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都議会における塩村文夏議員に対するセクハラヤジ問題が連日マスコミで大きく取り上げられている。

セクハラヤジの内容は「産めないのか!」や「お前が結婚しろ!」というような内容であったとのことだ。マスコミでは「当然、このようなヤジはセクハラだよね。」という雰囲気で議論が展開されているが、私はもう一歩、掘り下げが必要であると感じている。

というのも、うっかり口に出してしまった言葉がセクハラになるかは、私たちのような一般市民にとっても決して他人事ではなく、誰もが、職場での不用意な発言がセクハラとして訴えられるリスクを持っているからだ。

■何をしたらセクハラか
そこで、何をしたら「セクハラ」になるのかということを、今一度考えてみたい。

この点、男女雇用機会均等法11条1項を読み解くと、

(1)職場において行われる性的な言動に対する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受けること

(2)職場において行われる性的な言動により労働者の就業環境が害されること

の2つが職場におけるセクハラ行為であるとされている。

(1)は、上司からの食事の誘いを断ったために職場で無視をされたり不当に低い人事考課を受ける場合、(2)は、職場の壁にヌードポスターを貼ったり、大声でわい談をする場合などが代表的な例として挙げられよう。

■セクハラ発言は2段階のフィルターで判定
今回の都議会で起こったような、不用意な性的発言も、上記(2)のセクハラ形態に含まれる。

この点、厚生労働省の通達(雇児発第1011002号平成18年10月11日)に従うと、ある発言がセクハラに該当するかどうかは、次のような2段階のフィルターで判断される。

1段目のフィルターは「平均的な女性がその性的言動を不快に感じるか」である。

例えば、女性社員に対して「旦那と夜の営みはあるのか」というようなプライベートな性生活を聞くことや、「君は尻が大きい」など身体的特徴をからかうことは、平均的な女性がセクハラと感じることは間違いないであろう。このような場合には、発言者がどんな意図を持って発言したにせよ、客観的に見て一発でレッドカードだ。「ジョークのつもりだった」という言い訳は通用しない。

2段目のフィルターは「労働者が明確に意に反することを示しているにも関わらず、さらに同様の言動が行われる場合」である。

例えば、会社は業務に必要な人員を確保しなければならないので、結婚が近い女性に対して、「入籍はいつ頃になりそうか」や「結婚後も仕事を続けるかどうか決めているのか」というような内容を、業務上必要な範囲で聞くことは、直ちにセクハラとはならない。

しかし、その女性が、「プライベートなことなので関知しないでほしい」と、回答を拒否しているにもかかわらず、執拗に聞きだそうとした場合には、それがセクハラと認定される可能性は高いと考えられる。

■女→男、同性同士のセクハラも
また、セクハラは、女性から男性へも成り立つし、同性間でも成り立つことにも留意しておきたい。

例えば、女性上司が男性部下に「男のくせにそれくらいもできないのか!」というような男性としてのプライドを傷つけるような発言は、女性から男性へのセクハラとなろう。

また、男性上司が同性の部下に宴会で裸踊りを強制することは、パワハラとの境界も問題になるが、同性間で起こりうるセクハラの一例といえよう。

■総括と示唆
胸や尻を触るというような、あからさまなセクハラはともかく、実社会の中で起こりうる事例の中では、どこまでが許されて、どこからがセクハラか、という線引きをするのが難しいことも少なくない。

この点、何がセクハラになるのかという常識的なガイドラインが社内で共有されることはもちろん必要であるが、それ以上、これはセクハラ、あれもセクハラ、と巻き物のような細かい規程集を作ってもきりがない。

それよりも、従業員間で気持ちのいい距離が保たれていて

「課長、実は結婚することになったので、結婚式に是非来ていただけませんか。」

「そうか。報告ありがとう。めでたいなぁ!」

というよな、そんな会話が自然に出てくる、和気あいあいとした職場環境を作ることのほうが、根本的には大事なのではないだろうか。

そのようなお互いに気持ちよく働ける職場であれば、少なくとも、日常の業務の中で、お互いの揚げ足を取り合うようなセクハラ問題は起きないであろう。

《参考記事》
社労士流 パワハラ上司の撃退術
中小企業の経営者が知っておきたい有給休暇対応 4つのテクニック
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特定社会保険労務士・CFP
榊 裕葵

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