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再びの消費税の増税を控え『軽減税率』というキーワードがメディアを騒がせています。「消費税の逆進性の問題に対応するために食料品等について軽減税率を導入してはどうか?」といった議論です。

朝日新聞では

生活必需品の消費税率を低く抑える軽減税率について、自民、公明両党の与党税制協議会は8日、経済団体や業界団体などから意見聴取を始めた。両党は8月末までに約50団体から意見を聴くが、経済界や財務省には消極論が根強く、実現への道筋は見えていない。
軽減税率、反対相次ぐ 与党、経済団体などから意見聴取 朝日新聞デジタル 2014/07/09

……と報道しています。

食料品等に限ったとしても税率が低くなれば、家計への負担が減りそうですし、いい事のように思えます。しかし、記事によると経済界や財務省には軽減税率の導入に対して消極論が根強いとの事です。

財務省は税収の確保という問題で消極的なのは理解できます。しかし、経済団体は、税負担が低くなれば売り上げが増加するといった効果が望めそうですよね。それなのに、なぜ消極的なのでしょうか?

■軽減税率の目的は?
さて、軽減税率を導入する目的はなんでしょうか?よく耳にする議論として「消費税には逆進性があり、所得水準が低い層の税負担が重くなる。そのため、生活必需品については税率を軽減する必要がある」というものがあります。

これは『所得水準が低い層に配慮する必要がある』という発想ですね。消費税は所得税のように沢山所得がある人ほど税率が上がるという累進課税の仕組みを持っていません。また、所得水準が低くても生きていくためには一定のお金を使わなければなりません。そのため、結果として所得水準が低い層ほど税負担が重くなるという事なのです。

■軽減税率を適用するためには色々考える必要があります
それでは、軽減税率の目的として『逆進性の緩和』を挙げるのならば、所得水準が比較的低い層が日常的に購入する食料品を主な対象としなければなりませんよね。何と言っても生きていくために食料品は必須ですから。

しかし、富裕層が好んで食すような高級なチーズとか高級なワインを軽減税率の対象となるのならばどうでしょうか。この場合、逆進性の緩和にはあまり効果が無いと考えられますよね。という事は、日常的な食品『のみ』を軽減税率の対象とすると良いと考えられます。

しかし、この考え方には運用上大きな問題があります。というのは『軽減税率の対象となる、日常的な食品』を決める事は困難を極めると考えられるからです。また「ある食品群の税率をどうするか?」といった議論に政治の大きなリソースが費やされることも想定できます。

上の例で出てきた高級チーズを販売する業者は、自分の取り扱っている商品が『日常的な食品』であると認めさせるためにあらゆる手段を講じると考えられます。もちろん、自分の取り扱っている商品を軽減税率の対象とするための努力は非難されるいわれのないものです。しかし、そのために『チーズ国会』などと呼ばれるような議論に政治のリソースを費やす事が社会全体の幸福につながるとは少し考えにくいですよね。

ただ、このような困難を避けようとして『食料品を一括して軽減税率の対象とする』という判断もまた問題です。

というのは、税収の確保という消費税増税の目的そのものが達成できなくなる可能性が出てくるためです。また、『食料品は一括して軽減税率の対象とする』という判断をするのならば「高級ワインは?高級チーズは?無農薬有機野菜は?富裕層が好んで食べるものまで税率を軽減するの?」といった批判も出てくると考えられます。

さらに「生活に必要なのは食料品だけではないでしょう?日常的な衣料品や医薬品、水道代、電気代といった公共料金も生活必需品ですよね」という議論も当然生まれてきますよね。

このように、軽減税率を導入したり運用するためには乗り越えるべき大きな問題があるのです。

■消費税を納めるためのコストが増えます
また、軽減税率を導入すると事業者は非常に大きな負担を強いられます。

消費税は『最終消費者が負担する』といった税ですので、事業者は仕入の際に支払った消費税と消費者から受け取った消費税の差額を納税します。軽減税率を導入すると「この商品は消費税8%で仕入れたもので、こちらは10%で仕入れて…」などとやる必要が出てくるというわけです。(こういったやり方を本則課税と言います)

このような場合、商品毎に何%の消費税率で仕入れたのか・販売したのかをすべて把握しておく必要があります。今まで把握しなくても問題なかったモノを把握するわけですから、会計システムの改修や事務作業時間の増加など、事業者側に大きな負担が生じます。

