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「仕事を通しての自己実現」というフレーズ、一部に批判はあるものの、すっかり定着してしまったように思います。就活生と話をすると、自分を分析し、自分の軸・やりたいことを発見し、それをやらせてもらえる会社に就職できれば自己実現ができる、と考えている人が多いのに驚きます。たまたま私の周囲にそんな人が多かっただけならいいのですが、ネットなどで就活セミナーの情報を見る限り、そうではないように思えます。

本当に「仕事を通しての自己実現」を目指さなくてはいけないのでしょうか。仕事の目的は「自己実現」でいいのでしょうか。今回はそのことを考えてみたいと思います。

そもそも「自己実現」ってなんだろう?

「自己実現」とは元々、心理学用語です。欲求5段階説の提唱者であるアブラハム・マズローによって理論化されました。欲求の5段階とは、低次から「生理的欲求」「安全の欲求」「所属と愛の欲求」「承認の欲求」「自己実現の欲求」5つです。
五段階欲求

この理論では、人間は人生に究極の目標を定め、その実現のために努力する存在であると想定します。自分の中にある可能性を最大限に開発し実現して生きることが最高次の欲求、つまり「自己実現」だと理論付けしました。

私はこの考え方自体に違和感はありません。人生において「自己実現」を目指すことは悪いことではありません。しかしそれは、仕事を通して求めるべきものなのでしょうか。あるいは、「消費を通しての自己実現」「趣味を通しての自己実現」を目指してはいけないのでしょうか。

仕事は誰に向かってやることなのか

本来から言えば、仕事をする人に「生きがい」や「働きがい」を与えるために仕事があるわけではありません。社会が必要とするから、その仕事の成果を必要とする人がいるから、仕事があるわけです。

つまり、他人が求める目標や目的に沿って価値を提供する。そしてその対価をいただく。これが仕事を考えるうえではずせない原則です。

ところが「自己実現」を優先してしまうと、意識が自分に向いてしまいがちになります。自分の「これがしたい」が仕事を進めるうえでの指針になってしまいます。これでは仕事における優先順位をはき違えている、といわれても仕方がありません。

元マイクロソフト営業部長の田島弓子さんが、近著『「頑張ってるのに報われない」と思ったら読む本 』の中でこう語っていました。
仕事をするうえで目指すべきは「自己実現」ではなく「他己実現」です。(p32)

仕事で成果をあげたいのなら、一旦「自己実現」という言葉は忘れましょう。「他己実現」のために全力を尽くすのが仕事というものです。

「仕事で自己実現」など考えず、仕事を生活の糧と考え、「生理的欲求」「安全の欲求」を満たすためにするのだと割り切ることも決して間違っているわけではありません。人類は長い歴史の中のほとんどの期間、「安全の欲求」を満たすために仕事をしてきたのだと言っても過言ではありません。

さらに他人から期待されることに応え、社内に居場所を作ることで「所属と愛の欲求」を満たし、成果を認めてもらうことで「承認の欲求」を満たすことができれば、仕事の報酬としては十分だと考えることもできるのです。自己実現は、仕事以外のことを通して追求することも可能なわけですから。

なぜ仕事を通じての自己実現を目指してしまうのか

子供のころ「将来の夢」について考えさせられたり、発表させられたりします。このとき、「将来なりたい職業」を発表するということが暗黙の了解になっていなかったでしょうか。「プロ野球選手」「パイロット」「弁護士」など具体的な職業名をあげることが推奨されます。私が高校時代に思い描いた「山中に庵を結び読書三昧の生活をする」などということは、当然ながら排除されてしまいます。

就活の時期が来ると、各種セミナーで「自分のやりがいを感じられる仕事」「仕事でなにを成したいのか」ということを考えさせられます。さらに企業側も面接で「入社したらなにをしたいですか?」という質問を用意しています。こうした過程を経て、多くの人は「仕事に生きがいを見出すのだ」「仕事を通しての自己実現」をしなくてはいけないことだと刷り込まれてしまうのではないかと思います。

しかし、いったん立ち止まって考えてほしい。どんな人も、多かれ少なかれ、やりたいと思っていることが変わっていく、ということを。子供のころの夢を就活の時点で変わらず持ち続ける人は少数派でしょう。そうだとするならが、20代前半で描いた夢もまた、これから変わる可能性が高い、と考えておく方が自然です。

よく自己啓発書などに「仕事で成功を収めている人で、嫌いなことを仕事にしている人はほとんどいません。」などと書かれていますが、その仕事を最初から目指していたかどうかは人によります。おそらくは、そうではないでしょう。目の前の仕事をやっていく中でやりがいを見出したり、あるいは、以前は思いもつかなかったこと目指すようになったりして、その仕事をしています。

ですから、20代、就活時点や入社数年の間は、「仕事で自己実現」などと思い詰めず、目の前の仕事に全力を尽くすことを考えたほうがいい。長い目で見ればそのほうが「仕事での自己実現」への近道になり得ると思います。

それでも仕事を通して「自己実現」を目指すなら

自己実現とは「自分の中にある可能性を最大限に開発し実現していく」こと、仕事の本質が「他己実現」、だと考えれば、仕事を通して自己実現していく道はこれしかありません。

「『他己実現』のために、自分の中にある可能性を最大限に開発し実現していく」

「自己実現」を「私は企画の仕事がしたい」とか「デザインの仕事しかない」などと具体的な業務として考えるのではなく、まずは、上司やお客様といった他人を喜ばせたり楽しませたりするために自分を活かす、と考えてみましょう。

そして最終的には、「企業理念を実現するために自分を活かす」ことを目指しましょう。企業という組織が「自己実現」すべき理想・目的を示したものが「経営理念」だといえます。

この理念を達成するために自分は何が貢献でいるのか、自分の得意なことをどう活かすことができるのかを考える。会社の大きな目標・目的と個人の目指すものを重ね合わせ、その理念を実現していくプロセスの中で自己実現を考えるようにするのです。デザインをしないと私じゃない、とか、企画の仕事じゃないと私は活きない、などと思い詰めないほしい。それでは世界を狭くするだけだし、自己実現は逆に遠のきます。

もちろん、留保すべき条件はあります。それはその企業がお題目で企業理念を掲げているのではないこと。本気で、自社の理念に基づいて企業活動を行っているというのが条件です。

企業理念をしっかり掲げ、それを組織に浸透させる努力を怠らず、その理念に基づき社会的な課題の解決を目指しているような企業であれば、その中で努力していくことで自己実現への道は見つかるはずです。

《参考記事》
【読書】「頑張ってるのに報われない」と思ったら読む本
【読書】おかげさまで、ご紹介で営業しています。
「従業員満足」で企業業績は上がるのか? 

中小企業診断士 中郡 久雄


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