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ようやく落ち着いた感があるアイス・バケツ・チャレンジだが、先日、支援先の経営者が指名され氷水をかぶっていた。幸いなことに私が次のチャレンジャーとして指名されることはなかったが、一度火が付いたときのネットにおける拡散効果は想像を絶するものがある。Wikipediaによると、2014年8月18日現在、キャンペーンに参加した人数は2400万人とのことだ。開始日は7月頃とされているので、おおむね40日ほどでここまで拡散したことになる。

■アイス・バケツ・チャレンジのルール
アイス・バケツ・チャレンジのルールはいたってシンプルだ。

1.「アイス・バケツ・チャレンジ」を受けることを宣言し、続いてバケツに入った氷水を頭からかぶり、そして次にこのチャレンジを受けてもらいたい人物を2人から3人程度指名する。
2.この様子を撮影した動画をFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアで公開してチャレンジ完了となる。
3.指名された人物はチャレンジを受ける場合、氷水をかぶる、または100ドルをALS協会に寄付する、あるいはその両方を行うのいずれかを24時間以内に選択する。
(Wikipediaより引用)

一般的に知人・友人に依頼されたことは断りづらいものだ。また「やる」、「やらない」を選択させるのではなく、どちらをやるか選択させていること、24時間という期限を設けていることも、チャレンジを断りにくくさせている要因だろう。ではいったい指名された人がどのぐらいの確率でアイス・バケツ・チャレンジに参加したら、これだけ莫大な数値となるのだろう?

■40日で2400万人が参加するためのチャレンジ確率を考える
計算を簡単にするために、以下のような追加ルールを設定した上で考えてみることにしよう。

【追加ルール】
・1日に実行されるチャレンジ(氷水をかぶる、100ドルを寄付する)は1回とする。
・チャレンジを実行した人間は、必ず次に3人指名する。チャレンジしなければ一人も指名しない。
・指名された3人は、ある確率に従って、チャレンジに参加するかどうかを判断する。
・チャレンジに参加する確率は、どのタイミングにおいても一定であり、変化しないと仮定する。
・指名されない人が勝手にチャレンジを始めることはない。

まずn日目にチャレンジをした人の数をNとする。n+1日目にチャレンジに指名される人の数は必ず3人指名するため、N x 3となる。このN x 3人は確率pによってチャレンジするかどうかを決定する。従って、n+1日目にチャレンジする人の数は、(N x 3) x pとなる。同様に考えるとn+2日目にチャレンジする人の数は、(((N x 3) x p) x 3) x pとなる。これを2日目から40日目まで繰り返した時、チャレンジした人数の累計を2400万人にするpの値は、p=0.5011となる。(この解はExcelのソルバーを使うことで、簡単に導くことができる。)

つまり、ほぼ半分の確率で指名した人がチャレンジすることにより、40日で2400万人に到達するということになる。
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グラフで確認すると、指数的にチャレンジ人数が増加していくことが一目でわかる。グラフには、参考としてチャレンジする確率が、0.49、及び0.51の場合もプロットしたが、確率が0.01上下するだけで、40日目のチャレンジ人数が1000万人単位で変化することも興味深い結果だ。

■シミュレーションでバラつきを把握する
ではチャレンジする確率が0.5011であれば、必ず2400万人に到達するかといえば、そうとも言えない。サイコロを6回振っても、必ずしもそれぞれの目が一回づつ出ることがないように、1回1回の試行にはバラつきがあるからだ。そこで乱数を発生させ、どのくらい参加人数にバラつきが出るかシミュレーションをしてみよう。

Excelで簡単なマクロを作成し、1000回試行を繰り返した場合のチャレンジ人数の累計をヒストグラムにしたところ、以下のようになった。
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試行回数が1000回とそれほど多くないこともあり、1000万~2000万人の範囲が最も頻度が高くなった。一方で、1~10人の範囲も228回と20%を超える回数で発生しており、少ない人数でイベントが終わることも決して少なくないことが分かる。

実際のアイス・バケツ・チャレンジにおいても、スポーツ選手やITセレブが比較的早期にチャレンジを実施したことが拡散の要因として指摘されている。つまり有名人によるチャレンジがこのイベントの認知度を上げ、参加確率を上げたことがイベントが初期のうちに終了する確率を減少させたと考えられる。

このようにシミュレーションを実施することで、現象の構造を数値として可視化することができる。実務においては、新規事業のリスク判断や、製造ラインの設計などでシミュレーションは利用されている。勘やバラつきを考慮しない計画で意思決定を行わないためにも、活用できる場面ではシミュレーションを積極的に利用することも考えるべきだろう。

《参考記事》
■メジャーで最も不運な投手?黒田博樹の安定力(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/40241196-20140808.html
■ダルビッシュが異議を唱える100球制限の根拠PAPとは何か?(村山聡 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39968949-20140721.html
■平均値をウソつき呼ばわりするのは、もうそろそろ終わりにしよう。  村山聡
http://sharescafe.net/39363307-20140614.html
■「飲み会は残業代出ますか?」と聞く前に新入社員が心得ておくべきこと 村山聡
http://sharescafe.net/38576145-20140430.html
■仕事セーブ要因のある女性こそ、経営者という選択肢も検討を (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39955025-20140721.html

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