また、売上が少ない企業は簡易課税という事務負担を軽減するための納税制度を利用することができますが、簡易課税制度が簡易でなくなってしまう可能性も生まれてきます。

例えば、軽減税率の対象となる商品を中心に販売する企業とそうではない企業に適用される税率が変わらないとおかしいので、同じ計算方法というわけにはいかないですよね。という事は、制度自体を手直しする必要があり、どのような方法にするにしても現状よりは複雑にしないといけないという事です。また、事業者側はどの計算方法になるかを判断するための証憑をしっかり集めておく必要も出てきます。

さらに、軽減税率の対象となる商品群とならない商品群は分けて管理しないといけないのでその商品管理の負担も生じます。また、レジの設備も入れ替えないといけなくなります。

これらのことを簡単にまとめると『消費税を納めるためのコスト』が増えるというわけです。

■消費税を納めるためのコストはだれが負担するのでしょう
もちろん、事業者は適正な利潤を確保しないと経営を続けていけませんから、そういったコストは最終的には消費者に転嫁される事となります。

すると、消費税の逆進性は確かに緩和することができるかもしれませんが、コストプッシュ型のインフレの要因になってくる可能性があります。

つまり、所得水準が比較的低い層の消費税の負担を減らすために軽減税率を導入したら、物価全体の上昇を招き、所得水準が低い層がかえって苦しむといった本末転倒の事態が生じる可能性があるのです。

■事業者がコストを負担させられる可能性もあります。
また、消費者が負担するというシナリオにも問題があります。というのも、中小企業は価格転嫁が難しいという構造的な問題があります。

消費税が増税された際に「価格転嫁が進まず事業者が苦しんでいる」といった問題が発生した事を覚えている方も多いと思います。また、国はそのような事が発生しないように価格転嫁をするため対策をしていたことを覚えている方も多いと思います。

対策をしているという事は、逆に考えると特別な対策をしなければならないほど価格転嫁が難しいという事です。そのため、軽減税率を導入した結果、増加した『消費税を納めるためのコスト』を中小企業の事業主が負担するという事が発生すると考えられます。

■目的に立ち戻る
軽減税率を導入する目的はなんなのか。この原点に立ち返って考えてみればシンプルな方法があるはずです。目的が消費税の逆進性への配慮であるならば、一律でお金を配るという発想もあっていいと思います。

例えば、所得税の基礎控除38万円が生きるために必要な費用であると考えて、それに軽減しようと考えている税率をかけてみてはどうでしょうか?

本来の税率から軽減しようと考えている税率が5%だとすると

38万円×5%で1万9千円となります。

このお金を単純に配ってしまえば、事業者が余計なコストを負担しなくても済みますし、所得が低い人ほどこのお金の重みは増しますので、消費税の逆進性の緩和にも役立ちます。

また、ぜいたく品とそうでないものの線引きの議論に社会のリソースを費やす必要もなくなります。

このように、目的が軽減税率を導入すること自体なのか、低所得層への配慮なのかを考えれば軽減税率のこだわる必要はないと考えられます。

■なによりも
なによりも、ただでさえ経営資源が乏しい中小企業に負担を強いるような税制はあまり望ましくないと考えられます。そして、中小企業のコストが増加したとしても、価格転嫁は難しいという現実にも目を向けなければなりません。

中小零細企業を運営している人達も生活者であるので、その人たちに犠牲を強い、制度運営のためのコストが大きくなるというような軽減税率の導入が本当に社会のためになるのかを代替案も含めて検討していく必要があるのではないのでしょうか?

【参考記事】
■お店を経営している人も生活者ですよね?消費税をめぐる報道を考える 岡崎よしひろ
http://sharescafe.net/38555851-20140430.html
■社会福祉法人の内部留保を『活用』させても何も改善しないですよね? (岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39628354-20140701.html
■消費税 軽減税率は本当に実現するのか? カイケイ・ネット
http://sharescafe.net/36216212-20140108.html
■医薬品のネット販売を禁止するなら根拠を示すべきだ。~28品目の扱いは妥当なのか?~ 中嶋よしふみ
http://sharescafe.net/34940451-20131118.html
■「消費税0%」CMに見る、ネットオークション取引への課税 カイケイ・ネット
http://sharescafe.net/39068295-20140529.html

中小企業診断士 岡崎よしひろ


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