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7月30日のBLOGOSさんと日本財団さんが共催したブロガーミーティングでお話を聞かせていただいた大野更紗さんの著書「困ってる人」を拝読した。

大野さんは大学在学中に難病を発症し、大変なご苦労を経験されたことが著書からはひしひしと伝わってきた。福島の実家から上京して大学に通っていた大野さんは、病身の中、心身がつらかったことはもちろん、金銭的にも大変な思いをされたということであった。

大野さんに限らず、一人暮らしをしている学生が病気になったり怪我をしたりしたら、きっと心細いであろう。本稿では、その心細さを少しでも緩和することができるよう、学生の方が突然の病気や怪我を際に備え、どのような予備知識を持っていれば良いのかについてまとめてみたい。

■保険証は最重要
まず、病気や怪我に備える第一歩は、何はともあれ保険証をいつでも使える状態にしておくことである。保険証が使えなければ病院に行ったら10割負担になってしまう。

親がサラリーマンであれば会社を通じて健康保険に加入しているので、保険料の未納が起こることはなく、学生が持っている保険証が使えなくなることもないので基本的に心配はいらない。公務員の場合も、同様の仕組みの共済制度があるので安心だ。

気をつけなければならないのは、親が自営業の場合や、サラリーマンであったが失業してしまった場合である。

サラリーマン・公務員以外の家庭は国民健康保険に加入することになるが、国民健康保険は、世帯主が保険料の納付義務者となっていて、一定期間、保険料の納付を怠った場合は、市区町村から保険証を取り上げられてしまう。大学生である子どもの分も含めてだ。

このようなときには、何としても保険料が取り上げられるのを阻止しなければならない。倒産やリストラなどで、親の所得が減少していれば世帯全体で保険料の減免を受けることができるので、滞納状態になる前に市区町村役場に相談するようにしてほしい。親がもしそれを知らなければ、学生のあなたが教えてあげてほしい。

収入はそれなりにあって保険料減免の対象にならないが、実際のところは借金の返済などのため保険料が納められないという場合は問題が難しくなる。このようなときには、学生本人が独立して国民健康保険に加入することを検討したい。

例えば、親からの仕送りは無く、下宿先でアルバイトと貸与型の奨学金で生活している場合、この学生が親世帯の国民健康保険から分離独立したら、保険料計算の基礎となる住民税の課税所得は、学生本人のアルバイト収入のみで決まる。(貸与型の奨学金は「借入金」なので所得にはならない)

アルバイト収入が月8万円ならば、住民税の課税所得は、

8万円×12ヶ月-65万円(給与所得控除)-33万円(住民税基礎控除)=マイナス2万円

という計算になるので、課税所得は0円である。

詳しい計算過程はここでは省くが、課税所得が0円の場合、年間の国民健康保険料は市区町村によるが、年間2~3万円程度におさまる。月当たりにして約2,000円である。これならばアルバイト収入の中から何とか保険料を支払うことができるであろう。

■高額療養費は還付してもらおう
次に、実際に病気や怪我で医療費がかかったときのことだ。

この点については、「高額療養費」という制度があることを知っておきたい。高額医療費とは、1ヶ月の間に病院の窓口で支払った一部負担金が高額になった場合に払い戻しを受けられる制度で、住民税の非課税世帯であれば、上限は35,400円である。また、4回目以降の多数回該当の場合は、上限額が24,600円まで引き下げられる。

とはいえ、高額療養費は後日還付が原則なので(申請から約3ヵ月後に入金される)、立替払いをするだけでも学生にとっては負担が大きい。この点、2012年4月より、「限度額適用認定証」という書式を提出すれば、窓口での立替えが不要になった。書類上の手続を取れば、高額療養費の上限を超えた部分は、窓口での立替払いをしなくても済むということである。大きな怪我や病気をして、病院への支払が多額になりそうな場合は、是非この制度を活用して頂きたい。

