語を教える女性に話を聞く機会があった。年齢は40代中盤。某女子大学の英文科を卒業し、教師の道へ進んだという。(以下、A先生)

(A先生 談)「私は、特に英語が優秀で英文科を卒業したわけでもないし、長く海外生活をした経験もない。正直、こんな私に英語を教わった生徒たちが英語エリートになれるわけありません。私の経歴を知っている親御さんたちからは、冷ややかな視線を感じています。これからますます英語教育が重視されると思うので、私の存在価値なんてきっと無くなってしまいます。」

A先生はもともと英語が好きで英文科を志し、学生時代は英国や米国への短期留学も経験した。好きなことを次世代に伝えようというピュアな志から教師になった人だ。そんなA先生が、最近は自分の授業に自信が持てなくなってきたと言う。ネイティブの先生と話すだけで、自分の英語力のなさに気持ちが落ち込むこともある。

同僚のなかには、自信喪失から真剣に退職を考える人もいるそうだ。

ここのところ、英語の先生たちはすさまじく高い能力を要求されている。高校の新学習指導要領では、英語の授業は 「英語で」 行うこととなっている。カリキュラムに導入され始めたスピーチ・ディベート・ディスカッションは、もはや英語力だけでなく、論理的思考力・創造力・表現力・ファシリテーション力も持ち合わせていないと指導者としてやっていけない。

これでは、従来の日本型英語教育を受けてきた先生たちが自信を喪失するのも無理からぬ話である。

この状況を憂えたせいではないだろうが、ある意味絶好のタイミングで、先述の東京都の新しい施策が登場した。毎年200名ずつ若手教師を留学させるこの施策、2020年まで7年間続けば累計1400名の若手教師が海外で特訓を受けることになる。

東京都の短期留学作戦、その効果への期待は?

新しい試みがスタートするとき、必ず出てくるのが「焼け石に水」論である。

「たかだか3カ月の留学で何ができるというのだ」という意見が、恐らく今回も聞かれるだろう。実際、そんな書き込みを目にしてしまった。

短期留学をなめてもらっちゃ困る。

3カ月のロンドン語学留学でTOEIC(r)スコアを400点代から800点近くまで伸ばした人を知っているし、ワーキングホリデーで最初の3カ月間語学学校に通ったことをきっかけに現地就職への切符を手にした人はいくらでもいる。3カ月留学は本気を出せば、ものすごい効果が期待できるものだ。

また、都教委が留学先として選定しているのは英語を母国語としない生徒に教える『英語教師用コース』だそうだ。英語教授法資格は数種類あり、都教委がそのどれを採用するのかは不明だが、いずれも英語教師が自身の英語能力を高めながら、英語を教えるための手法と理論・デモンストレーション・教材選定・カリキュラムづくりを体系的かつ実践的に学べる。

なかでも、英語授業のデモンストレーショントレーニングは飛躍的に英語教師の実力を伸ばすと聞く。先生(役)は、言語を解さない生徒たちに授業内容を理解させるだけでなく、その能力を引き出す。声の大きさ・表現力・組み立て・生徒の表情を読み取る力、等どれひとつ欠けてもいけない。先生(役)は、自分の英語力が低いとかなんとか言ってる場合ではない。さらに、指導風景を見ている講師やクラスメートからは第三の目としての容赦ないコメントも飛んでくる。この厳しさなら、英語教師を志していない人が受講しても急速に英語力を高めるのに適しているだろう。

英語力より指導力

そもそも、この記事をお読みの皆さんは、どんな教師に英語(あるいは外国語)を習いたいだろうか?

私なら、英語力自体が高い先生よりもむしろ、英語を「教える」能力の高い先生に学びたい。

10年ほど前に、英語インタビュアーの資格取得のために英語特訓をするため、都内でプライベート教師を探したことがあった。探したのは英語を話せるだけのネイティブ外国人ではなく、「しかるべき英語教授法資格を保持している教師」ピンポイント。都内の英語スクールというスクールに問合せを出したが、血眼になってやっと見つかったのはたった2校しかなかった。学校教育現場はまた少し事情が異なるかもしれないが、日本にはプロの英語教師と呼べる人が極端に少ないことを感じた。

英語を母国語とするネイティブ教師の指導はもちろん大切だ。合わせて、ゼロレベルからの習得過程を経験した日本人教師だからこそ伝えられることも多いと信じたい。

もともと、英語の先生の多くは英語が好きで、教育への熱意を持って英語教師の道を選択した人たちばかり。昨今のようにグローバル化、グローバル化と騒ぎ始める前から、夏休み等を利用し、自腹を切って短期留学する英語の先生たちはいた。

顧問の部活動と研修が重なる夏休み中、ほんのつかの間にとれた自分のバカンス期間を、決して安くはない留学費用を払って勉強に勤しむ。民間会社の社員ならば己の能力向上は報酬に直結するものだが、教師の場合は報酬に跳ね返るわけでもない。本当に頭が下がったものだ。

先述のA先生は東京都の先生ではなく採用3年目でもないから、都の施策対象からは外れてしまう。A先生のようにマジメさゆえに悩みが深い東京都の先生にとって、この新しい試みが希望の一石となることを期待する。

《参考記事》
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若松千枝加 留学ジャーナリスト


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