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乃木坂46に所属する松村沙友理さんの「路上キス事件」がメディアで大きく取り上げられている。松村さん本人はラジオ番組で謝罪を行った。

■アイドルが恋愛をしたら誰に何を謝る必要があるのか?
松村さんは、「この件で多くの皆様にご迷惑をおかけしたことを深くお詫びします」という言葉で謝罪メッセージを結んでいた。

ところで、謝罪とは「罪」を「謝る」と書くが、松村さんが誰に迷惑をかけ、何に対して謝っているのか、私はイマイチ腑に落ちないのが正直な気持ちである。これは、今回の件に限ったことではなく、アイドルの恋愛や男女関係が発覚したときの謝罪会見でいつも思うことだ。

そこで、今回の事件を踏まえ、論理的に分析をしてみることにした。

■刑事上の責任はあるのか?
まず、「罪」といえば刑法が頭に浮かぶが、「路上キス」は何か犯罪に当たるのだろうか。

キスは双方合意の上であるから強制わいせつ罪が成立する余地はないし、また、路上でキス以上のことをしていたならばともかく、それだけであれば、刑法上の公然わいせつ罪はもちろん、軽犯罪法や迷惑防止条例にも該当するものはない。

つまり、少なくとも刑法上は無罪であり、何か法に触れることをしたから謝らなければならない、という場面ではないということだ。

■民事上の責任はあるのか?
とすると、民事上の責任なのか。

報道されている内容が事実ならば、男性のほうから誘ったということであるし、松村さんは相手が既婚者であることを知らなかったのだから、「不倫」についての故意性はなく、不倫相手の配偶者に対して損害賠償をすべき責任はないし、道義的な意味でも謝罪をする必要はない。

このように見ていくと、刑法上の犯罪でもないし、民事上も賠償責任も問われないならば、例えアイドルであったとしても、何を謝らなければならないのか、ということが、むしろ逆に疑問になってくるのだ。

アイドルも人間には変わりないのだから、我が国の憲法や法律のもとでは、独身であるならば恋愛や男女関係は自由なはずである。

■ファンに対する責任はあるのか?
では、やはり「ファンに対する責任」という考え方に行き着くのだろうか。

乃木坂46の公式ホームページには「松村沙友理の一連の報道に関しまして、ファンの皆様に多大なご心配をお掛けしましたことを深くお詫びいたします」という一文があった。

しかし、アイドルが恋愛をしたとしても、ファンに対して損害賠償責任があるかというと、アイドルとファンの間には契約関係があるわけでもないし、ファンに何かしらの具体的損害が発生するわけでもないから、ファンに対しても刑事上の責任はおろか、民事上の責任もないはずである。

そうであるならば、何も、ファンに対して平身低頭で謝る必要はないのではなかろうか。

あの山口百恵さんだって、「引退する」という意味で、ファンに対して「申し訳ない」という言葉を使ったかもしれないが、恋愛をしていること自体に対しては、平身低頭の謝罪などせず「私が好きなのは(三浦)友和さんです」と、堂々の恋愛宣言であった。

松村さんも、今回の相手が既婚者ではなく、本当に独身だったとしたら、アイドルを引退して彼と付き合うなり結婚するくらいの覚悟があったのか、ということだ。

本当に人を好きになったのに、アイドルだからということで、事務所が無理やり謝罪会見をさせたり、力ずくで別れさせたりしようとするのは重大な人権侵害である。ファンも、本気の恋愛だったならば、最終的には暖かく送り出すはずだ。

だが、逆に言えば、平身低頭の謝罪会見を行うということは、恋愛が単なる「火遊び」だったと理解するしかあるまい。

■アイドルの責任は一義的には事務所との契約責任
極めてビジネスライクな言い方を許していただくと、アイドルという職業は、「ファンがアイドルに対して擬似恋愛をする」という形式で成り立っている。アイドルにとって「恋愛感情」というものは、プロ野球の投手の「肩」や、Jリーガーの「脚」と同じくらい重要な商売道具なのである。

プロ野球の投手が肩を壊したら引退せざるを得ないのと同様、擬似恋愛の対象ではなくなったアイドルも引退するしかない。だからこそ「恋愛禁止」なのだ。

確かに、人権的な意味で「恋愛」という極めて精神的なものをどこまで契約で制限できるかは難しいところであるが、アイドルが擬似恋愛の対象でなくなってしまうと、ファンが離れて、コンサートのチケットやグッズが売れなくなってしまったり、CMがキャンセルになってしまったりするので、所属事務所にとっては大損害である。アイドルの恋愛は、事務所にとっては経営上の死活問題なのだ。

だから、松村さんが本当に謝るべき相手は、自身のイメージダウンによって損害を与えてしまった所属事務所に対してである。

その上で、損害を最小限に抑えるためのアクションとして、ファンへの謝罪という「パフォーマンス」を行った、というのが極めてビジネス的な分析である。事務所も、松村さんがアイドルを続ける以上、ファンが離れては困るから一緒に謝罪をしたわけだ。

■アイドルの恋愛のあり方
結論としては、自分の意思でアイドルという職業を選んだのであるから、中途半端な恋愛や「火遊び」は、アイドルとしての責任を自覚して慎むべきであろう。ビジネス的な意味では、所属事務所から契約解除はもちろん、損害賠償をされても文句は言えない。

しかし、本当の恋愛をしてしまったならば周囲もそのことを尊重すべきである。その上で、アイドル本人としては、引退するか、あるいは女優や歌手など違った路線に移るかといった身の振り方を、週刊誌にスッパ抜かれる前に、事務所と相談して決め、山口百恵さんのように然るべきタイミングで発表するのが、プロとして責任ある行動なのではないだろうか。

《参考記事》
■緊迫感漂う天丼屋。パワハラ店長では決して良い店は作れない理由 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41024581-20140926.html
■女子高生のバイトの時給は、なぜパート主婦より安いのか? 榊 裕葵
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あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵


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