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女性登用を促すため、管理職比率の数値目標設定を義務付けるのか義務付けないのかという議論があったのですが、女性登用の数値目標の公表を義務付る方向で決着したようです。

『企業の配慮』し、数値目標設定の義務付けを見送るという報道が、9月27日時点で以下のようになされていたのですが

厚生労働省は27日、秋の臨時国会に出す女性登用を促す新法で、企業に対して女性管理職の比率といった数値目標の設定の義務づけを見送る。目標設定に慎重な経営者側の声に配慮した。企業に公表を義務付ける「行動計画」は女性登用の方針や取り組みなどにとどめる。2014/09/27 日本経済新聞


一転して数値目標の公表を義務付けるようになるようです。報道では

厚生労働省の労働政策審議会(厚労相の諮問機関)は7日、政府が臨時国会に提出予定の女性活躍法案の要綱を承認した。従業員301人以上の大企業に独自の女性登用の数値目標を公表するよう義務付ける。2014年10月8日 日本経済新聞


とされており、従業員301人以上の大企業に、女性登用の数値目標の公表を義務付けるとはっきりと謳っています。

■とはいえ、骨抜き感が
さて、数値目標の作成と公表が義務付けられたわけですが(数値目標の公表が義務付けられるという事は、数値目標を定めることも必須となります)気になる表現が報道にはありました。

それは、

 法案は2016年度から10年間、数値目標を含む行動計画の公表を大企業に義務付ける。ただどんな項目について数値目標を定めるかが完全に企業まかせになっている。数字さえ入れば、従業員の意識調査といった目標であっても「法律上は問題ない」(雇用均等政策課)。法律に実効性が伴うかどうかは不透明だ。2014年10月8日 日本経済新聞


といった事で、どんな数字であっても公表さえすれば義務は果たされるという事です。

なんだかどうしても『数値目標』といった言葉を盛り込みたかった人たちと、盛り込みたくなかった人たちが綱引きをした結果、なんだかモヤモヤするところに落ち着いだんだな、といった雰囲気がありますね。

■女性管理職の比率といった数値目標の設定でもかまわないのでは
今回は、女性登用の数値目標は義務付けされたものの、何に対する数値でもよいといった実効性が乏しいものとなった感があります。

報道にもありますが、従業員の意識調査という数値目標を立て、それを公表することであっても問題ないという事なので、真剣に取り組む気があまりなければ適当な数値目標を公表してお茶を濁すことも可能ですからね。

しかし、筆者は「女性の管理職比率を義務付ける事であっても構わないし、特に反対する理由は無い」と考えます。

というのは、男女平等は既に当たり前というか、意識しない前提条件の一つになっているためです。そして、平等であって働いている人の数も男女でほとんど差が無いのであれば、管理職の数も男女比と同じようになるべきだと考えられるからです。

教育の場でも、就職活動の場でも平等に競争をしてきたにもかかわらず、企業での管理職の数が男性に明らかに偏っているというのは、ちょっとアンフェアーである気がするのです。

そして、アンフェアーの是正のためであるならば、多少強引な手法であっても正当化されると考えられます。結果さえよければ、手段は常に正当化されるといったのはマキャベリッツですが、女性管理職の登用人数義務付けという手段も、短期的には問題があると考えられますが長期的には問題は少ないと考えられるのです。

■反対理由は長期的には解消できる
「女性管理職登用の数を義務付ける事に特に反対する理由はない」考える筆者とは異なり、義務付け反対については次のような理由が出されているようです。

 厚労省や労働組合は数値目標の公表の義務化を求めていた。ただ経営者側から「数値目標をつくれば安易な数合わせの人事が行われる」、「業種によって女性登用の状況が違う」など批判が強いため義務化を見送る。2014/09/27 日本経済新聞


報道によると、女性管理職の数値目標を作ると「安易な数合わせ」が行われるといった批判が出ているとの事です。しかし、このような批判については長期的には解消できるものと考えられます。

例えば、仮に女性管理職登用の数値目標が義務化された際、適切な人選を行う事ができず『安易な数合わせ』が行われたとします。(安易な数合わせなどという言葉が、女性の正当なキャリア育成を怠っていた証拠のように思われます。)

