電卓とショッピングカート

今年4月に17年ぶりとなる消費税率が5%から8%へと引き上げられました。今回の増税はこれで終わることなく、さらに来年10月に消費税率10%導入が予定されています。この増税と併せて生活必需品などの消費税率を低く抑える軽減税率の導入すべきかをの検討がされ、日本経済団体連合会(経団連)などへのヒアリングを実施しました。今年末には10%の消費税率引き上げと併せて、軽減税率導入の可否を決めることにしています。

■軽減税率の問題点
消費税の税率を上げると物を買ったりサービスを受けることへの税の負担が増します。軽減税率とは特に毎日購入する野菜や肉といった食料品など、ある品目に絞って限定的に税率を抑えて消費者の税負担を軽くしようとするもので、税率を低くしたり、まったくかけない非課税(ゼロ税率)とする方法があります。

軽減税率が導入されたら食料品は毎日買うものだから、その部分だけ税率が安くなるなら他の品目の税率が上がったとしても、日常生活にはさほど増税の影響がないのでは、と思うかもしれません。軽減税率のメリットは何といってもこれでしょう。

食料品や生活必需品を低所得者にも十分に購入できるように軽減税率を導入することは、いかもに弱者救済になるような政策ですが、消費税は広く一般に徴収を求める税金であって、実際には低所得者だけでなく高所得者にも公平にメリットが及ぶので富の再分配政策としての効果は非常に弱まります。また消費税の最大の問題点は、所得の低い人ほど負担が大きく、所得の高い、いわゆる金持ちには影響があまりないという逆進性が存在することです。

■難解かつ微妙な分別の軽減税率
日本の消費税にあたる付加価値税(Value Adeed Tax:VAT)はフランス、イギリスといったEU諸国で導入されています。EU諸国は軽減税率の先駆者であり、各国の特色を考慮して導入、施行されています。

私たち消費者にとって、魅力的なゼロ税率のあるイギリスをみてみますと、イギリスの税率は3段階で、ゼロ税率(0%)、軽減税率(5%)、標準税率(20%)になっています。イギリスの歳入税関庁のホームページには食料品だけをみてもかなり膨大で事細かに税区分や説明が掲載されており、軽減税率導入時からの紆余曲折ぶりが見て取れます。

ゼロ税率には日常生活の基本ともなる食料品や子供服等があり、確かにゼロ税率の子供服は子育て世代を擁護しようとする現れなのでしょう。ただし、国の施策にかなった消費を消費者がしてくれるとは限りません。

イギリス駐在員の奥様に聞いたお話ですが、駐在して間もないある日、日本人の奥様方が子供服のバーゲンに行くとお誘いがありました。「うちの子供はもう独立して関係ないのに」と思ったそうですが、ついて行くと、なんと奥様方はゼロ税率を利用して皆自分のための服を買っていました。因みに婦人服の税率は標準税率の20%です。日本人は小柄なので子供服と言えど、イギリスのサイズがあってしまうことがあるそうです。実際のところ、子供の数以上に子供服が製造販売されていることが現実となのです。

■軽減税率導入のつけは国民に
軽減税率が導入されると様々な問題が起こることが予想されます。まず、企業側には複数税率を扱うレジの導入や会計帳簿の複雑さに伴って起きる費用や時間の負担が大きくなります。大企業で導入できるようなレジや会計ソフトといったものを購入できない中小企業はどうなってしまうのでしょうか?税率が複数になることへの値付けや商品タグの付け替えといった作業は手間がかかるものになります。経理の帳簿に至っては、出張の際のホテル1つを例にとっても、宿泊費、食事、売店での物品の購入がそれぞれ違った税率になれば、それぞれ分ける必要が出てくるでしょう。

次に税務署(徴税側)ですが、消費税の調査官の業務がかなり増えることになります。これは複数税率のある諸外国の調査の経験上、手間が倍以上になると予想されています。結果として税務職員を増員することなりかねません。

そして何よりの問題は軽減税率の適用項目の難しさがあります。仮に「食料品」に限定しても毎日食べる食品から高級食材に至るまでその数は膨大です。軽減税率の選定にあたって、各諸団体は何としても自分たちの業界を軽減税率にしてもらおうと政府に陳情することになります。このことはそれを選定する政治家や官僚への癒着や天下り先を増やす結果になるのではないでしょうか?

最後に「軽減税率を導入した穴埋めとなる財源が足りない」ことを理由に、再度消費税の税率を簡単に上げる結果になります。軽減税率を導入したらそのつけは結果として国民が払うことになるのです。

■臨時給付金の申請はお済ですか?
軽減税率導入をすることによって以上に述べたように様々な問題が周りに潜んでいます。そもそも無駄をなくして消費税率を上げない議論があったことすら忘れてしまいがちですが、せっかく財源を増やす目的で増税するなら最初から発生するであろう諸問題は最小限にとどめるべきなのではないかと思うのです。

ところで消費税の8%増税を受けて、低所得者、子育て家庭への支援策として臨時給付金の申請はお済みでしょうか?

私の住む埼玉県新座市は7月に入って申請用紙が送付されてきました。申請方法は必要事項を書き込み、送付する非常に簡単なものです。今回の給付は1万円。たかが1万円ですが、されど1万円です。これは申請しないと受給できません。申請の期限は新座市の場合は10月1日までとなっています。各自治体によって期限が違いますが、もうすぐ申請終了という自治体もあるのではないかと思います。まだ受給申請していないという方は申請先はお住いの市町村ですので、確認をとってみることをお勧めします。

【参考記事】
■耳触りの良い『軽減税率』導入に伴うコストはだれが負担するのですか?岡崎よしひろ
http://sharescafe.net/39890391-20140717.html 
■お店を経営している人も生活者ですよね?消費税をめぐる報道を考える 岡崎よしひろ
http://sharescafe.net/38555851-20140430.html
■消費税 軽減税率は本当に実現するのか? カイケイ・ネット
http://sharescafe.net/36216212-20140108.html
■「消費税0%」CMに見る、ネットオークション取引への課税 カイケイ・ネット
http://sharescafe.net/39068295-20140529.html
■生活を直撃! 今だからこそ増税と緩和措置のおさらい 藤尾智之
http://sharescafe.net/36500215-20140119.html

浅野千晴 税理士

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