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御嶽山の噴火で犠牲になった方は、51人にも達したそうだ(2014年10月5日現在)。自然災害とはいえ悲しい限りである。

■生還者の方の心のケア
一方で、助かった人も無事で良かった、ということでは済まず、産経新聞に生還者の精神状態を懸念する次のような記事が出ていた。

御嶽山の生還者の精神状態が懸念されている。長野県によると、災害などで大きなストレスを受けた際に不眠や心身の不調などが起きる「急性ストレス反応」を訴える人が複数いるという。突然恐怖の記憶がよみがえる心的外傷後ストレス障害(PTSD)を引き起こす恐れもあり、心のケアが課題だ。

(中略)

福島県立医大の前田正治教授(災害精神医学)は「家族や友人を救えなかった生還者は1人生き残ったことに罪悪感を抱く。分散した生存者救済のネットワーク作りが重要だ」としてきしている。 (産経新聞 2014年10月5日)


一緒に登山をしていた家族や仲間が亡くなることは、大きな衝撃であったろう。生き残った方の心のケアは、本当に大切なことであるのは間違いない。

■大災害発生時の心構え
現在、私は、防災関係のあるNPO法人の立ち上げを手伝わせて頂いているのだが、そのNPO法人の勉強会で次のようなことを学んだ。

「人の力が及ばないような大災害時には、1人1人が自覚と責任を持って行動するしかない。全員が助かればハッピーだが、結果的に自分だけ生き残ったとしても、それは決して罪悪ではない。」

ということだ。

■東日本大震災津波被害の教訓
このことに関し、勉強会の講師として登壇された、防災教育振興研究所の仲西宏之会長が語った次の一言が強く心に残っている。

「まずはとにかく逃げてください。」

これは、仲西会長が、フィールドワークを含め、東日本大震災の津波の人的被害を研究して確信に至ったという。

津波で大きな被害を受けた宮城県名取市を訪問したとき、地震直後、安全なところにいたのに、家族の安否が気になって市内に戻ってしまい、家族を探しているうちに津波に飲まれ死亡してしまったという方が少なからずいたということを知ったそうだ。

逆に、探されていた家族のほうは既に安全な場所へ避難して無事だったという、なんとも悲しい行き違いもあったそうだ。「自分だけ助かってはいけない」「家族を助けなければならない」という考えが、裏目に出てしまったのである。

このとき、「津波が起こったら、家族は町の高台に避難してそこで落ち合う」という約束をしていて、それを守っていれば、家族全員が助かっていたかもしれない。それが、防災教育ということだ。

■伊勢湾台風で起こったこと
話が変わるが、私が生まれ育ったのは、木曽川沿いの海抜ゼロメートル地域にある弥富市という場所で、JRの弥富駅は「地上駅で日本一海抜が低い場所にある」という記録を持っている。

小中学校の社会科の授業では、低地であるがゆえ、伊勢湾台風のとき大きな被害を受けたことを学んだ。市内には「ここまで津波が押し寄せたのだ」というモニュメントも残っている。

ところで、伊勢湾台風で人的被害が拡大したのは、純然たる水害だけでなく、「材木」が原因だったことを皆様はご存知であろうか。

弥富市の南部を含む名古屋港沿岸部には、丸太状の材木の原木を水に浮かべて貯蔵している場所があり、洪水によってそこから流れ出た材木が濁流とともに人々を襲い、民家を直撃したとのことである。命からがら屋根の上に家族で避難していても、材木の直撃で家が破壊され、家族バラバラになって流されてしまった人も少なくはなかった。

まさにその時、大人から子どもまで、自分の力、自分の判断で生き残るしかなかったのだ。何が起こったのか、当時の状況を詳しく知りたい方は、「伊勢湾台風物語」というアニメ映画を是非ご覧頂きたい。

■アメリカでの危機管理教育
もう1つ話を変えると、これも先ほど登場頂いた仲西会長から教わった話だが、アメリカの教育ではこんなことを教えるのだそうだ。

「1人倒れていたら助けてあげよう。2人倒れていたら注意しなさい。3人倒れていたら逃げなさい。」

つまり、3人もその場に倒れているということは、何か、ただ事ではない危険がこの場所で起こっているので、ただちにその場を立ち去るべきだという意味である。

例えば、そこが登山道であれば、硫化水素などの有毒ガスが充満しているのかもしれない。

ただちにその場を離れ、安全な場所まで移動した後に、携帯電話などでレスキューを呼んだり、後から来る人に近づかないよう注意を促したりするのが正しい対応だ。

状況もわからないままこの場所に留まり、無理に助けようとすると、自分が4人目の犠牲者になりかねない。倒れている3人を置いていくのは、決して卑怯なことではない。とにかく、まずは安全な場所まで移動し、その後に自分ができる最大のことをするしかないのだ。

■災害に備え私たちはどうすればよいか
ここまでいくつかの具体的な話を紹介してきたが、結局どうすればよいかというと、大人から子どもまで、私たち1人1人が、「いざとなったら最後は自分の命は自分で守るのだ」という強い決意を持つことが大切なのではないだろうか。

登山をするならば、「ベテランの○○さんと行くから、私は着いて行けば大丈夫」ということではなく、万一、はぐれて自分1人になったとしても、遭難や滑落から身を守り、不幸にも今回の噴火のような緊急事態に遭遇した場合でも、どうすれば生き残るために最善を尽くせるか、そのことを主体的に学んでから山に入ることが必要なのであろう。

噴火に限らず、地震や津波といった自然災害は、いつ何時起こるか分からない。家族と一緒のときかもしれないし、ひょっとしたら自分1人のときに起こるかもしれない。

また、仮に家族と一緒であったとしても、大きな自然災害が発生したら、どんなに頑張っても、先ほどの伊勢湾台風の話のように、人間の力の及ばない不可抗力で、家族を助けられないかもしれない。

そのような前提のもと、私たちにできるベストなことは何かと言うと、やはり、家族や地域社会、あるいは学校教育で常日頃から防災について学んだり話し合ったりして、防災への関心を高め、啓蒙していく、ということではないだろうか。学習指導要領の改訂時に、防災に関する学習が厚く盛り込まれるという話も聞いている。

そのような防災への意識の高まりや教育の成果として、有事の際には1人1人が、自分で責任を持って果敢に行動することで人的被害を最小化し、また、生存者の方の心のダメージを和らげることにもつながるのではないだろうか。

御嶽山の噴火で亡くなられた方々のご冥福をお祈りし、本稿の筆を置きたい。

《参考記事》
■緊迫感漂う天丼屋。パワハラ店長では決して良い店は作れない理由 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41024581-20140926.html
■女子高生のバイトの時給は、なぜパート主婦より安いのか? 榊 裕葵
http://sharescafe.net/40790237-20140912.html
■サラリーマンも長期稼動するための秘訣を山本昌投手に学ぼう 榊 裕葵
http://sharescafe.net/40740710-20140909.html
■社会保険労務士は本当に「経営者の味方」「労働者の敵」という仕事なのか? 榊 裕葵
http://sharescafe.net/35377589-20131204.html
■ワタミが「社員は家族」というならば、後藤真希さんのように振舞えるのか? 榊 裕葵
http://sharescafe.net/40391924-20140818.html


あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵


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