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就職情報会社のダイヤモンド・ビッグアンドリードが先月29日に2015年卒業予定の大学生の就職人気企業ランキングを発表したが、そこには、住友商事、東京海上日動、日立製作所など、名だたる大企業の名前がズラリと並んでいる。

このようなランキングを見て、「相変わらず大企業志向で足元が見えていない。」とか「学生のミーハーさには困ったものだ。」とか、外野からの野次が聞こえてきそうだが、学生が大企業志向になるのは、単なるミーハーではないと私は思っている。

学生を擁護するわけではないが、大企業に就職した場合と中小企業に就職した場合で、会社員生活にどれくらい差が出るのかを、社会保険労務士ならではの視点も踏まえながら紹介したい。

尚、最初に断っておくが、本稿は決して中小企業を卑下する意図はないし、また、かなり話をステレオタイプ化して展開していることを予めご容赦いただきたい。


初任給は同じでもプラスアルファに大きな差

まずは給与面の話だ。外資系の会社や実力主義を徹底している一部の会社を除き、東証一部上場の大企業であれ中小企業であれ、大卒の初任給はさほど変わらない。20万円程度の会社が大半である。

しかし、「可処分所得」で見ると話は大きく変わってくる。その代表例は住居費である。大企業ではダタみたいな費用で入れる独身寮や、「借上社宅」として5千円とか1万円とかを払えば、数年間は会社の負担でマンションなりアパートなりに住めるような制度を持っている会社が少なくない。多くの人にとって住居費は毎月の最も大きな負担であるから、独身寮や借上社宅があるのとないのとでは、可処分所得に天と地ほどの差が生じることは火を見るより明らかであろう。

また、労働組合が強い大企業であれば、時間外労働に対する法定の割増賃金が2割5分であるにも関わらず、労働協約によって割増賃金が3割とか3割5分に引上げられていたりもする。製造業系の大企業ならば昼夜の交代勤務に従事すれば、「交代勤務手当」なるものが、深夜や時間外の割増賃金とは別に、さらに上乗せされて支給されることも珍しくない。

このように、表面的な初任給は同じでも、そこに加わる「プラスアルファ」の手厚さが、大企業と中小企業では大きく異なるわけである。

さらに、入社後の昇給率も大企業と中小企業では徐々に開きが出てくる。初任給だけでなく、会社全体の平均賃金や、30歳時賃金、40歳時賃金なども比較してみればその傾向が分かるはずだ。

大企業は健康保険もプレミアム

次に大企業と中小企業で差で注目したいのは、健康保険である。

中小企業の社員の多くは政府管掌の健康保険に加入して、法律通りの保険給付しか受けることができない。これに対し、大企業であれば自社で健康保険組合を持っているので、同じ健康保険であってもワンランクもツーランクも上の保険給付を受けることができるようになっているのだ。

例えば、私傷病で会社を休んで収入が無くなったとき、健康保険からは「傷病手当金」というものが支給されることになっているのだが、政府管掌の健康保険の場合は標準報酬日額(日給相当額)の3分の2が最大で1年6ヵ月支給される。これが法律上のミニマムスタンダードだ。しかし、トヨタ自動車の健康保険組合の加入者であれば、なんと、標準報酬日額の80%が最大で2年6ヵ月も支給される。その後さらに6ヵ月間、標準報酬日額の40%が支給される。つまり、トータルで3年間も傷病手当金を受け取れるということなのだ。政府管掌の健康保険に比べ、何という手厚さだろうか。

さらに、トヨタ自動車の健康保険組合では、不妊治療に対する助成金の支給など、政府管掌の健康保険にはそもそもメニュー自体が無いような給付まで用意されていて驚くばかりである。

退職金でセカンドライフにも差

退職金についても大きな差が出る。中小企業の場合でもさすがに退職金すら無いという会社は少ないが、明確な退職金規程が存在せず、中小企業退職金共済で積み立てた金額がそのまま退職金であったりとか、社長の胸先三寸で退職金の額が決まったりとか、支給されるまで自分の退職金の額が分からないことも珍しくない。支給される金額も、定年まで勤めて1000万円を超えれば御の字、というあたりが相場ではなかろうか。

これに対し、大企業では就業規則の一部として退職金規程が整備されていて、自分が何年勤めて、どのような評価を受けたら、いくら退職金がもらえるのか、おおよそ検討がつくようになっている。さらに、一時金として受け取る退職金だけではなく、確定給付年金や確定拠出年金、厚生年金基金といった、年金形式の退職給付も用意されている会社が少なくない。退職関連給付の総支給額は2000万円~3000万円程度が平均的な大企業の水準であろう。定年まで勤め上げることを前提で考えるなら、大企業に就職するか中小企業に就職するかで定年後の人生設計まで大きく変わるのだ。

