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6月最終週は株主総会の集中期であった。私は6月27日に和歌山県の本社で開催された島精機製作所(以下「島精機」という)の株主総会に参加をしてきた。島精機は、ニットの電子制御横編み機で世界的なシェアを持つ、東証一部上場企業である。島精機の編み機を使えば、複雑な柄のニットも、一着丸ごと全自動で編み上がってしまうのだ。

私は、自身の資産運用として数社の株式を保有しているが、その中でも島精機のオンリーワンでユニークな製品群にはかねてより興味を持っていた。そこで、どのような企業文化が島精機をここまで成長させたのかを知りたいと思い、株主総会の機に本社を訪問しようと考えたのだ。

そして、実際に訪問してみて、様々な「学び」や「発見」があったので、本稿で紹介をさせていただきたい。


■社員のためのフェラーリ
島精機の本社に到着して、まず驚かされたのはエントランスに飾られた2台のフェラーリだった。私はこの会社に質実剛健なイメージを持っていたので、実は金満趣味な会社だったのかと、いきなり不安になってしまった。

そこで、近くにいた社員の方に、「なぜフェラーリを展示しているのですか。」と、尋ねてみた。

その結果分かったのは、このフェラーリはイタリアの取引先からの寄贈品であるということだ。

フェラーリの母国であるイタリアには、アルマーニ、グッチ、ベネトンなど多くの世界的アパレルブランドが存在するが、島精機の編み機は、このような世界的ブランドからも支持を受けていて、製品の素晴らしさに感動した取引先から寄贈を受けたものだったのだ。

創業者かつオーナーである島社長は、フェラーリを自分で乗り回すこともできたのだろうが、そうはしなかった。社員にフェラーリの美しさを見て仕事につながる美的センスを養ってほしいということで、あえて社員の目のつくところに展示をしたのだ。フェラーリ以外にも、彫刻や絵画などが飾られていた。

また、同じ場所には自社製品も展示されていた。フェラーリと自社製品を見比べて、「うちの製品はフェラーリにも肩を並べるものである。」と、社員の自信やモチベーションを高めることにも役立っているのであろう。

このように、フェラーリの展示は、決して金満趣味ということではなく、むしろ社員のためであったのだ。

なお、2012年から島精機は、「サマンドール」という自社のアパレルブランドも立ち上げている。アパレルの立ち上げには当然美的センスが必要であるから、その布石もあったのかもしれない。

社長優先ではなく社員優先で物事を考える文化が、会社の発展に寄与しているのだということを感じた。

■リストラをしない強さ
株主総会の中で、私は質問をさせていただいた。それは社員数に関することだ。

売上高がまだリーマンショック前の3分の2までしか回復していないのに、逆に当時よりも社員数が増えているのはなぜか、ということを指摘したのだ。

島精機の業績は前期、今期と順調な回復傾向にあるものの、2010年度と2012年度の決算では赤字を計上している。将来また、リーマンショックのような恐慌が起こった場合に備えて、赤字転落を避けるためには、固定費となる人件費をスリム化する必要はないのか、というのが私の質問の意図であった。

この質問に対しては、人事総務担当の藤田取締役より、①当社はリストラをしない方針であること、②高齢者雇用安定法の改正に基づき、定年退職者の再雇用を進めていること、という2点を中心に回答をいただいた。

定期採用の新入社員は毎年いるので、退職者が再雇用で残れば、必然的に要員は増えてしまうということである。

その場での回答にはやや物足りなさを感じたのが正直なところであったが、株主総会終了後に工場見学をさせて頂いて、藤田取締役の回答の真意を感じ取った。

島精機の工場は、自動車工場のようなベルトコンベア作業ではなく、お客様のニーズに応じた多品種少量生産であった。技術の蓄積が求められる精密な作業であることが分かり、売上に応じて要員をリストラしていては、技術の蓄積などできるはずがないことを、素人の私でも理解することができた。

また、簡単に他社が真似できない技術だからこそ、それが高い参入障壁となり、世界的シェアを維持する原動力にもなっているのだ。

さらには、今後新たな技術を掲げ、航空宇宙や医療の分野へも参入するとのことである。

社員が安心して働ける環境があるからこそ、長期的視野で会社のために新しいビジネスを生み出そうと必死で努力し、それが結果として自分たちの雇用保障にもつながるという好循環。まさに、ウィンウィンである。

