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まもなく新社会人としてのスタートを切る大学4年生は、期待もあり、不安もありという気持ちで最後の春休みを過ごしているのではないだろうか。社会人として身につけなければならないスキルは様々あるが、きちんとした「報・連・相」ができることはビジネスマンとして大きな武器になるし、それができれば学歴や専門性の有無に関係なく評価される新入社員になれると私は考えている。

報・連・相とは

報・連・相とは、「報告・連絡・相談」を指す言葉であることを知らない人はいないであろうし、また、仕事においてが重要なものであることも理解をしていると思う。

だが、頭で分かっていても、ビジネスの現場における「報・連・相」は意外に奥が深いものである。ビジネス書を読んでも具体的な説明が不足しているものも少なくないので、私自身のビジネスマンとしての経験も踏まえ、実務で役立つ「報・連・相」のコツをご紹介したい。このコツを頭に入れていただけば、同期の中で頭一つ抜き出ることが可能である。

報告のスキル

まずは「報告」である。報告とは、自分の任せられた仕事につき、その進捗状況や結果を上司へ説明することだ。

報告をするときには次の4つのポイントを外してはならない。

第1のポイントは、「結論から先に言うこと」である。良い内容の報告の場合はともかく、悪い内容の報告の場合は、結論の前に理由を説明したくなるのが人情であろう。他人の責任によるものならばなおさらである。しかし、理由はどうれ、その仕事を頼まれているのは自分なのだから、まずは結果を伝えなければ上司には全てが言い訳に聞こえてしまう。理由を述べるのは、上司から「何故、そのような結果になったのか?」と聞かれた後である。

第2のポイントは、「事実と私見を切り分けること」である。例えば、お客様に納品した品物の数量が1つ不足していて、自分がクレームの電話を受けたとしよう。そのときお客様が「足りないのは1個だから追納はしなくても良いですよ。」と言って電話を切ったという場面をイメージしてほしい。

このとき、自分が上司に報告すべき「事実」は、「納品した品物が1つ足りなくてクレームの電話があり、追納の必要は無いと言われた。」ということだ。決して、「納品した品物が1つ足りなくてクレームの電話を受けたが、お客様は特に怒っていませんでした。」という報告をしてはならない。怒っていないと感じたのは自分の「私見」であり、確認された「事実」ではないからである。

実は、お客様は大いに怒っていて、「追納の必要は無い」と言った言葉の裏には、「もうあなたの会社からは1つたりとも商品を買いたくない」というニュアンスが含まれていたのかもしれない。そうなった場合、あなたが正確な報告をしなかったせいで、上司はお客様へお詫びの電話や訪問をする機会を失い、取引先を失ってしまうことにもなりかねない。

だから、まずは「事実」だけを客観的に正確に説明し、その説明が終わった後で、最後に「私はこう感じました」と私見を述べるようにすべきなのだ。新人のうちは意識的に行わなければ、自分でも気付かないまま無意識に主観と客観を混同してしまうことがある。

第3のポイントは「数字で伝えること」である。「たくさんのお客様が来場されました。」とか「損失は少額に留まると思います。」といった報告はビジネスの世界では許されない。「たくさん」や「少額」というのは人によって感覚が違うからだ。「およそ1000人のお客様が来場されました。」とか「損失は最大限に見積もって10万円です。」とか、誰が見ても客観的に捉えられる「数字」がビジネスの共通言語であることを認識しておきたい。報告は、可能な限り「定量的」に行うことを心がけよう。

第4のポイントは「時を逸しないこと」である。悪い内容ほど上司へ報告しに行くのが気が重いのは人間だから仕方のないことだ。しかし、ビジネスの世界では後送りすればするほど事態は悪化していくことが多い。どうせ怒られるのなら、今怒られるのがもっともダメージが小さいのだ、と割り切れば報告に行く勇気も湧いてくるであろう。

早い段階で報告して、事態の収拾をすることができれば、「迅速な報告してくれありがとう。」と、災い転じて福となる、ではないが、逆に上司から褒められ、信頼を得られるきっかけにもつながるのだ。

以上のポイントを意識すれば、上司に対してだろうが役員に対してだろうが、報告を恐れることはない。

連絡のスキル

報告が仕事の経過や結果を上司に伝える「義務的」な要素が強い行為であるのに対し、「連絡」は、「主体性」や「気配り」といった要素が強い行為である。

例えば、自分が製造業の会社で営業部門にいて、担当しているお客様との間で大口の商談を進めている場合を想定してみよう。

上司へ商談の経過を「報告」することは当然の義務であるが、できるビジネスマンは同時に、社内の関係者へ情報の「連絡」をすることを欠かさない。製造業の会社における仕事のプロセスは、「受注」⇒「材料手配」⇒「製造」⇒「納品」⇒「代金回収」という流れが一般的だ。だから、営業担当者が独断先行してしまうと、お客様の希望する納期に対して材料手配が間に合わなかったり、工場の負荷がいっぱいで受注をしても生産ができないというリスクがあることに常に気をつけなければならない。

