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広島市で発生した土砂災害により多くの尊い人命が失われた。犠牲者の方々のご冥福を心からお祈りしたい。


■避難勧告の発令遅れだけが問題だったのか
本件の被害拡大については、広島市の避難勧告が適切だったかが問題となっており、広島市長も、新聞で報道されているよう、避難勧告の遅れを認めている。

広島市の松井一実市長は26日の記者会見で、避難勧告が災害発生後になったことについて「勧告が早ければ被害が小さくなった可能性はある」との認識を改めて示した。条例に定めた形式的な基準だけでなく、複数の配慮項目を検討する作業をしていたという。

「制度が昼間ベースのもので、夜間対応ができなかった面がある」とも説明。より迅速に市としての活動ができるような仕組みづくりを検討するよう担当者に指示を出したという。
(8月27日 日本経済新聞WEB版)


確かに、避難勧告の発令方法を、より良い仕組みにしていくことは大切だ。だが、それだけで本当に悲劇の繰り返しは避けられるのだろうか。

ここで、避難勧告がどのような仕組みで発令されるのかを確認しておこう。

自然災害の脅威が生じると、気象台や河川の計測器等から市町村の災害対策本部へ情報が集められ、そこでの分析結果に基づいて、市町村長が最終判断をして避難勧告を出すというのが一連の流れだ。

すなわち、避難勧告というのは、現場にいる誰かが見極めて発令を行っているわけではなく、あくまでもデータ分析の結果として発令されるものということである。

データ分析が無意味だとは決して思わないが、刻一刻と移り変わる自然の驚異に対し、私たちはデータに基づく判断だけに頼り切って良いのであろうか。

また、東日本大震災のような大災害が起こった際には、行政機能自体が麻痺してしまい、データ判断など行うことができないような事態も想定できよう。

■地域密着型の防災対策が大切
とすると、行政の避難勧告に自分の命を100%委ねるのには、やはり無理があるのではないだろうか。

この点、自分たちの住んでいる地域のどこが危険かを知り、大雨や地震のとき、逃げるべきタイミングをいち早く判断できるのは、むしろ、そこに住んでいる私たち自身なのではないだろうか。

極端に言えば、見るからに裏山が崩れそうなのに、行政から避難勧告が出ていないから逃げない、というのはおかしな話である。

すなわち、私が申し上げたいのは、命を守るための防災対策を効果的に行うには、市町村という包括的な行政単位だけではなく、地域単位のコミュニティをもっと重視していくべきではないだろうか、ということである。その地域の詳しいハザードマップを作るとか、SNSで情報を共有するとか、地域密着型でできる対策には様々なことがあるはずだ。

また、今後さらに高齢化も進んでいくことも考えると、高齢者の方々を災害からどのように守っていくのかということも重要な課題である。危険が迫っていても、若い人のように走って逃げることはできないので、早目早目の避難行動を心がけなければならない。

そのためにも、地域コミュニティに防災意識を根付かせ、異変を感じたら隣近所で声をかけあって、いちはやく、自主的に避難を開始できるような体制を各地で作っていくことが、これからの日本には必要なのではないかと私は思うのだ。

■家族単位での防災意識の向上
さらに言えば、家族単位で防災意識を高めることも重要である。

私は先日、ご自身が阪神淡路大震災で被災した経験をもとに防災研究を始め、防災教育振興研究所を設立した仲西宏之会長に話を伺う機会があった。

仲西会長の話の中で私がとくに心に残ったのは、「災害が発生したとき、どこで合流するかといったような行動パターンを家族で共有してほしい」という話だ。

具体例として仲西会長が話をされたのは、東日本大震災のとき津波で大きな被害を受けた宮城県名取市での出来事である。地震直後、安全なところにいたのに、家族の安否が気になって市内に戻ってしまい、家族を探しているうちに津波に飲まれて死亡してしまったという方が少なからずいたということだ。

逆に、探されていた家族のほうは既に安全な場所へ避難して無事だったという、なんとも悲しい行き違いもあったそうだ。

大災害が発生したときには携帯電話も使えなくなるので、家族がバラバラになってしまったときどこで落ち合うか、といったことを話し合うのは、日常生活における防災意識を高め、最終的には命を守ることにもつながるのではないだろうか。

■安全は何よりも大切
また、利便性を優先しすぎないことも大切であろう。

ニュースや新聞などでも報道され、知る人も多いであろうが、東日本大震災において、岩手県宮古市の姉吉地区では、大津波で1件も住宅被害を出さなかった。

姉吉地区は、1896年の明治三陸大津波、および1933年の昭和三陸大津波で二度にわたって集落全滅に近い被害が生じた経験から、「ここより下に家を建てるな」という石碑を建立し、その教えを忠実に守ってきた。

確かに、漁業の町で港から遠い場所に住むのは不便であろう。しかし、人間が自然の脅威には勝てないことを認識して故人の教えを守ってきたからこそ、東日本大震災の津波からは救われたわけだ。

これに対し、広島の土石流に巻き込まれた地域の航空写真を見ると、無理やり山を切り開いたり、雨天時に水の流れる通り道を防いだりしているように見える住宅開発の様子が伺え、素人の私でも直感的に危機意識を持った。

私は土木や建築の専門家ではないので無責任なことは言えないが、住宅開発に当たり、経済や政治の理論が優先され、安全が二の次になっていたということはなかったのだろうか。

行政や住宅メーカーが「安全」という太鼓判を押したとしても、それだけで安心はせず、最後は自分の目で見て、自分で調べて、ここに住んでも大丈夫か判断するような主体性を持ちたいと私は思っている。

■結び
広島市の土砂災害の総括として、世論が「広島市の避難勧告が遅かったから被害が拡大した」ということに収束してしまうのを私は懸念している。

確かに、避難勧告の発令に問題はあったのだろう。だが、今回の土砂災害の教訓を、避難勧告の発令方法の見直しという観点だけでなく、私たち自身の防災意識を見直すきっかけとして受け止め、地域や家族といった単位での防災意識の高揚につなげていくことができれば、将来、多くの命を救うことにつながるのではないだろうか。

《参考記事》
■就業規則は5万円で作れる!社労士はヘンリー・フォードに学ぶべきだ。: エンプロイメント・ファイナンスのすゝめ
http://blog.livedoor.jp/aoi_hrc/archives/39646769.html
■社長必見!「うちの会社は10人未満だから」は禁句です。社員1人の会社でも就業規則を絶対に作らなければならない理由: エンプロイメント・ファイナンスのすゝめ
http://blog.livedoor.jp/aoi_hrc/archives/39651615.html
■社会保険労務士は本当に「経営者の味方」「労働者の敵」という仕事なのか? 榊 裕葵
http://sharescafe.net/35377589-20131204.html
■ワタミが「社員は家族」というならば、後藤真希さんのように振舞えるのか? 榊 裕葵
http://sharescafe.net/40391924-20140818.html
■きゃりーさんの無断撮影は、八百屋のシャッターを23時に叩くのと同じくらい配慮不足だった!? 榊 裕葵
http://sharescafe.net/40495735-20140825.html

あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵

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