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大塚食品が正社員の25%もの希望退職を募るというニュースを耳にし、正直驚いた。「ボンカレー」や、レンジでチンするフライドポテトの「マイクロマジック」など、私自身、子どもの頃から親しんできた商品を扱っている会社であるし、大塚グループ全体では、ポカリスエットやオロナインなど数々のヒット商品を抱えている。そのような会社が何故、かくも大規模な人員削減を行おうとしているのか疑問に思ったのだ。

大塚食品の置かれている状況

人員削減の背景を確認するため大塚食品のホームページを調べてみると、会社からの人員削減に関する公式なプレスリリースは3月2日現在確認できなかったが、過去数年分の財務諸表を見つけることができ、直近の2013年3月期の決算では約15億円の純損失を計上していることが分かった。自己資本比率も10.6%まで低下しており、数字上は厳しい経営環境に置かれていることを感じ取った。

考えてみれば、確かに、近年、食品業界ではスーパーやコンビニなどがプライベートブランドに力を入れ、低価格化や競争の激化が進んでいる。

人員削減をスクープしたニュース記事も、競争の激化が人員削減の背景であろうと論じていた。

親会社、大塚ホールディングスの状況

以上のような状況を鑑みると、大塚食品のリストラはやむなし、と考えられるかもしれない。

確かに、社員を25%削減すると頭数では190人の削減になるので、1人当りの年間人件費を福利厚生も含めて1,000万円と仮定すると、19億円の収益改善効果となり、赤字は解消される計算である。

しかし、大塚食品は持株会社である大塚ホールディングスの実質100%子会社だ。グループ全体で見ると、大塚ホールディングスは2013年3月期、実に1,224億円もの当期純利益を計上している。大塚食品の15億円の赤字がグループ全体の純利益に対し影響を与えているのは、僅か1%少々に過ぎない。また、大塚ホールディングスは連結で1.3兆円もの自己資本を有している。

グループで見れば有り余るほど経営体力を有する会社が、1%の利益と引き換えに190人もの社員とその家族を路頭に迷わせることは、果たして正義と言えるのだろうか。

偶々グループの中の不採算事業を受け持ってしまった大塚食品という単一の会社をスケープコードにせず、グループ全体で経営の効率化や要員の再配置、商品のテコ入れなどを考えれば、人員削減を回避することはできないのであろうか。

会社は営利社団法人であるから利益を追求するのは当然である。しかし、会社は社会の公器という一面も有しており、雇用を維持するというのも、重要な社会的使命の1つではないだろうか。私は、とくに日本企業においては人員削減は本当に最後の伝家の宝刀にすべきであると考えている。その理由は以下の通りだ。

実質的な賃金未払い

大塚食品の今回の人員削減は、40歳~60歳の社員に対して希望退職を募る形で行われるとのことであるが、中高年層に対するリストラは、ある意味、日本的雇用契約に対する信義則違反とも考えられるのではないだろうか。

なぜならば、典型的な日本企業では、新入社員は初任給20万円程度からスタートし、入社後の右も左も分からない数年間はともかくとして、20代後半~30代の間はアウトプットに対し相対的に低い給料で働いている。40代、50代で年齢とともに給料がアップし、定年までの40年トータルで見ると自分の働きに対してプラスマイナス0になるというのが日本的モデル的賃金体系だ。「後で楽できるから若いうちは頑張れ!」というのは、終身雇用に付随する「暗黙の掟」だったのではないだろうか。

現在は終身雇用の崩壊が既知のこととなり、このような考え方は随分薄まってきているが、今回の人員削減の対象となっている中高年社員は、若かりし日々、終身雇用を信じて相対的な低賃金での労働を受け入れてきたはずだ。それが、ようやく回収期間に入ったら「サヨナラ。」では納得ができないのは無理もない。

もちろん、明らかにアウトプットが低い社員は年齢に関わらずリストラされても仕方ないが、ターゲットが全社員の25%かつ40歳~60歳ということになると、中高年社員の半分は人員削減の対象となるであろうから、もはや個人個人のパフォーマンスだけの問題ではないであろう。

日本的社員は再就職が困難

希望退職に応じた中高年社員の再就職は困難である可能性が高い。なぜならば、一般的に大企業の社員は専門性が育ちにくいからだ。従来、日本企業では終身雇用の見返りとして、社員は会社が求める配置転換や転勤などに応じてきた。新入社員として入社したときも、会社から指示された部署に着任したはずだ。終身雇用を信じ、自分の希望は二の次にして、会社に貢献できるゼネラリストを目指してきたのだ。

それにも関わらず、突然、40代、50代で再就職先を探せ、ということになると、根本的に人生設計を見直さなければならないのだから、その苦労は計り知れない。

「あなたの努力が足りないから再就職できないのだ」と、一方的に中高年社員を責めることはできないと私は思う。我が国は、欧米のように自分の専門性を生かして会社を渡り歩く文化がある社会とは異なるからだ。「専門性」という言葉をあえて使うなら、彼らは自分の勤務先である「大塚食品の社員」としての専門性を磨くことに十分な努力をしてきたはずだ。それが、道半ばで無に帰そうとしているのである。

社員の会社愛を尊重すべき

日本企業は社員の優しさに支えられていることも忘れてはならない。諸外国においては、会社と社員の関係は「契約」に基づくものと考えられており、会社が契約違反をすれば社員から訴えられるのが当然だ。ドイツの労働裁判所では年間40万件、フランスの労働裁判所では年間20万件もの雇用に関わる訴訟を扱っている。

これに対し、日本で労働審判が行われているのは、年に3千件前後に過ぎない。労働者人口は日本のほうがはるかに多いのに、訴訟件数は100分の1程度なのである。それだけ日本人は自分の勤務先に愛着を持ち、自分の権利よりも会社のことを大切に思っているということである。だから、会社も可能な限り社員に対して愛を持って応えるべきではないだろうか。

結び

大塚食品の経営陣も色々と考えた末、人員削減に踏み切ることを考えたのであろうが、今回の人員削減は会社側の目線からしても負の影響が懸念されると私は考える。

大塚グループには百社以上の子会社・関連会社があるが、大塚食品の大リストラを見たグループ会社の社員は、「うちの会社ももし業績が悪くなったらバッサリやられてしまうのかな。」とか「最後は会社は守ってくれないんだな。」とか「大塚グループとして助け合えないんだな。」とか、そういった印象を持ち、愛社精神やモチベーションも下がってしまうのではないだろうか。

今すぐ大塚食品を何とかしなければ大塚グループの屋台骨が揺らぐような場面ではないし、大塚食品自体も、決して箸にも棒にもかからない会社ではなく、売上ベースでは600億円近くあり、ボンカレーなど知名度のある商品を有している会社なのだからなおさらである。

このままリストラを進めれば、大塚ホールディングスの連結決算書に1%の利益の上乗せをすることはできるかもしれないが、そのために失うものの大きさにも想いを巡らせるべきではないだろうか。

《参考記事》
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特定社会保険労務士・CFP
榊 裕葵


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