それゆえ、営業担当者は、受注が決まる前の段階で、材料を手配する部門や製造を担う部門の関係者に対して、「今、このような仕事を受注することに向けての商談が進んでいる。」ということを情報として連絡すべきなのだ。あらかじめ関係者へ連絡が行き渡っていれば、資材部門は材料手配の調整を、製造部門は負荷調整を、それぞれ早い段階から検討することができるし、初めから調整が無理な状況ならば、お客様に迷惑をかける前にお断りをすることができる。

受注が決まった後、「やっぱり納品できません。」となってしまうのは最悪のパターンであり、そのお客様は、二度と仕事を出してくれないであろう。

仕事は自分1人で行っているわけではないし、自分の部署だけで行っているわけでもない。だからこそ、「連絡」が必要なのである。「連絡」が上手な人ほど円滑に仕事を進めることができることは間違いない。「社内でこの仕事には誰が関わっているのか」ということを考えれば、誰に「連絡」をすべきなのかも自ずから見えてくるであろう。

適切な連絡ができるようになれば、自部門だけでなく、他部門の人たちからも「あいつはデキる奴だ」と信頼してもらえるようになる。配属を希望していたが、適わなかった部署の上司に認められ、引き抜いてもらえるチャンスにもつながるかもしれない。会社の人事は自分の希望が必ずしも通らないのは当然だが、運命は、自分で切り開くものである。

尚、今回は製造業を例として説明をしたが、金融業であれ小売業であれ、考え方はまったく同じである。

相談のスキル

相談は比較的インフォーマルなコミュニケーションツールであり、形式も様々であるが、だからこそ報告や連絡よりも柔軟に活用すべきである。

少なくとも、仕事を進めていて、問題の発生が予想される場合は、できるだけ早い段階で上司に相談をしておくことをお勧めする。上司は自分より経験が長く、色々な事態に対処してきたわけだから、自分には八方塞りに思えるような事態でも、相談をすれば解決の糸口が示されることも少なくない。

それに、早い段階で相談をしておくことで、上司を「仲間」にすることができる。

問題が発生した後では、もはや「相談」ではなく、トラブルの「報告」になってしまうので、「何故もっと早く相談しなかったのだ!」と怒られるのがオチであろう。相談をすれば上司は「仲間」になってくれるが、相談をしなければ上司は「評価者」にしかならないということである。

そして、相談した結果トラブルが回避されて仕事が上手くいったならば、「課長の力添えがあったからこそ、商談をまとめることができました。ありがとう御座います。」と、感謝の気持ちを忘れないように。それは人間として当然のことであるし、そういう気配りを通じて、上司と部下の信頼関係が築かれていくものなのだ。上司と部下の関係が、「業務命令」と、それに対する結果の「報告」だけであったら、そこに心の通った人間関係は生まれない。「相談」こそが潤滑油になるのだ。

また、相談は上司の立場を慮って行うことが必要だ。「相談してみたものの冷たくあしらわれた」というような体験を聞くと、確かに上司に問題があるケースもあるが、相談の仕方が適切ではなかったというケースも少なくない。

例えば、「どうすればいいかわかりません。」と相談するのは上司に対して失礼ななことである。自分では全く努力をせず、考えることを上司に丸投げしているからだ。会社は学校ではないのだから、これでは冷たくあしらわれても仕方がない。「自分なりにここまでは考えましたが、この点が分かりません」とか「A案とB案を考えましたが、どちらが適切でしょうか」といった形で相談をするのがビジネスシーンにおける「相談」の最低限の礼儀である。

相談するタイミングも、自分の都合で相談するのではなく、上司の立場に立って考えなければならない。上司の仕事が一段落しているタイミングを見計らって相談に行ったり、いきなり本題を切り出すのではなく、「ご相談したいことがあるのですが、何時頃ならご都合宜しいでしょうか?」と、忙しい上司に気を遣って相談を持ちかけるべきだということである。

このように、相手に気持ちよく相談に応じてもらえる段取りをつけるのも立派なビジネススキルのひとつなのだ。

結び

「報・連・相」をきちんと行うことができれば、上司や同僚からも信頼が得られ、職場の人間関係も円滑になる。信頼が得られれば、大きな仕事や重要な仕事もどんどん任せてもらえるようになっていくのは必然だ。逆に、どんなに立派な学歴や専門性を持っていても、職場の中で孤立してしまっては良い仕事ができるはずはない。

大きな仕事、重要な仕事を任せられれば、ビジネスマンとしての経験を積み、スキルを伸ばすことができる。仕事の中で成長して、その会社だけでなく、どこに行っても通用する人材になることができる。

逆に、上司からの信頼が得られず、いつまでも雑用的な仕事ばかりしか与えられなければ、厳しい言い方になるが、年齢とともにリストラ要員のリスクが高まっていくだけだ。年相応のスキルも身に付かないから、本当にリストラされてしまった場合、転職も絶望的であろう。

結局のところ、1つの会社の中で順調に出世していく人や転職でキャリアアップできる人と、転職するごとにキャリアダウンしていく人の差は、最も根本的なところでは、「報・連・相」のスキルに尽きるのではないか、と私は思っている。

だからこそ、新入社員の皆さんは、「報・連・相が自分の未来を切り開くんだ!」というくらいの気持ちで、職場の中で良いコミュニケーションを築いてほしいのである。

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特定社会保険労務士・CFP
榊 裕葵

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