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平成27年からの相続税の実質増税の影響もあり、事業承継でも、財産の相続が注目されがちです。でも、実は事業承継で本当に大変なのは、親子間、親族間ならではの想いが渦巻く“ドロドロ”。回避するにはどうしたらいいのでしょうか。

承継は起業よりも恵まれてはいるけれど

前回は、経営理念に共感して事業を引き継ぐことが大事だという話をしました。変化の激しい経営環境で事業継続してきた中小企業の経営理念は、いわばその企業の「生き残り哲学」といえるもの。起業してたった1年で3割前後の事業主や会社が消えてなくなる中、事業を立ち上げその後継続するのは並大抵のことではありません。経営者の意思決定や行動の基準となってきた重要な基盤です。

承継は、こうした経営理念に支えられてきた実績など、最初から継続するための事業基盤と経営資源がある点で、起業より恵まれていると言えるでしょう。ただしこうした「財産」があるがゆえ、先代経営者を中心とした関係者が数多くすでに存在していることが承継特有の難しさ。ここをクリアできるかどうかが、承継がうまくいくかどうかのポイントになります。

王道はない。先代との徹底的な討論と早めの準備を。

承継の難しさをクリアするポイントとなるのが、「そのまま引き継ぐのではなく、先代と徹底的に経営、特に経営理念について討論してから」引き継ぐということです。引き継ぐ側が、先代ととことん経営理念について討論して(親子喧嘩になることもあるでしょう)、これまでの経営理念を活かしていくところ、承継に当たり変革すべきところをクリアにして双方が納得すれば、承継する側もその後の事業継続のためにまい進することができるのです。

過去に受けた事業相談で、実際に目の前での親子喧嘩に遭遇したことがあります。承継を考えてコンサルタントを呼んだ場面で、「娘夫婦の言うことを聴いていると安心して事業を任せることができない」と不安をもらす経営者の父。一方、「改革したい分野があるのにそれに反対してくる父親は、結局譲りたくないのだ」と思って不信感を訴える娘夫婦。家族だからこそ、それぞれが本音を言えずにきて不満をためてしまった事例です。

たとえ大喧嘩になっても、引き継ぐ側は、親の事業に対する想いをしっかり受け止め、自分が受け入れられるところとそうでないところをとことん話しあう必要があります。承継する親が安心して子どもに継がせる、ということを会社の内外に示せない状況では、承継した後、周りの事業関係者にも不安感を与え、事業経営そのものに大きく影響してくることもあるからです。

また、突然の経営者の不幸によって、目の前に承継が「降ってくる」場合もあります。このケースでは、祖父が事業を興して軌道に乗せるまでの苦労話を祖母が後継者となった孫娘に共有することで、事業承継がスムーズにいっています。ファミリービジネスであるからこそ、当時の大変な創業の“想い”を理解しているのは経営者だけではない。当時の家族も充分それを後継者にシェアすることはできるのです。

えてして、人は大きな変化を望みませんし、変化にはなかなかついてきません。任せようとする側は、自分が立ち上げて育ててきた大事な事業を「今」任せてよいのかどうか、そして、娘や息子に本当に任せられるのか、不安に思っているものです。逆に息子や娘は、それまでの親の経営を見ていて「自分ならもっとこうするのに」と思い、周りが期待しているケースもあるでしょう。お互いが本心をぶつけて「どんな経営をしていきたいのか」の意思確認をしなければ、この溝を埋めることはできず、したがって承継もうまくいきません。

承継をドロドロなものにしないために、王道はありません。とことん納得するまで話し合うこと、しかも、早いに越したことはありません。自分の人生を全うした後も事業を後世に残したい経営者は、承継を実際にする時期よりもずっと早くから話を始めるべきですし、自分が後を継ぐのかな・・・と思っている後継者候補の娘や息子の側からも、積極的に経営者にアプローチする必要があります。

承継への道は続きます。

《参考記事》
承継シリーズ 社長になる女性の最初の心得  小紫恵美子
大塚食品が1%の利益と引き換えに25%もの社員を削減するのは正義と言えるのか? 榊 裕葵
女性活用 - 「女性だから」と「上げ底」は違う 岡田ひろみ
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小紫恵美子  中小企業診断士 


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