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ワタミには、企業理念の中に「社員は家族であり同志」という言葉があるそうだ。この言葉は創業者の渡辺美樹元会長が定めたものであるが、現社長の桑原豊氏が東洋経済オンラインのインタビューに対して「社員は家族だから労働組合など必要ない」と発言したことで再び注目されている。

■ワタミ社長の「家族」発言に違和感
私は、この「社員は家族」という発言を聞いて非常に大きな違和感を持った。

直感的に「家族」という言葉をそんなに軽々しく使うべきではないと思ったことに加え、その言葉が、歪められて使われているのではないかと感じたのだ。

というのも、ワタミが「社員は家族」と本当の意味で思っていたならば、家族が精神的に追い詰められて自殺をしたり、過労で倒れたりすることなど起こらないはずだからである。

ワタミは社員に対し、「24時間365日死ぬまで働け」と求めていたが、果たして、本当の家族にそんな言葉を向けるであろうか。

家族とは、お互いがお互いを思いやる存在である。

普通の家庭では、夫が、体調が悪いのに無理をして会社に行こうとしたら、妻や子は「お父さん、今日は休んだらどうですか?」と声をかけるはずだ。

それと同じで、ワタミが社員のことを本当に家族と思っていたならば、疲労がたまっている社員を見て、「顔色が悪そうだね」とか「少し休んだほうがいいよ」という言葉が自然と出てくるはずである。しかし、それとは真逆の「まだ頑張れるはずだ。もっと働け」は、決して家族に向けて出る言葉ではないであろう。

つまり、私がワタミに対して言いたいのは、社員に対しては会社への強烈な家族愛を求める反面、会社から社員への家族愛は足りていないのではないか、ということである。

■家族なら食卓で同じものを食べるはず
会社から社員への家族愛が足りないと思われる別の例を挙げよう。

比喩的な話から入るが、家族は食事をするとき食卓を囲み、通常は家族みんなで同じものを食べる。親だけがステーキや伊勢海老を食べていて、子はご飯と味噌汁のみ、という食事風景があったとしたら、それは異様に映るはずだ。

しかしワタミが会社と社員の関係をあくまでも「家族」というならば、このような異様な状態が生じているのである。

というのも、ワタミの大卒新入社員の初任給は、定額残業代などを抜いて基本給ベースでは16万円である。大卒新入社員の相場である20万円前後には遠く及ばない。

これに対し、渡辺美樹元会長は、ワタミの約25%の株式を持つ筆頭株主として、自己の資産管理会社を経由して毎年億単位の配当金を受け取ってきた。さらに、その資産管理会社はワタミの保険代理店としても機能していて、有価証券報告書によると平成25年3月期では、7600万円もの手数料収入をワタミから得ているのだ。

確かに、配当金を受け取るのは創業者の権利であるが、社員を家族というならば、これらの配当金や手数料を資産管理会社に蓄積するのではなく、従業員に還元して基本給の引上げなどに使うべきではないだろうか。

もちろん、社長の社員も同じ賃金にすべきとまでは言わないが、資産管理会社に財産を蓄積するのは、せめて家族である社員の賃金が世間相場並みに引きあがった後ではないだろうか。

なお、私は、渡辺美樹氏が億単位の収入を得ていること自体を批判したいのではない。「私(渡辺氏)は創業者だからこれくらいもらう権利はある。」と言い切ってもらえば逆にすっきりするが、「社員は家族」とか「金にこだわるな」とか言って社員を低賃金で働かせる半面、目立たないところで自分だけはしっかりと蓄財しているという矛盾を指摘せずにはいられないのだ。

なお、ヤフーファイナンスの企業情報(四季報データからの転載)ではワタミの平均年収は537万円と出ていて、意外と賃金が高いのではないかと思うかもしれないが、この数字は、実は、持株会社の幹部社員の平均年収に過ぎないことを付言しておく。

■家族には相互扶養の義務があるはずだが
法的な意味での「家族」についても考えてみよう。民法第752条には「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と定められ、また、民法877条には「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。」と定められている。家族には法的にも相互扶養の義務があるということだ。

とすれば、ワタミは病気になって欠勤や休職している社員も家族として扶養し続け、絶対に解雇しないのだろうか。

確かに、中小規模の飲食店では社会保険すら入っていない事業所がある中、ワタミは少なくとも正社員については社会保険に加入し、民間の上乗せ保険にも入っているようなので、その点はさすが上場企業であると評価をしたい。

