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最近、ネットで話題になったプロモーションビデオがあります。ご覧になったことがあるでしょうか。「ISETAN-TAN-TAN」という株式会社三越伊勢丹ホールディングスのCMです。矢野顕子さん作詞作曲の曲にあわせ、同社店頭の販売員や社員が店内でダンスする映像で、大きな話題となりました。実際にプロの振付師をつけ、中には動画オーディションをしたパートもあるとのこと。その結果、新宿の伊勢丹に行こう!と思えるようなCMに仕上がっています。私も最初に見たときは衝撃を受け、最後まで見てしまいました。

■新人を「一般消費者に近い発想が出来る人」と再定義する
このCMを撮影した新宿伊勢丹では2013年3月までに大改修を行っています。三越伊勢丹ホールディングス社長の大西氏によれば、店舗改装中に20代女性社員の方々が「聞いてほしいことがある」と直談判にいらしたとのこと。彼女たちの現場で感じているお客様の「肌感覚」を反映させた結果、現在のような2階を中心とした、「お買い場」(同社では伊勢丹時代から、売り場のことをお客様中心に考えて「お買い場」と表現している)を作り上げました。結果、2階の集客力がとてもよくなったとのことです。(2014年6月27日日経ビジネスオンライン記事 川島蓉子著「20代女子たちが変えた新宿伊勢丹の秘密」(「川島蓉子の『ダサい社長』が日本をつぶす」シリーズより)

同社の事例は、若手の声に耳を傾けた結果実現したもので、特殊なものと思われるかもしれません。でも、実はそんなことはないのです。また、産業構造が変わり、サービス業が中心となった現在においては、昔の製造業と違い、何十年もかけて技術を身に付ける業種はむしろまれです。短くて1か月、長くても半年、1年頑張れば一定程度のスキルがつくもののほうが多いでしょう。本人がどれだけ付加価値志向の仕事をするようになるかは、むしろ、管理者や経営者のモチベーションマネジメントによるところが大きいといえます。

働き方マトリックスを再掲してみましょう。
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前回は、仕事セーブ要因があり、かつルーチン志向型のところの人に対して経営者はどうしたらいいか、ということを書きましたが、今回テーマとしたいのは、右下の③「新人型」の人たち、すなわち、仕事セーブ要因はないけれども、ルーチン志向である人たちです。

このカテゴリーの人たちは、新人であるが故のルーチン志向、すなわち、仕事そのものに対する習熟度からすると、まだまだ不足している側面があります。しかし、「知らない」「慣れていない」ということは、裏を返せば「一般消費者や顧客の立場により近い立場で発想ができる」ということを意味しており、マネジメントとしては、むしろ積極的に活用できる余地があるとも考えられます。

■実は若手女性が開発したヒット商品がたくさんある
こうして、若手女性が中心になってつくったものとして上述の事例以外にも、たくさんの事例があります。
①マルコメ株式会社 プラス糀シリーズ(同社ホームページ「プラス糀 開発秘話」より)
150年以上糀を作り続けてきた同社の「糀の可能性への期待」と、女性社員からの「糀という素材を商品として形にしたい」という声から、女性を中心とした社内プロジェクト「プラス糀研究室」が発足しました。女性による消費者目線を追求、その結果、パッケージも白色のやさしい色で、従来の同社おなじみのロゴ「マルコメ君」ではなく、プラス糀シリーズのロゴに、「marukome」と黒字で小さく書いてあるプラス糀シリーズが誕生しました。糀ジャムや、万能調味料としての生塩麹などが人気となっています。
②エース株式会社 スーツケースハント(女性の女性による女性のためのスーツケース)(同社2014年4月15日ニュースリリースより)
同社では2年前、入社1年目の女性がデザインを担当したラグーナライトというスーツケースが大ヒットしています。さらに、今年4月15日のニュースリリースでは、女性向けのスーツケースを本格開発するための若手女性6名による開発チームを組織したとの発表がありました。LCC路線拡大に伴い、気軽な女子旅を楽しめるよう、25歳から30代前半の女性をターゲットとしたスーツケースの開発を行ったとのこと。機能の細部に至るまで女性目線が活かされているとのことです。
③パナソニック株式会社 ナイトスチーマーナノケア(同社ホームページ パナソニック企業情報「多様な人材が力を発揮できる企業へ。」より)
実は歴史が古い同社のBeauty製品。Panasonic Beauty製品の開発に関わる女性社員有志は、Panasonic美容向上研究部(通称美容部)を立ち上げました。忙しくても美しい女性をもっと増やしていきたい、という想いのもと、定例会で徹底的な議論を重ね、ナイトスチーマーナノケアなどのヒット商品を次々と生み出しました。現在は、この成功をふまえ、商品企画に自由な裁量権を持つ美容部のグローバル展開を進めています。

