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配偶者控除の廃止が議論されています。この議論は何年も前から出ては消えてを繰り返していますが、今回はいよいよ廃止される可能性が濃厚になってきたようです。配偶者控除とは何なのでしょうか。そして廃止された際の影響はどうなるのでしょうか。

今回はご夫婦で税理士事務所を営んでいる、藤尾真理子税理士事務所の税理士・藤尾智之さんに話に聞いてみました。

配偶者控除って何?

――最初に、配偶者控除とはそもそもどんな仕組みなんでしょうか?
藤尾 結婚しているパートナーの収入が一定額以下の場合、税金で優遇される仕組みです。一般的には働く夫と専業主婦の妻という組み合わせです。その逆もありますが、今回は奥さまが専業主婦という前提で話をします。簡単に言うと奥さまのパート収入(所得)が38万円を超えるまでは、旦那さまの税金が優遇されるという制度です。

――配偶者控除はだれでも受けらますか?
藤尾 会社員、自営業者、農業従事者、公務員など収入がある夫が妻を扶養していれば所得税では38万円の配偶者控除(住民税では33万円の配偶者控除)を受けることができます。また、配偶者控除以外にも配偶者特別控除という制度があります。これは扶養している配偶者に一定の収入がある場合、38万円(同33万円)を最大として逓減した額を控除できるというものです。

――配偶者控除で税金はどれ位減るのでしょう。
藤尾 配偶者控除額は所得税で38万円(住民税33万円)です。日本のサラリーマンの平均給与は400万円位です。所得税が5%として1.9万円と住民税の3.3万円の合計5.2万円が恩恵を受ける税額です。もし1,000万円の給料をもらっていたとしたら所得税7.6万円と住民税3.3万円の合計10.9万円が恩恵を受ける税額となります。

103万の壁と130万の壁。

――影響は多くもなければ少なくもないような、微妙な額ですね。パート収入は103万円以内が得だと聞きます。103万円の壁とも言いますか、これはどういう意味ですか?
藤尾 妻の給料が103万円ならば給与所得控除額が65万円、基礎控除額が38万円ですから、2つの控除額の合計が103万円になるため、所得がゼロになって所得税もゼロになります。加えて、夫の所得税を計算する際に38万円の配偶者控除が認められます。消極的に所得税のことを考えれば妻の給与収入は103万円がやはりベストです。

――130万円の壁というのも聞きます。これはどういう意味ですか?
藤尾 130万円というのは、社会保険(年金・健康保険)にパートの加入が義務付けられるラインです。出勤日数の問題もありますが、一般的に130万円を超えると加入となります。もし、社会保険に加入となると社会保険料が天引きされます。その金額は年間で15万円以上です。これを避けるために130万円までしか働かない方がケースによっては得ということになります。


増え続ける税金と保険料の負担。

――これまでの流れを教えてください。
藤尾 所得税や消費税は増税の一途をたどっています。消費税5%への引き上げは1997年です。消費の冷え込みから1999年に登場した定率減税も恒久的減税制度でしたが2006年に廃止されました。配偶者特別控除と配偶者控除の併用適用も2003年に終わりました。現在ではじわじわと年金・健康保険の負担が増えているのは周知の事実です。

――給料は減っているのに負担が増え続けているのは何とも厳しいですね。なぜ今配偶者控除がなくなるのでしょうか。
藤尾 配偶者控除は女性の社会進出を阻害していると言われています。かつては夫が働きに出て、妻が家庭を守るという役割分担が自然である世の中でした。しかし、今は男女平等が当然の考え方です。扶養に留まることができる最も効率の良い範囲が103万円です。結果的に103万円で働くことを止める自発的な失業調整が女性の社会進出を阻害していると言われます。その制限を無くしてより多くの女性に働いてもらう事が目的だと言われています。

――経済成長が目的という事になっているのですね。もし配偶者控除が廃止されるとしたらいつからでしょうか?
藤尾 現在議論は進行中です。通常はその年の12月までに議論され、翌年の3月に行われる国会でその議論の内容が承認されます。承認されれば、早ければその年に、通常は翌年以降に適用となります。ただし、その改正が行われた場合の影響が大きいと考えられる場合は、実施を1年以上遅らせることや段階的に廃止していくこと(激変緩和措置)が行われます。配偶者控除の廃止は早くても2016年からだと考えられます。

――税理士から見て、配偶者控除の廃止はどう見えますか?
藤尾 控除という考え方は、社会的弱者の救済や社会的要請により負担を減らす目的で導入されます。この控除というのは一旦導入するとなかなかやめられないばかりか、増えてく一方のところもありました。そのため、個人的には時代背景に合わせてスクラップアンドビルドする必要があると考えています。今後、女性のマンパワーがなければ社会が成り立たなくなることは明白なので、配偶者控除をやめて良いと思います。
 ただ、控除がなくなれば単なる増税になるので、これに変わる政策が必要です。例えばフランスで導入されている世帯全体の収入合計額を家族人数で割った金額に税率をかけるというやり方は支持を集めています。現行の日本では、1人の所得が高くなればなるほど税率も高くなりますが、家族割をすれば一人頭の所得は低くなるので累進課税であっても税率は低くなり、結果的に税金が抑えられます。扶養という「養う」という考え方から世帯全体の収入を「何人で使っているか」というシンプルな考え方になります。こちらのほうが時代に合っている気がします。

――本日はありがとうございました。

【取材協力】
藤尾智之 税理士
繊維専門商社、特別養護老人ホーム、税理士法人を経て、2012年10月に税理士事務所を開業。税理士である妻とツートップでクライアントへ対応する。
現在は、コンテンツビジネス(映画、ドラマ、音楽)などのエンターテイメント企業や、アパレル、飲食業などをクライアントに持つ。その他、特別養護老人ホームの勤務経験を活かし、介護業界へ進出を狙う企業への助言にも精を出す。
●藤尾真理子税理士事務所 https://www.facebook.com/accord.tax.firm (FBページ)

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