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次の求人票(抜粋)を見てほしい。これを見て、あなたはどのように感じるだろうか。

<休日休暇>
週休2日制、夏期休暇・冬期休暇 ※年間休日123日
慶弔休暇、年次有給休暇、その他特別休暇

<勤務時間>
店舗:シフト制、実働8時間(月間174時間を就労義務としています)
工場:シフト制、実働8時間(月間174時間を就労義務としています)
本社:8:30~17:30 ※部署によって時間差出勤制度あり。

■求人票から実労働時間は分からない
休みも多くて働きやすそうな会社に見えるであろう。

どこの優良企業の求人かと思ったかもしれないが、実は、この求人票は、すき家(ゼンショー)の2015年度の新卒採用条件からの抜粋である(リクナビ2015、マイナビ2015で開示中)。

少なからずの方が、「あの長時間労働で問題になっているすき家が、こんな好条件で新卒採用をしているのは本当!?」と驚くかもしれない。

確かに本当である。

だが、問題なのは、上記で表示されている勤務条件は、あくまでも「カレンダー上」の勤務日や労働時間であり、時間外労働や休日出勤を含めた実態としての労働時間は求職者にはまったく分からないということである。

すき家の場合、この求人要項では表に出ていない時間外労働や休日出勤が常軌を逸していて、人によっては所定労働時間すら上回っているという異常事態になっているわけだ。

同様に、多くの会社においても、求人票にはカレンダー上の勤務日と所定労働時間しか示さないので、求職者は自分が実際にどれくらい働くことになるのかの検討がつかないまま、就職活動を進めざるを得ず、入社してから「こんなはずではなかった」と思うこともあるわけだ。

新卒採用の場合は、「休日出勤はありますか」や「残業は何時間ありますか」という質問は、やる気が無いと思われるのでしないほうが良い、と言われることが多く、とくに学生が労働の実態を知りにくい雰囲気が醸成されている。

その結果、知らずにブラック企業に就職し、真面目な新社会人ほど、悪い意味で頑張りすぎてしまって、うつ病や過労死にもつながりかねない。

■実績ベースの労働条件の開示を義務化したい
そこで、私は次のような提案をしたい。

それは、企業が求人を行う際に「実績に基づいた」労働時間や休日出勤日数を開示することを法的に義務化することである。

具体的には、①前年度の平均時間外労働時間、②前年度の平均休日出勤日数、③前年度の有給休暇の平均消化率、④入社3年以内の離職率などを、法的強制力をもった、求人票の明示事項とするのである。

実態に近い労働条件が開示されることで、ミスマッチを防ぐことに役立つのはもちろん、使い捨てを前提に大量採用する企業や、騙してでも入社させてしまえばこっちのものと考える企業に対する牽制になるではなかろうか。

■金融商品取引法の開示に学ぶ
この点、財務面では、上場企業であれば金融商品取引法によって、企業は貸借対照表や損益計算書をはじめとした、法定事項を四半期ごとに開示しなければならないこととなっている。これは、企業の内部情報を正確に開示することによって投資家を保護するためである。

それと同様に、労務面においても、労働者保護のための情報開示を徹底すべきではないだろうかというのが私の提案である。

上場企業だけでなく中小企業も含め、原則として全ての企業に労働条件の開示義務を課すべきであろう。労働基準法で全ての会社に作成が義務付けられている出勤簿や賃金台帳が開示のための元データなので、開示するための作業負荷がかかるわけではないし、いかなる企業で働く労働者であれ、等しく自己の労働条件を知る権利はあるはずだからである。

■足元の対応
しかしながら、労働条件開示は、あくまでも立法論であるので、現状としては、働く人が労働法を積極的に学んで、おかしいことはおかしいと気付いて自衛をするしかない。

例えば、長時間労働に関していえば、厚生労働省は過労死に関するガイドラインを定めている。月に45時間を超える時間外労働が続いたら過労死のリスクが高まり、100時間を超えたら単月でも過労死のリスクありとされている。

会社が「やる気がない」とか「これくらいの長時間労働は当たり前」「みんなそれくらい頑張っている」と言うかもしれないが、それはその会社の中だけで通用する話にすぎない。

会社に入ったら、その会社の社長や上司の言うことが絶対的なものに思えてくるかもしれないが、いかなる会社においても、労働基準法など、法令の定めに違反したローカルルールを作ることは許されないのだ。

自社の労務管理がおかしいと気付いたら、勇気を持って労働基準監督署などのしかるべき役所に相談をしたり、同調する仲間がいるならば労働組合を結成したりして会社側に是正を求めてほしい。あるいは、そのような会社にはさっさと見切りを付けて、退職をするのも一手であろう。

長時間労働が原因で離職する場合は、雇用保険においても「特定受給資格者」として、3ヶ月の給付制限期間なしで基本手当(失業手当)を受給できることも知っておきたい。退職にあたっての金銭面の心配も緩和されるであろう。

また、ブラック企業によくあるパターンだが、退職を認めないと言われた場合も、月給者の場合は月の前半に申し出れば当月末、月の後半に申し出れば翌月末に退職できることが民法で定められている。時給者の場合は退職の申し出から14日経過後だ。採用時の労働条件と実態が異なる場合は、労働基準法において即時退職も認められている。このような場合の退職は、労働者の一方的な意思表示で成立することが法的に認められているので、会社の同意や許可は一切必要ない。

■まとめ
「正直者が馬鹿を見る」という世の中であってはならない。

国としては「正直者が報われる」ように法制度を整備すべきであるし、労働者はそれを「宝の持ち腐れ」にせず、自分にどのような法的権利あるかを積極的に知るように努めるべきであろう。

また、今回私が提案した労働条件開示のように、フェアな労働市場の形成につながるような法改正も積極的に求めていきたいものである。

《参考記事》
■ デートの日に残業命令。残業を断って大丈夫!?: エンプロイメント・ファイナンスのすゝめ
http://blog.livedoor.jp/aoi_hrc/archives/31690024.html
■資格取得が転職活動を有利にする理由 : Seepのブログ
http://seep-jp.com/2014/04/30/post-2540/
■京都の市バスで足の不自由な女性を介助しようとして罵倒された運転士が気の毒だった件。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/39775536-20140710.html
■社員のためのフェラーリ!?株主総会で知った島精機流「強い会社」の作り方 榊 裕葵
http://sharescafe.net/39610027-20140629.html
■実は、我が国の労基法は世界水準に達していないのでは!?という警鐘。榊 裕葵
http://sharescafe.net/37110706-20140217.html

特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵


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