だが、それらの保険による補償も無制限ではないので、入院が長期にわたればいつかは保険金の支払もストップする。ワタミはその後も「家族」である社員を解雇せず、治療費や生活費を会社が保障しなければならないはずだ。しかし、そのような一生面倒を見る福利厚生制度はワタミには無いであろう。これでは、「家族」としての相互扶養義務を果たしているとは言えない。

■ワタミは後藤真希さんのように振舞えるのか
もっと言えば、家族だったら、家族の一員が万一犯罪行為を犯したとしても、本人の更生を願い、助けていかなければならない。

この点、私は、元モーニング娘。のエースで、今年6月に見事芸能界への復帰を果たした後藤真希さんに家族愛の姿を見た。

後藤真希さんの実弟、後藤祐樹氏は自身もEE JUMPというユニットで芸能活動を行っていたが、引退後は悪事を働くようになってしまい、銅線泥棒で逮捕されて5年にわたる刑務所生活を経験した。

出所後に祐樹氏が著した「懺悔 ゴマキの弟と呼ばれて」で語られていたところによると、祐樹氏の犯罪の影響で、当時、モーニング娘。を卒業し、順調にソロ活動を始めていた真希さんは、謝罪会見や事務所の移籍、芸能活動の縮小などに追い込まれてしまった。

しかし、真希さんは自分の芸能活動を滅茶苦茶にした弟を絶縁するどころか、一言も責めず、仕事の合間を見て面会に来てくれたとのことである。

2010年に真希さんと祐樹氏の母親が自宅から転落して亡くなった時も、真希さんは弟である祐樹氏を励ますために面会に来て、「お母さんは亡くなっちゃったけど、家族みんなで力を合わせて頑張って行こうね」と、気丈に振舞ったということだ。

そして、祐樹氏が出所した日には、1番上と2番目の姉が祐樹氏を迎えに行き、真希さんは家で鍋を作って待っていた。5年ぶりに家族そろっての食事を楽しみ、祐樹氏は「心があたたまった」と率直な気持ちを語っていた。

「家族」とは、それくらい強い絆で結びついているものだと思う。ワタミにも後藤真希さんと同じくらい「家族」を愛する覚悟はあるのだろうか。

■社員のことを思うなら「家族」思想は捨てるべき
社員の人生の全てを受け入れるくらいの覚悟があってこそ、はじめて「社員は家族」と言って許されるのではないだろうか。住み込みで公私にわたり奉公人の面倒を見ていた江戸時代の商家ならば「社員は家族」と言っても良かったかもしれない。

だが、近代企業にそんなことを求めるのは非現実的だ。だから、軽々しく社員を「家族」だなんて言ってはいけない。家族だからサービス残業をしろ、というのは、単なる経営者の甘えである。

会社として本当に社員のことを大切にしたいと考えるのであれば、「家族」というまやかしの言葉を使うのではなく、会社と社員は雇用契約関係にあるという原点に立ち返り、双方は労働基準法や雇用契約で定められた権利義務を守るという、当たり前のことを当たり前にすることが一番だと私は思う。

使用者と労働者という立場の違いを認識した上で、お互いの立場を尊重しながら信頼関係を築いていくことがまっとうな労務管理の考え方である。

ワタミが「ブラック企業」との風評を払拭したいならば「社員は家族」の看板を下ろし、「社員とは雇用契約で結ばれているので、労働基準法を遵守し、過労死がないように安全配慮義務も尽くします。」と宣言すれば、世の中のワタミに対する目線も大きく変わるのではないだろうか。

《参考記事》
■就業規則は5万円で作れる!社労士はヘンリー・フォードに学ぶべきだ。: エンプロイメント・ファイナンスのすゝめ
http://blog.livedoor.jp/aoi_hrc/archives/39646769.html
■社長必見!「うちの会社は10人未満だから」は禁句です。社員1人の会社でも就業規則を絶対に作らなければならない理由: エンプロイメント・ファイナンスのすゝめ
http://blog.livedoor.jp/aoi_hrc/archives/39651615.html
■ワタミのモデル残業時間は「合法だが過労死危険ライン」という怪奇 榊 裕葵
http://sharescafe.net/39148012-20140602.html
■すき家の美しすぎる求人票と労働条件開示のあり方 榊 裕葵
http://sharescafe.net/40287579-20140811.html
■京都の市バスで足の不自由な女性を介助しようとして罵倒された運転士が気の毒だった件。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/39775536-20140710.html

特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵


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