また、高額療養費は「世帯」単位で合算となるので、親の健康保険の被扶養者になっているような場合は、自分だけでは高額療養費の上限に該当しなくても、親や兄弟との医療費と合算したら高額療養費を超えているかもしれない。このようなケースは見落とされがちなので、多額の医療費を支払った場合には別居している家族とも連絡を取り合って、世帯合算できないか確認をしてほしい。

■大学の医療費互助制度
入学時のオリエンテーションなどで聞いた記憶はあるかもしれないが、大学によっては医療費の互助制度がある。

例えば早稲田大学であれば、年間3,000円を支払って互助会の会員になれば、3割の自己負担のうち年間60,000円までが補助されるという仕組みになっている。1つの医療機関ごとに500円を差し引いた額が学生の銀行口座に還付されるということなので、よほど大きな病気をしない限りは、500円で病院にかかれるという安心感があるわけだ。

立教大学の場合は、互助会の会費が半期で3,500円とやや高い印象を受けるが、一の医院に対して支払った医療費が2,500円を超えたらその全額が互助会から給付され、年間限度額も639,900円と、手厚い保障になっている。

■学生専用のおトクな共済制度
さらに、大学生協の学生総合共済への加入も有効であろう。

学生総合共済は、学生のためだけの共済制度なので、基本的には若くて健康体の加入者が大半であるから、補償の厚さに対して保険料は割安になっている。

例えば、生命共済では、学生の病気・怪我による入院について日額1万円、手術1回5万円、障がいが残った場合は最大600万円を給付など、さまざまな補償が受けられる。扶養者が不慮の事故で死亡した場合には卒業まで月額10万円が支払われるなどの追加補償もついて、年額保険料は13,000円程度である。一般の医療保険と比較しても非常にコストパフォーマンスが良い設計となっている。

■国民年金は未納よりも学生納付特例制度を
国民年金の保険料も未納を回避したい。

というのも、病気や怪我の結果、障がいを抱えてしまう可能性があるからだ。このとき、1級または2級の傷害に該当すれば障害基礎年金が一生受給できる。

しかし、多くの学生にとって、月15,000円もの保険料を払うのはしんどいのも実態であろう。そこで、「学生納付特例制度」を使うのである。この制度を利用すれば、学生の間は保険料の納付が免除される一方、万が一、学生の間に障がい者になったとしても、障害基礎年金は満額受給できる。年金額は1級の場合は約97万円、2級の場合は約77万円である。

学生納付特例制度を利用しないまま保険料を納めていなかったら、その期間は単なる未納期間となり、障害年金が受給をすることはできないし、遡ってもらえるようにする方法も存在しない。

まだ学生納付特例制度を使わずに保険料を未納している学生の方は、市区町村の役場に行って直ちに申請をしてほしい。最大2年間遡って、適用を受けることが可能である。

■結び
大野更紗さんのように難病を抱えてしまった場合には、さらに専門的な対応が必要となってくるが、通常の学生生活の範囲では、このように、知識を持って備えをしていれば、比較的割安なコストで医療面としては安心して大学生活が送れるようになる。

もちろん、病気や怪我をしないことが一番であるが、人間、何が起こるか分からない。「備えあれば、憂いなし」である。

《参考記事》
■麻美ゆまさんがAV女優になった理由。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/40178455-20140804.html
■闘病と雇用維持・職場復帰について。 「女性と闘病~大野更紗×麻美ゆま対談」を聞いた、ある社労士の備忘録。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/40116573-20140731.html
■京都の市バスで足の不自由な女性を介助しようとして罵倒された運転士が気の毒だった件。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/39775536-20140710.html
■学生の大企業志向はミーハーではなく、むしろ堅実!? 榊 裕葵
http://sharescafe.net/36846642-20140204.html
■ 中小企業の経営者が知っておきたい有給休暇対応 4つのテクニック: エンプロイメントファイナンスのすゝめ
http://blog.livedoor.jp/aoi_hrc/archives/37538086.html

特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵


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