いかがでしょうか。このほかにも車やビールなどにも事例があり、いずれも、女性の私には共感できる商品ラインナップです。買ってみたい、使ってみたい(実際に使っているものもあります)と思えるものばかりです。

上記の開発に関わった女性社員の方たちは、多くが若手社員であることから、一般的に働き方マトリックスでは「新人型」カテゴリーに入ると考えられます。もちろんこうした開発に携わる意欲のある人たちなので、仕事がルーチンでよいと思っているわけではないでしょう。しかし、今までは、こうした若手の彼女たちに対し、経営者や管理職が「まだ入ったばかりの新人に大きな仕事やプロジェクトに入ってもらうわけにはいかない」と権限移譲をすることをためらっていたことが多いはずです。それを信頼して任せるようにしたことで、若手女性によるヒット商品の開発、ということが実現しています。

■企業の中で「新人型」カテゴリーの女性活用をするには
彼女たちが企業の中で活躍していくためには、上述したように、若い女性の優れている点に着目し、彼女たちの力を引き出す、ということがまず経営者に求められます。ボストンコンサルティングの調査によれば、世界の消費の少なくとも64%以上を決めているのは女性とのこと(ボストンコンサルティンググループ「女性と消費に関するグローバル・サーベイ」2008年による)。女性は消費のいわば「プロ」ですので、製品や商品を判断する際にコストパフォーマンス、センスがいいかどうか、真に役に立つものかどうか等々シビアに見ています。また、女性は、いいと思った商品やサービスを口コミで伝える力に長けています。インターネットのコミュニティでどれだけ話題を盛り上げられるかという観点で、バズ・マーケティングというコンセプトも出てきているように、まず彼女たちのテストをクリアすることは、とても有効です。

経営者は、「新人型のスタッフだから、スキル面が低くて指示命令が必要だ」というふうに見るのではなく、むしろ女性スタッフが現在の目まぐるしく変化する社会のニーズをくみ取っている(またはニーズを作り出している)ことに着目し、今までの事例で見てきたように、女性によるチームを作って権限移譲をすることも必要でしょう。当然、チームに事業を任せるのであれば、必要なリソースの提供をすることも求められます。もちろん新規事業が成功するかどうかは誰がやっても不透明であり、女性主導で開発したからといって成功が約束されるわけではありません。しかし、他社との差別化がキーワードとなっている状況下、他社よりもいち早く、消費者ニーズを踏まえたプロジェクトを発足させるべきなのではないでしょうか。

■さらに長く活躍してもらうために
今回取り上げた若手女性は、長期的な活躍に向けて、将来的にライフイベントに直面することも十分考えられます。仕事に対するモチベーションが上がり、成功体験をした新人型スタッフが働き続けることが難しくて会社を辞めてしまうのは、会社にとっても大きな損失ではないでしょうか。それゆえ、彼女たちが仕事を続けることができるように社内の制度を拡充させるのみならず、実際に仕事に復帰された先輩社員などのロールモデルを見せておくことも有効でしょう。

一時キャリアから離れていた間に、彼女らは消費者目線を一段と強めています。しかも自社に対する最大のサポーターとして。会社へ復帰後は、きっと既存の視点にこだわってしまいがちな会社に貴重な新しい視点をもたらしてくれるはずです。せっかく採用した人材を失うことのないように、新人型スタッフを大事にして、「育てる」という意識を強めることが今改めて必要とされていると思います。

《参考記事》
■「ニッポンのお母さん」はレベル高すぎ?OfficeCOM(小紫恵美子)ブログ
http://officecom-ek.com/?p=206
■結局「女性活用」って何すればいいの? 小紫恵美子
http://sharescafe.net/38770445-20140511.html
■「仕事はそこそこで、生活を充実させたい!」はわがままなの?  小紫恵美子
http://sharescafe.net/39497690-20140623.html
■「良いお母さん」のレベルが高すぎる日本。働く女性は意識と行動をどうやって変えたらいいの? 小紫恵美子
http://sharescafe.net/39261507-20140608.html
■女性が経営者にむいている理由 小紫恵美子
http://sharescafe.net/38119326-20140407.html


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