■芝刈りも社員の「業務」
工場見学をしていて気がついたのは、島精機の本社や工場が立ち並ぶ敷地には、緑地が多いということである。しかも、丁寧に刈り揃えられていて美しい。敷地の約3割が緑地とのことであった。

景観としては確かに素晴らしいのだが、逆に、多額の緑地整備費用がかかっているのではないかと心配になり、株主としての問題意識から社員の方に聞いてみた。

その答えは意外なもので、なんと、緑地の整備にかかっている費用は「0円」とのことであった。実は、芝刈りなど緑地の整備作業は、全て従業員が行っていたのだ。

しかし、今度は社会保険労務士として「サービス残業で芝刈りをやらせているのではないか」ということが心配になってしまった。そこで、「芝刈り当番の日には、早出とかするのですか?」と、この点もやんわりと社員の方に確認してみた。

回答は、「芝刈りも業務の一環として、所定労働時間に組み込まれている」ということであった。役員や幹部社員ではなく、一般の社員の方がそう答えてくれたから、おそらく間違いないであろう。

なお、先ほどの株主総会での藤田取締役の回答の話に戻るが、高齢者の再雇用の実施についても、島精機がコンプライアンスを遵守していることの一例といえよう。

このように、守るべきルールを守り、払うべき対価をきちんと支払っているからこそ、社員と会社の相互信頼関係が構築されているのだと私は感じた。

■社長からの「ご苦労様」
足元の仕事の忙しさを聞いてみたところ、今年は受注が好調とのことで、月に数回の休日出勤もこなしているとのことだ。受注が好調なのは株主としてはありがたいが、それ以上に私が感動したのは、その社員が語ってくれた次の話だ。

休日出勤をする日には、島社長が全工場を回って、1人1人の社員に「ご苦労様」と声をかけてくれるというのだ。島社長は昭和12年生まれの77歳でいらっしゃる。それにもかかわらず、精力的に第一線で動き回っていらっしゃり、従業員とのコミュニケーションを大切にしたり、現場を自らが視察なさったりしているのだ。

「創業社長だけど、決してワンマンではないんです。」と古参社員の方が語っていたのも印象的であった。

社長と社員の心の距離が近い。また、社長が現場をよく見ている。これも島精機の強さであろう。

■総括
このように、島精機の強さの秘密は、決して特別なことや、他社が真似できないことではなかった。すなわち、「社員を大切にする」という当たり前のことが、かけ声やお題目だけではなく、本当に徹底して行われている会社だったということだ。

この点、立派な経営理念を作ったり、それを毎朝唱和したりしている会社もあるが、それが経営者の自己満足であっては何の意味もない。経営者の方が、「うちの会社の従業員はやる気が足らない」とか「言うことを聞いてくれない」という不満を感じたときには、逆に、自社は本当に従業員を大切にしているのか、ということも、同時に振り返ってみてはいかがだろうか。

さらに言えば、業務上のことだけに限らず、忘年会シーズンの居酒屋などでも、平社員が食うや食わずでお偉方の水割りを作っている風景を時折見かけるが、こんなところにも社風を見て取れる。

逆に、社長や役員が社員に、「いつも社業を支えてくれてありがとう。」とねぎらいながらビールを注ぐ社風の会社のほうが、きっと強い会社になれるのではないだろうか。

《参考記事》
■社労士流 パワハラ上司の撃退術 : エンプロイメント・ファイナンスのすゝめ
http://blog.livedoor.jp/aoi_hrc/archives/38778877.html
■資格取得が転職活動を有利にする理由 : Seepのブログ
http://seep-jp.com/2014/04/30/post-2540/
■残業代ゼロ法案は、やはり「サービス残業奨励法案」だった。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/39087193-20140530.html
■残業代ゼロ法案は真面目な社員ほどバカを見る結果になる。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/38766944-20140512.html
■残業代ゼロ法案を「過労死法案」にしないために、私たち国民が実現しなければならないこと。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/39492536-20140623.html

特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵


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