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株式会社について調べていくと『有限責任』といったキーワードを聞くことになると思います。この『有限責任』を簡単に言うと「株主は出資した金額だけ諦めてくれれば、それ以上の損失は目をつぶるよ」といった考え方です。

中小企業はほとんどの場合、経営者が株主を兼ねているので(経営者が資本金を出しているので)自分の会社をつぶしたからと言って、出資金をあきらめればそれ以上の金銭的な責任を追及されるわけではありません。

つまり、事業に失敗しても『有限責任』に守られているので、身ぐるみをはがされるような事は無いという『タテマエ』があるのです。

と、あえて『タテマエ』と書いたのは「ふーん、確かに有限責任という言葉は聞いたことあるよ。でも会社をつぶした○○社長は再起が難しくなるほど莫大な借金を背負ったと聞くよ?」といった声が出ることをあらかじめ予想しているからです。

しかし、タテマエをタテマエでなくすようなガイドラインが平成26年2月より適用されています。

日経新聞では

中小企業が金融機関から借り入れする際、経営者個人が連帯保証する「経営者保証」。この保証を外せる目安を示した「経営者保証に関するガイドライン」が適用されてから半年余りが経過した。解除すれば事業承継がしやすくなるなどメリットがある一方、越えなければならないハードルも多い。日本経済新聞 電子版 2014/08/18


といった報道を行っています。『経営者保証に関するガイドライン』。なんだか良さそうな感じですが、越えなければならないハードルが多いと穏やかでない表現もありますね。

■経営者保証という見えない鎖
さて、企業の破たんと社長個人の破滅は本来イコールではないという事を『有限責任』というキーワードで説明してみました。しかし、現実には企業の破たんと社長個人の破滅は、ほぼイコールになってしまっています。

この『有限責任』というタテマエをどのような方法で骨抜きにしているのでしょうか?それは『経営者の個人保証』というやり方なのです。

読者のみなさまも「保証人にだけには、絶対になってはいけないよ」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。なぜ保証人になってはいけないかというと、借金を保証してあげた人が返せなくなった場合、自分が代わりに返す必要が出てくるからです。

怖いですね。恐ろしいですね。このように、借金を保証するという事は、自分がその人の借金を返すことを覚悟する必要があるという事なのです。

では、社長個人が株式会社という法人の借金を保証したらどうでしょうか?つまり、社長個人が株式会社の保証人になったらどうでしょう。

これは簡単に言い換えると、株式会社が借金を返せなければ社長が代わりに返すという事です。

どうでしょうか?『有限責任』などというタテマエは社長が個人保証をした瞬間に姿を消しますよね。会社がお金を返せなくなったら、社長個人が代わりに返しますよという『保証人』になるわけですからね。

そして、大抵の中小企業の場合、社長さんの個人保証を求められます。「経営者のあなたが個人保証してくれないなら、この融資は無かったことに…」と言われてしまうと、なすすべがないですよね。

経営者保証をするという事は、事業が失敗した際のリスクを回避するために株式会社という別の船を用意したのに、見えない鎖につながれて同じ船に乗せられてしまったようなモノです。これでは会社という船が沈んだら、社長も一緒に沈むしかないですよね。

■この経営者保証が経済の活力を減らしています
このような状況が「起業したいと考えているし、様々な面から検討してみたけど上手くいく見込みだよ。でも、失敗した時のことを考えると踏み出せなくてね…」といった声につながっている面があると思います。

また、経営者の個人保証が事業を飛躍させるための思い切った投資を抑制したり(経営者が債務を保証するので失敗したら悲惨な目にあいますからね)、事業が既に立ちいかなくなっていることは分かっているけれども、会社がつぶれた瞬間に社長個人の生活が成り立たなくなるので会社を畳むことができないといった事の要因になっています。

このように、経営者保証を求められるという事が、経済活動の活力を減退させている面があるという事ができそうですよね。

でも逆に言うと、あと一歩が踏み出せない未来の社長に「いやいや、株式会社は『有限責任』ですから、失敗してもそんなに心配することはありませんよ」と説明することができれば、我が国の開業率も向上していくはずです。また、経営者保証がなければ思い切った投資もできますし、事業がたちいかなくなった際には、傷口が拡がる前に撤退といった意思決定をすることが可能となってきます。