大企業は福利厚生も手厚い

福利厚生制度の充実度も大企業と中小企業では異なる。企業の体力に差があるからだ。

代表的なのは休職制度の手厚さの差である。「休職」とは、私傷病などで社員が労務を提供できない場合、一定期間労働の義務を免除して解雇を猶予するための制度だ。これは法律上のものではなく、企業が就業規則などで任意恩恵的に設けている制度である。

中小企業では、このような休職制度すらなかったり、あったとしても数ヶ月で休職期間満了だったりする。これに対し大企業では年単位での休職を認めている会社も多い。病気による休職だけでなく、「ボランティア休職」など、自己啓発のための休職を認めている会社さえもある。

各種休暇制度についても同じことが言える。大企業では、有給休暇に加え、慶弔休暇、罹災休暇、リフレッシュ休暇など、様々な休暇制度が存在している。しかし、中小企業では、有給休暇すら(事実上)使えない社風の会社も少なくない。

社員教育の差がその後の職業生活にも影響

社員教育についても、私は大企業に分があると考える。大企業の場合は、充実した新入社員研修があって、それこそ名刺の渡し方から電話の取り方まで、先輩社員やビジネスコンサルタントなどが丁寧に指導をしてくれる。私自身も、上記のような基礎に加え、報告書や企画書の書き方、プレゼンテーションの仕方、チームワークの大切さなど、新卒で入社した大手企業で社会人としてのベースを叩き込まれた。それが土台になり、今でも大きな力となっている。

これに対し、中小企業の場合は、新入社員がいきなりビジネスの最前線に実戦投入されるケースも少なくない。座学は机上の空論に過ぎないからOJTをしてナンボだ、という考え方も一理あるかもしれないが、相手は社会人として右も左も分からない新卒ホヤホヤである。一部の優秀な者はOJTから学び取って成長するであろうが、少なからずの者が、成長する前に潰れて退職してしまう可能性が高い。そうなると、社会人としての基礎が身に付かないまま転職市場に放り出されてしまい、非正規雇用や長期失業状態に甘んじてしまうことにもなりかねない。

そういう意味では、全ての大企業がそうだとは限らないが、大企業に入社して丁寧な新入社員研修のプログラムを受けることができれば、その会社で勤め上げるにせよ、転職や独立をするにせよ、新入社員研修の成果は自分にとって貴重な財産となることは間違いないであろう。

中小企業は解雇されやすい

解雇について言えば、裁判所は大企業と中小企業で差をつけている傾向が見られる。ざっくばらんに言えば、中小企業の社員は大企業の社員に比べ解雇の正当性が認められやすいのだ。

例えば、協調性がなく組織の和を乱したとして解雇された元社員が、解雇無効の訴訟を起こしたとしよう。中小企業であれば、「中小企業は少人数のチームワークが必要不可欠だから解雇は合法」(元社員側敗訴)という判決が出る事例であっても、大企業であれば、部門や支社がたくさんあるので、配置転換や再教育の余地があったはずだとして、解雇は無効との判決(元社員側勝訴)の判決がでることも珍しくない。

つまり、大企業の社員は何だかんだ言って、解雇されにくいというわけだ。近年は、リストラ部屋とか早期退職勧奨とか大企業でも安泰ではなくなってきているが、本人が退職に同意しなければ、よほどのことが無い限り指名解雇はされない。

社長になれるか

今は価値観が多様化しているので一概には言えないが、サラリーマンにとって究極の夢は社長になることであろう。ところで、新卒の大学生が三菱商事に入社した場合と、某中小企業に入社した場合、どちらか社長になれる可能性が高いであろうか。

答えは三菱商事である。勿論、超エリートが集う総合商社の中で、ハードな出世競争を勝ち抜かなければならないわけだが、勝ち抜けば自分の努力で社長の椅子を掴むことができるかもしれない。社長にはなれなくても、専務や常務になれる可能性もある。

しかし、中小企業の場合、多くは社長=オーナーである。オーナーである社長自身が引退したり亡くなったりしない限りは社長であり続けるし、社長の息子が次期社長であるというのが多くの場合、既定路線だ。一般社員にしてみれば、資本関係という自分の力ではどうしようもない壁が立ちはだかっているのだ。取締役の多くも社長一族である。すなわち、一般社員は、社長の娘と結婚して婿養子にでもならない限り、残念ながら社長になることはできないであろう。

結び

仕事を選ぶには、やりがいとか面白さとか、様々なファクターがあるので、企業規模や待遇だけで就職先を選ぶものではない。だが、何故これほどまでに学生の間で大企業志向が強いのかというのは、これだけの例を並べれば、単なるミーハーではないことが分かるのではないだろうか。学生もOBやOGから話を聞いたり、インターネットで調べたりして、情報収集をしているのである。ミーハーと言うより、むしろ堅実というべきなのかもしれない。

《参考記事》
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特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵


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