しかしながら、このような状況を放置することは企業の競争力を損なう事であることは賢明なる経営者の皆様にあえて指摘するまでもない事です。性別にかかわらないキャリア育成がなされないと企業の競争力を損なうという事になるのです。

言い換えると、短期的に『安易な数合わせ』がなされるのであったとしても、いつまでも『安易な数合わせ』のままにならないような努力が必然的になされる。その結果、女性登用は特別なことではなく、性別によるアンフェアーは是正されるという事ですね。

男女間のアンフェアーを放置することによって、企業の競争力が損なわれる状況に追い込まれるのであれば、経営者が動かなくとも、株主や債権者などは黙ってはいないですからね。

■本当の問題は
いずれにしても、今回の女性活躍法案は骨抜きになっています。「どんな数値目標でもいいから出してね」などと言われたら、まじめに取り組む気が無いような企業は『女性管理職登用の意識調査』を実施しますなどという、数値を公表すればそれで済むわけですからね。

但し、今回の法案は骨抜きになりましたが、本当の問題は『安易な数合わせ』などという暴言が日本を代表する経済紙に普通に掲載されるような空気にあると思います。

『安易な数合わせ』こんな失礼な物言いはちょっとあり得ないと思います。なぜ基本的には人口の半数を占める女性がわずか30%程度の管理職を担おうとするだけで『安易な数合わせ』になってしまうのか。

それは、女性は男性と比較してキャリアを中断せざる負えない状況にある事が原因と考えられます。内閣府によると

正規雇用として働き始めた女性も,結婚,出産等とライフイベントを重ねるにつれて,徐々に,非正規雇用,あるいは一時的な離職といった選択を行っていると考えられる。
中略
なお,男性には,このようなライフステージと連動した就業形態の変化は見られない。
(出典:内閣府男女共同参画局)


といった内容が公開されています。

現在でも国は、女性がキャリアを中断することが少なくなるよう、様々な制度を作っています。しかしそれでも、女性の方が結婚や出産といったライフイベントを経ることによって一時的な離職を余儀なくされる傾向が強いのです。

そして、その結果キャリアが中断されてしまう人が多く、管理職としての素養を身につけるのが難しい。とすれば、国が今までやっている事以外の方法でキャリアを中断することなく働き続ける事を容易にしていくしかないですよね。

それには、女性の登用を国や社会全体から企業の社会的責任といった物言いで押し付けられるのではなく、企業自ら、それに経済的合理性があると考えるようになる事が有効であると思われます。このために、法律で女性管理職の比率を義務付けるというアプローチは非常に効果的であると考えられるのです。

というのは、優秀な人材に会社を去られてしまっては損失になる為、女性が働き続けやすい職場を作る事が企業の戦略として非常に重要となってくる。すると、企業の戦略に当たり前に組み込まれていく。つまり、女性が働き続けやすい職場を作れば、企業の競争力が向上するといった風に、経済的合理性を持たせる事ができるというわけです。

筆者は社会全体の生産性を上げるためには、男女にかかわらない機会の平等を確保し、優秀な人材に頑張ってもらう事が大切であると考えます。そして、機会の平等の確保のための一歩として非常に強力な方法であった、女性管理職比率の数値目標設定が骨抜きにされてしまった事を残念に思うのです。

【参考記事】
■経営者保証という見えない鎖を外すためのガイドラインを活用し、有限責任というタテマエをタテマエではなくそう(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://4416keiei.net/archives/11710187.html
■お店を経営している人も生活者ですよね?消費税をめぐる報道を考える 岡崎よしひろ
http://4416keiei.net/archives/cat_496438.html
■社会福祉法人の内部留保を『活用』させても何も改善しないですよね? (岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39628354-20140701.html
■耳触りの良い『軽減税率』導入に伴うコストはだれが負担するのですか?(岡崎よしひろ 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39890391-20140717.html
■ソニーのPC事業売却の意義を固定費というキーワードで解説し、部下の尊敬を勝ち取ろう 岡崎よしひろ
http://sharescafe.net/36933366-20140208.html


中小企業診断士 岡崎よしひろ

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