0203bde2

今日はクリスマスイブ。恋人たちにとっては大切な日である。デートの約束をして、ディナーの予約を入れているカップルもたくさんいることであろう。しかしながら、こんな日に限って、もし上司から「キミ、今日は残業してもらうよ。」と言われてしまったら、一体全体どうすれば良いのであろうか。

残業命令の法的な意味合い

このような話題が議論される場合、ネット上の掲示板などでは、ややもすると感情的な議論になってしまう場合もあるが、本記事では法的な観点から冷静に考えていくことにしよう。

まずは、そもそも会社が従業員に対して残業を命じることができるのか、ということからだが、労働基準法第32条2項によると、「使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。」と定められている。そうだとするならば、例えば始業時間が午前9時の会社ならば、昼休みの1時間を挟んで、午後6時で実労働時間が8時間になるので、終業時刻は午後6時を超えてはならないはずだ。

しかし、多くの会社で日常的に残業が行われているのは周知の事実だ。残業が合法になる根拠は、労働基準法第36条である。条文が長いので引用はしないが、会社が従業員の過半数代表者と労使協定を結べば、1日8時間(1週間では40時間)を超えて働かせてもよい、というルールになっている。

すなわち、その会社で残業をすることについての労使協定が締結されていて、就業規則や雇用契約書にも、「使用者が命令をした場合は残業をしなければならない」といった内容の規定があったならば、会社の残業命令は合法かつ有効なものとなり、クリスマスであろうが彼女の誕生日であろうが、原則として従業員は残業命令を拒否することはできない。

残業命令を断ったらどうなるのか

それにもかかわらず、「私は恋愛至上主義派ですから、彼女とのデートを優先します。お先に失礼します!」と、会社から指示された命令を無視した場合、どうなってしまうのだろうか。

結論から言うと、「懲戒」を受ける可能性が高い。皆様ご自身がお勤めになっている会社の就業規則を見ていただくと、おそらく、「賞罰」とか「懲戒」とか書かれた章があるかと思う。そこで列挙されている懲戒事由の中に「正当な理由無く会社の業務命令に従わないとき」というような内容の記載が見つかるはずだ。残業命令も勿論、会社の業務命令のひとつであるから、これを拒否した場合、通常の会社の就業規則に基づくならば、初回であれば譴責(始末書)や減給、度重なる場合には懲戒解雇や諭旨解雇の処分が下されることになろう。

残業命令を断ることができる場合

では、会社から残業を命じられた場合は、いついかなる場合であっても、断ることはできないのであろうか。原則としては断ることはできないのだが、原則に対して例外はつきものである。大きくまとめると、断ることができる場合は3パターンあると考えられる。

1パターン目は、残業命令自体が違法な場合だ。例えば、労使協定も結ばれておらず、就業規則にも残業をさせる旨の記載は何もないにもかかわらず、会社側が法的な手続を無視して残業命令を発するような場合、あるいは、法律で定められた残業手当を支払わないのに残業をさせるといったような場合だ。

このような違法な残業命令は当然、法的に無効なものとなり、無効な残業命令を断ったことに対して会社は懲戒をすることもできない。だから、このような会社で大切なクリスマスイブの日にまでも残業を命令されたなら、堂々と残業を断れば良い。もちろん、断ったら今後働きづらくなるかもしれないとか、その気持ちは理解できる。しかし、自分の人生をそこまで会社に好き放題されて我慢するのが正しいことなのだろうか。今年だけでなく、来年も、再来年も、同じように我慢するのだろうか。従業員が必要なときには戦う姿勢を見せなければ、言葉は悪いが、会社からの「搾取」が収まることはない。

