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平均値のウソを論じる記事というのは、年に何回か出るものだ。先月もこんな記事があった。

真っ赤な“嘘”「平均貯蓄1100万」算出のカラクリ

■平均をウソと感じる理由
平均値をウソとする論点は、なぜ平均値が自分の実感に合わないかに集約されることが常である。
そして実感に合わない理由として述べられることも、大よそ以下の二つの理由とされる。

一つは平均値の算出方法だ。平均値は、データの値の合計をデータの個数で割ることで計算するため、データの中に大きな値が含まれると平均値はその値に大きく影響されてしまう。分かりやすい例を挙げると年収500万円の人が9人、年収5000万円の人が1人というデータがあった時、平均値は950万円となる。平均値にはこうした特性があるため、より実感に近い値を知りたければ、中央値を見るか、自分の属性データを確認することが必要になる。

二つ目は、調査の方法に関することだ。調査方法として標本調査を実施している場合、集められた結果が必ずしも全体の現実を表すものではないのではないかという疑問があり、この疑問が解消されないため、平均値が間違っているという論法である。だが、これらの理由を持って平均は信用できないと考えてしまうべきだろうか?

■本当の理由は平均に対する思い込み
そもそも平均値とは前述したようにデータの値の合計をデータの個数で割ったものであり、統計においては、順序の中心を表す中央値、最もデータの多い層を表す最頻値とともに、データの中心を表す値の一つにしかすぎない。ところが一般的に平均値は、中央値でもあり、最頻値でもあるという位置づけで捉えられている感がある。この状態は、データが左右対称の釣鐘型の形をした正規分布という分布における一つの形の時において成立するものだ。残念ながら記事の元の調査結果には分布に関するデータがない。そこで似たような調査である総務省統計局のデータである家計調査(貯蓄・負債編)を確認してみることにする。

こちらのデータによると二人以上の世帯の平均貯蓄は1739万円だ。図2 貯蓄現在高階級別世帯分布(PDF:2P目)を確認してみると、右下がりの形をしており、とても正規分布とは呼べない形をしている。また平均値の含まれる層の全体からの比率は、わずか3.6%に過ぎない。ということは96.4%の人は平均値の層と異なる層に属するのだから大多数の人は平均値の値が実感からずれると感じることになる。つまり平均値がウソをつくのではなく、分布を正規分布と思い込んでデータを見ていることが問題なのだ。

■調査方法はコストパフォーマンスで選択される
次に標本調査についても考えてみよう。調査において、その標本から得られた回答結果が、本当に実状を表しているかどうかを判別することは不可能だ。なぜなら正しい手順で標本を抽出したとしても、未回答は一定数存在するし、回答があったとしても真摯に回答をしてくれるとは限らないからだ。では他に方法があるかといえば、最善の方法は調査員を派遣した上での全数調査になる。しかし全数調査は莫大なコストがかかる。日本全体を対象にするのだから当然の話だ。それは政府統計において全数調査を実施しているのは、5年に1度国勢調査のみであることからも明らかだ。つまり調査の重要度に応じてコストを勘案しているということだ。

そもそも実状を表しているかと分からないことと、そのデータは信用できないこととはイコールではない。政府や公共機関の調査以上の規模と信用性を持って統計データを作成できる機関はないと言っていいからだ。だとすれば、実状とは合ってない可能性だけを論じても意味はない。現状手に入れられるデータの中で最も信用性が高いデータを拠り所とするのが妥当な判断だといえる。落ち着いて考えれば、自分の実感の方が統計データより信頼性が高いといいきれる人はいないはずだ。

■データは大局観を持ってみるべきもの
日本では終身雇用が長く続いたせいか、長年の経験こそが正しいと信じる風潮があるように思う。しかし環境が変わればその経験も通用しなくなることもまた真理だろう。統計データの見方も同じことが言える。実感を杓子定規とするのではなく、データが対象とする全体構造を理解し、その上でなぜ実感と異なるかを詳細データを見て確認していく姿勢こそが重要であり、そうした見方を続けていくことが物事の大局的な見方を養っていくのである。平均値をウソつきにしてまで自分の実感を信じるような考え方は、そろそろやめていただきたいものである。

《参考記事》
「飲み会は残業代出ますか?」と聞く前に新入社員が心得ておくべきこと 村山聡
1億総中流時代の年金制度を維持するのは無理な話だ。 榊 裕葵
お店を経営している人も生活者ですよね?消費税をめぐる報道を考える 岡崎よしひろ
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中小企業診断士 村山 聡


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