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今年も最低賃金引上げのシーズンとなった。10月1日より各都道府県で順次最低賃金が引きあげられる。

■東京と地方の最低賃金の差
我が国においては、都道府県単位で最低賃金が定められており、最低賃金の高い東京都では869円から888円へ19円引き上げられ、最低賃金の最も低い鳥取県や長崎県は664円から677円へ13円引き上げられることとなっている。

都道府県によって最低賃金には200円以上の開きがあり、その差は広がる傾向にあるというのが現状である。

一般的には、都市部と地方では、都市部のほうが生活コストは高いのだから、都市部のほうが賃金水準も高くて当然だと言われている。

■本当に地方は生活コストが安いのか
だが、冷静に考えて本当にそう言い切れるのだろうか。

確かに、地方は東京や大阪といった都市部に比べ家賃は安い。

独身の若者が暮らすような1DKのマンションでいえば、東京は8万円程度の物件が、地方では4万円~5万円程度で借りられるであろう。家賃だけで年間の負担差は40~50万円になる。

だが、家賃以外の部分では都市部と地方で大きな差はあるだろうか。私は出張や旅行で地方に行くこともあるが、その地域のスーパーや家電量販店などをのぞいても、東京や埼玉の店舗と比べて安いとは思わない。

むしろ、都市部のほうが、激安スーパーがあったり、家電量販店も競争が激しいため値引きが大きかったりと、日常的な生活コストは安いという印象を受けるくらいだ。

また、光水熱費や電話・インターネットなどの通信費も地方だから安いということはない。

そして、忘れてはならないのは、地方で生活していくためには、自動車の保有が必要不可欠という事実である。多くの地域で駅前の商店街はさびれ、自動車でしか行けない郊外のショッピングモールに買い物の場が移っている。その上、公共交通機関である鉄道やバスも不採算で路線の廃止が相次いでいるからだ。

それでは、自動車を維持するために必要なコストは年間でどれくらい必要なのだろうか。

まず、自動車本体を買わなければならないが、軽自動車で考えると本体価格は100万円台前半が相場だ。例えば、ここ数年人気の本田技研のワゴン型軽自動車「N-BOX」ではメーカーのホームページの情報によると138万円からとなっている。8年乗るとしたら、1年あたりの取得費は約17万円だ。

そして、維持費として、ガソリン代、重量税、保険料、車検代、ガソリン代、駐車場代など諸々を考慮すると年間30万円は必要であろうから、本体の取得費と合わせると1年で50万円程度は自動車関係の出費として見積もらなければならない。

すなわち、結局のところ、地方の家賃が安いというメリットは、車の維持費でほとんど相殺されてしまうのである。

■若者が自立できる最低賃金を
このように考えていくと、地方と東京で200円以上も最低賃金の水準に差があるのは、不公平といわざるをないのではなかろうか。

絶対額で考えてみても地方で自立して暮らしていくのは、やはり手取りで15万円程度は必要である。計算根拠は若者の単独世帯を想定し、次の通りだ。

(家賃)4万円+(光水熱費)1万円+(通信費)1万円+(食費)3万円+(被服費・雑費)1万円+(交際費)1万円+(自動車関係費用)4万円=15万円

この計算結果に対し、例えば鳥取県の現在の最低賃金664円で、1日8時間フルタイムで働いたとしても、「664円×8時間×22日=11.7万円」に過ぎず、15万円には遠く及ばない。実際には社会保険料なども控除されるので、手取りは10万円前後であろう。すなわち、現在の地方の最低賃金水準では、フルタイムで真面目に働いたとしても、自立して生計を営むことは難しいのが現実なのだ。

仮に東京都の最低賃金で同じ計算をしたならば、「869円×8時間×22日=15.3万円」となり、額面ベースではあるが、これでようやく自立した生活が成り立つ水準なのである。

地方生活の若者の中には、親との同居で生活が成り立っている人も少なくはないであろう。だが、親がリタイアしたり、親の介護が必要になったりしたとき、生活を維持することは困難になることは想像に難くない。

地方だから賃金が安くて当たり前、という固定概念を捨て、地方でも若者が自立して生活できるだけの最低賃金水準を目指すべきではないだろうか。

海外でも、都市部・地方に関わりなく国家として単一水準の最低賃金を設定している国は少なくない。例えば、フランスでは時給9.4ユーロ(1ユーロ140円換算で1,316円)、ドイツでは8.5ユーロ(1ユーロ140円換算で1,190円)である。

■企業への配慮も必要
とはいえ、地域の企業が儲かっていなければ「ない袖は振れない」。したがって、無理矢理地方の最低賃金を引き上げたり、全国一律の最低賃金を導入したりしても、ますます地方経済を疲弊させるだけで、逆効果であろう。

リーマンショック前は、地方経済の活性化の施策としては、大手製造業の工場誘致が決定打であった。シャープの亀山工場、本田技研の熊本製作所などはその代表例であった。

だが、リーマンショック後は、国内需要の縮小や為替リスクを分散するため、逆に国内の製造拠点を縮小して、海外へ移転する動きが加速している。

■進むべき方向性
とするならば、観光業のような地域独自の資源を生かした産業の育成や、地域産業のコアになる可能性を秘めたオンリーワンの技術を持った企業を支援すること、あるいは、地域で起業する若者を支援することを通じて、これからの地方経済を発展へ導いていくべきではないだろうか。

ちなみに、パナソニックの創業者、松下幸之助氏は、60年以上も前に観光立国論を唱えている。さすが名経営者、先見の明を持っている。氏の具体的な発言をいくつか抜粋すると次の通りだ。


「日本の美しい景観を日本人は今まで自国のみで独り占めしてきたが、相互扶助の理念に立って広く世界に開放すべきである。」

「物品の輸出貿易は日本のなけなしの資源を出すが、富士山や瀬戸内海はいくら見ても減らない。運賃も荷造箱もいらない。こんなうまい事業は他にはない。」
                                 (「文藝春秋」昭和29年5月号)

「アメリカ人は政治もうまいし、商売もうまい。だから、もし今、日本人とアメリカ人が全部国を入れ替えたなら、彼らはたちまちのうちに、この自然の景観を活かして、日本を観光の楽土にして、世界を相手にドンドン金を儲けることでしょう」
                             (昭和29年9月 大阪朝日会館講演)


米国にも目を向けてみよう。著名な企業の本社は決してニューヨークやワシントンに固まっているわけではない。例えばGoogleはカリフォルニア州マウンテンビュー、デルコンピュータはテキサス州ラウンドロック、P&Gはオハイオ州シンシナティにそれぞれ本社を置いている。伝統ある会社、新しい会社を含め、米国各地で様々な会社が活動しているのだ。また、ラスベガスのような砂漠の中の何もない街でも、レジャーを核にして大いに発展している例がある。

日本も、東京一極集中ではなく、米国のように地域分散型の経済発展をしていくことはできないであろうか。IT技術の発達に加え、新幹線や高速道路網も整備されているので、少なくともインフラ面では不足はないはずである。

これらを踏まえ、地方分散型の経済発展を実現していけば、地方経済の活性化に裏づけされた最低賃金の引上げもおのずから実現され、地方の若者が経済的に自立していく後押しをできるのではないだろうか。

《参考記事》
■女子高生のバイトの時給は、なぜパート主婦より安いのか? 榊 裕葵
http://sharescafe.net/40790237-20140912.html
■サラリーマンも長期稼動するための秘訣を山本昌投手に学ぼう 榊 裕葵
http://sharescafe.net/40740710-20140909.html
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あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵


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