2パターン目は、労使協定が結ばれ、残業代がきちんと支払われている場合であっても、残業命令の内容が「権利の濫用」に該当するような場合だ。

例えば、単なる嫌がらせ目的だけで残業を命じるような場合である。極端な例であるが、「彼女のいない歴=年齢」の上司が、キムタク似のイケメンの部下をひがんで、クリスマスイブのデートに行かせないためだけに12月24日の夕方になって、「これから徹夜で書庫の整理をしよう!」とか、全く緊急性の無い理由で残業を命じるような場合をイメージすれば良いであろう。

このようなケースでは、民法第1条、民法第90条、労働契約法第3条などで定められた私法の一般原則、すなわち、信義誠実の原則や、権利濫用の禁止に違反するものとして、残業命令は法的に無効となる。

3パターン目は、真に会社側にも必要性があって残業を命じる場合だが、部下にも残業を断る正当な理由がある場合だ。このようなときは、会社側の事情と、労働者側の事情を比較考量して、労働者側の事情のほうが重要性が高いと考えられる場合は残業命令を断ることが出来る。その根拠は、雇用契約に付随する会社側の義務のひとつとして、会社は従業員の私生活にも配慮すべき義務を負っていることに求められる。

例えば、クリスマスイブの日に、重要顧客からの緊急かつ重大なクレームが入った場合を想定しよう。このクレームには全社員総力で対応しなければ、会社にとっては致命傷になりかねないという状況である。このようなときは、たとえクリスマスイブにデートの予定があったとしても、会社の残業命令が優先されるのは当然だ。

しかし、ある従業員にとっては、そのデートが単なるデートではなく、「クリスマスイブの機会にプロポーズをして婚約指輪を渡そうと考えていて、レストランとも入念な打ち合わせをしていた」というものであったならば、当該従業員の人生にとっての一大イベントであるから、この従業員に関してはデートを優先させ、それ以外のメンバーでクレーム処理に当たるべきであろう。

従って、タイトルの命題に答えるとするならば、会社の残業命令が法的に違法なものなら断ることができるが、合法的な根拠に基づいて行われ、残業命令の目的も正当ならば、原則として断ることはできない。しかし、クリスマスイブのデートが人生において重要な意味を持つものであれば断ることができる余地はある、というのが結論となろう。

最終的に大切なのは「配慮」

しかしながら、残業をするしないは、ギスギスした法律論を振り回すよりも、会社と従業員、お互いが配慮しあって、話し合いによって円満に調整をつけ、着地点を見出すことが望ましいのは言うまでもない。

社会一般の感覚として、クリスマスイブの夜は、独身の従業員はデートの予定がある者が少なくないであろうし、既婚者の従業員も家族でクリスマスを祝いたいと考えているはずである。だから、このような日は会社としては定時で仕事が終わるよう配慮をすべきであろう。

そうすることで、従業員の会社に対する信頼度、満足度も上がり、日常の業務に対するモチベーションのアップや、従業員定着率のアップにもつながるであろう。従業員への配慮は、会社にとっても間違いなくポジティブな影響があるはずだ。

《参考記事》
偽装請負の被害者にならないために知っておきたい最低限のこと ~ダンダリン第9話の補足
美容師さんが夜遅くまでカット練習しているのはサービス残業なのか? ~ダンダリン第8話の補足
労災保険で通勤災害の認定を受けたければカフェではなく牛丼屋に寄りましょう。 ~ダンダリン第7話の補足
退職したら損害賠償で訴えるぞ!は法律上の根拠があるのか単なる脅し文句なのか? ~ダンダリン第5話の補足
女子大生が妊娠したら内定を取消されるって本当!? ~ダンダリン第4話の補足

特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵


この執筆者の記事一覧
このエントリーをはてなブックマークに追加



関連コンテンツ

シェアーズカフェからのお知らせ
シェアーズカフェでは住宅・保険・投資・家計管理など、個人のお金に関するレッスン・相談・アドバイスを提供しています。SCOL編集長でFPの中嶋が直接指導します。
シェアーズカフェ・オンライン編集長の中嶋が士業・企業・専門家向けの執筆指導・ウェブコンサルティングを提供します。

執筆者プロフィール