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鹿児島で観光列車「指宿のたまて箱」号が脱線したというニュースが飛び込んできた。私は昨年の九州旅行でこの列車に乗車したばかりだったので驚いていたのだが、さらに驚いたのは、この列車の運転手が事故現場の写真を私的にLINEで投稿していたということだ。

■法的には何が悪かったのか
毎日新聞は、事実関係について下記のように報道している。

JR九州によると、男性運転士は事故を会社に報告するとともに、ニュースを見て「けがはないか」と心配する知人に、ラインで「死ぬかと思った」「脱線している」などと絵文字付きで返信。その際、携帯電話で車両の内部や外からの様子を撮影した写真2枚を添付した。

投稿は事故から約6時間後の21日午後5時過ぎで、事故を受けてJR九州が鹿児島市で記者会見を開いていた時間帯だった。運転士の知人ら二十数人がグループ内で閲覧できる状態で、ネット上に拡散する可能性もあった。
(2014年6月23日付 毎日新聞)


本件ニュースから読み取れる法的な問題点は次の3つだ。

第1の問題は、職務専念義務違反の可能性である。

LINEへ投稿がなされたのは事故から約6時間後の夕方5時とのことであったが、この運転手がまだ勤務明けではなかったり、事故の報告などで残業を命じられていたりしたならば、勤務時間中に私的行為を行ったということになる。

どんな仕事であれ、勤務時間中に会社の許可なく、私的行為をすることは許されない。これを「職務専念義務」という。労働契約とは、勤務時間中は完全な労働を提供することの対価として、定められた賃金を支払うという契約だからである。

第2の問題は、会社に帰属する物品の私的利用である。

事故現場の写真撮影は会社が命じたとのことであるが、撮影された写真の処分権も当然会社に帰属する。

事故現場を撮影した写真は、法的には「一時的に会社から預かっている」という状態である。この写真を自己の判断で勝手に利用してはならないのは、会社から貸与された社用車を無断で私用に使ってはいけないのと同じ理屈である。

第3の問題は、守秘義務違反である。

従業員には、業務上の秘密を守る義務がある。JR九州ほどの大企業であれば、機密保持規程が整備されていたり、誓約書なども取り交わしたりもしているかもしれないが、労働契約に付随する義務として、従業員は当然に機密保持義務を負うと考えられている。

今回の事件の場合は、会社の許可を得ず従業員が事故の核心に関わる写真を勝手に公開したのであるから、守秘義務に違反しているとに弁明の余地はないであろう。

以上が、法的に考えられえる運転士の違反行為である。懲戒解雇や諭旨解雇になるほどではないが、戒告など何らかの処分は免れないと考えられる。

■「これくらい、大丈夫だろう」が重大事故へ
しかしながら、運転手はなぜ軽々しくもLINEに事故現場の写真を投稿してしまったのだろうか。

私の推測だが、おそらく、運転手に悪気はなかったのではないだろうか。悪気はなかったが、考えが甘かったというのが真相ではないだろうか。

とくにLINEは、ブログのようなオープンではなく、クローズドなSNSであるから、「自分が無事であることを伝えたいし、友達だけなら大丈夫。」というような甘い判断があったのかもしれない。

JR九州が「非常に不適切で申し訳ない。今後は再発防止に努めたい」と述べているよう、従業員の「これくらい、大丈夫だろう」という甘い判断に基づいた行動を、会社は決して見過ごしてはならない。

今回のLINE投稿事件により、会社に具体的な損害が生じたということではなさそうなものの、規律の緩みは、時には会社や地域社会に大損害を与えたり、重大な労災が発生して従業員自身が苦しんだりすることにもつながりかねないからだ。

例えば、東海村のJCO臨界事故を思い出してほしい。「これくらいなら大丈夫だろう」と裏マニュアルが作成され、さらに現場が「これもまあ、大丈夫だろう」と、裏マニュアルをさらに改悪し「バケツでウラン水溶液を扱う」という、後で振り返れば信じられない作業を行った結果、臨界事故を発生させてしまったのだ。多数の住民が避難する騒ぎとなり、作業員の方も致命的な被爆を受けた。私は被爆した作業員の方の死亡直前の写真を見たことがあるが、細胞が壊死して皮膚がボロボロになった悲惨な姿は忘れられない。

甘い判断の連鎖が重大事故を生んでしまったのだ。

■結び
「これくらい、大丈夫だろう」は、恐ろしい言葉である。

従業員は会社のルールを当然守らなければならないのだが、気持ちが緩んだり、効率性を優先させたりした結果、「これくらい、大丈夫だろう」と、会社のルールを破ってしまうことがある。ルールを破っていることに対する自覚症状さえない場合もある。

そんなとき、経営者や上司は、「まあこれくらい、いいか」と容認してはならない。指摘をしなければ、従業員は「これでいいんだ」と思い、どんどん社内の規律が緩んでしまう。そして、大事故が起こってしまうのだ。

会社としては、些細なことでもルール違反を見逃さないことはもちろん、研修会などで定期的に啓蒙を図ることが重要である。ケーススタディも有効であろう。

なお、今回の失態を犯してしまった運転士については、まだ28歳とのことであるし、受けるべき社内処分を受けても、今後絶対に取り返しがきかない状況ではないと思うので、この失敗を乗り越え、糧にして、鉄道マンとして成長して頂きたいものである。

《参考記事》
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特定社会保険労務士・CFP
榊 裕葵


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