なんだか、経営者保証の良くない面が色々と見えてきましたね。

■とはいえ経営者保証を求める側にも言い分が
しかし経営者保証を求める債権者側にも当然言い分があります。そうでなければ、どう考えてもあまりよくない制度がずっと運用されている訳がないですから。

まず、経営者自身がリスクを負っているという事が経営の規律を高める効果があるといった点が挙げられます。経営者がでたらめをやっても傷つかないような状況では「どうせ会社のお金だから使っちゃえ」といったモラルハザードを起こしかねないといった問題がでてきますからね。

また、そもそも企業の業績が悪くて個人保証がなければお金を貸せるような状況でないような企業からの融資申し込みが来た場合、個人保証が禁止されるとお金を貸すことが出来なくなってしまいます。こちらの場合は実質的には社長個人に貸しているといったイメージとなりますね。

しかし、逆に言うとこういった状況が防げるのであれば、経営者保証を求めなくとも良いという事ができます。経営者保証を求める大義名分がなくなるわけですから。

例えば「会社と個人のお金をしっかりと分けていて、法人から社長個人に貸し付けを行うなどの社会通念上おかしな資金流失が発生しない体制になっている。さらに、法人自体の持っている資産や収益力を考慮すると問題なく融資を回収できる。また、適切な情報提供が法人側から行われるので信頼することができる。」といった状況なら、経営者保証を求める必要はなさそうですよね。

そして、このような状況の企業にまで一律で経営者保証を求めるのはやめましょうというのが今回できた『経営者保証に関するガイドライン』なのです。

■厳しい状況に追い込まれた経営者にも一定の配慮があります
と、ここまでの内容では、既に業績が良くない企業に個人保証している社長さんは救われないですよね。

しかし『経営者保証に関するガイドライン』は既に多額の個人保証を行っている人に対しても踏み込んで言及しています。

『経営者保証に関するガイドライン』によると

(2)多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて100万円~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
(3)保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること 中小企業庁HPより


といった取り扱いを求めています。

これは、既に経営者保証を行ってしまっており、事業について撤退を考えなければならないところまで追いつめられてしまっている経営者向けの内容です。経営している法人の破たんがそのまま経営者個人の破滅にまで結びつかないように、若干の生計費を残すことや自宅に住み続けられるようにする事を検討してくださいといった内容です。

もちろん、非常に大きな痛みは伴いますが、自宅に住み続けることができ、当面の生活費も確保することができれば再出発の助けになると思います。

このような制度を利用するためにも、経営に行き詰ってしまった場合は、ぜひ誰かに相談してほしいと思います。例えば、お近くの商工会や商工会議所、中小企業診断士・税理士等の専門家にご相談いただければ何らかのお力になれるはずです。

企業外部の専門家は経営者の皆様がご自身の事業の専門家であるのと同じように、経営支援の現場の専門家です。経営者の方の中には非常に責任感が強く、自分一人で苦しまれてしまうような方が多くいるように感じています。我々のような企業外部にいる専門家の力を使う事によってその悩みがほんのわずかでも軽減することができれば嬉しく思います。

と、最後に個人的な願いを書いてしまいましたが、いずれにしても、経営者保証をすぐに全部なくすことはなかなか難しいと考えられます。

しかし、『経営者保証に関するガイドライン』のような考え方が生まれ、少しずつでも経営者保証が不要な企業が増えていけば社会全体の生産性も向上していくと考えられますね。

【参考記事】
■自社と関係ない人が考えた経営方針って役に立つの?小僧寿し報道に見る本当の狙い(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/40285661-20140811.html
■社会福祉法人の内部留保を『活用』させても何も改善しないですよね? (岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39628354-20140701.html
■耳触りの良い『軽減税率』導入に伴うコストはだれが負担するのですか?(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39890391-20140717.html
■連帯保証
http://keieimanga.net/archives/7790476.html
■モラルハザード
http://keieimanga.net/archives/7265304.html

中小企業診断士 岡崎よしひろ


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