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昨日、クラウドワークス社の吉田浩一郎社長から話を伺う機会があり、面白い造語を教えていただいた。その造語というのは、「クラウドママ」である。

■そもそも「クラウドママ」とは?
「クラウドママ」の前に、まず「クラウドソーシング」という言葉の意味を確認しておきたい。「クラウドソーシング」とは、企業が外注したい仕事について、ピンポイントで誰かを指名するのではなく、WEB経由で広く募集し、個人がフリーランスの立場で請け負う仕組みである。

そして、肝心の「クラウドママ」であるが、育児をしながらクラウドソーシングで仕事を受けるママのことを、吉田社長は「クラウドママ」と名付けたそうだ。クラウドワークス社に登録している女性のうち、半数以上が子育て中で、さらに、そのうち6割は小学校入学前の子どもがいるということである。

私は、社会保険労務士として、産前産後休業や育児休業について相談を受けることも少なくないが、今回「クラウドママ」の話を聞いて、これは、多くのママが苦労している育児と仕事の両立における様々な問題を解決できる働き方だと確信した。本稿では、私が考える「クラウドママ」のメリットを具体的に論じていきたい。

■「クラウドママ」として仕事に復帰する
第1のメリットは、「クラウドママ」ならば、出産・育児のために退職したママが、仕事へ復帰するための扉を、無理なく開けることができるということだ。

我が国において、小さな子どもがいるママが再就職を果たすのは、なかなかハードルが高いことであるというのは周知の事実だ。子どもが病気になったときに欠勤や早退をしたり、残業や休日出勤ができなかったりということは、経営者側にとってはストレスなので、子育て中のママを積極的に採用する企業は少ないからだ。

逆に、ママが仕事を得るために、無理をして「残業も休日出勤もします。」と答えると、今度はそれがママにとってのストレスになってしまう。

だが、クラウドソーシングの仕組みを使えば、会社もママも、お互い自然体でストレスなく、仕事の受発注ができる。そこには雇用関係は介在せず、1つ1つの具体的な仕事単位で「受ける」「受けない」の意思決定ができるからだ。

すなわち、クラウドソーシングによって企業から提供される仕事は、プログラミングやデザインのような専門的なものから、テープ起こしや議事録の清書のように、比較的難易度の低い仕事まで様々あり、その中から「クラウドママ」は自分の経験や能力に応じて、対応可能な仕事を選ぶことができるということだ。また、どのくらいの量の仕事を受けるかもママ自身が決めることができるので、子どもの成長に合わせ、受ける仕事の量を、無理なく増やしていくというようなことも可能なのでる。

■「クラウドママ」になって子どもに「おかえり」を言おう
第2のメリットは、「クラウドママ」は在宅勤務が基本なので、通常の働くママがより積極的に、「母親」としての役割を果たせるようになるということだ。

現在、多くの働くママが保育園の送り迎えで苦労をしているし、また、子どもが小学校に上がった後は、短時間勤務や残業の免除も受けられない会社が大半なので、共働きの家庭の子どもは、いわゆる「鍵っ子」になってしまう。核家族化が進んでいる現代はなおさらだ。

実際のところ、やはり学校から帰ってくる子どもに「おかえり」を言いたいのが多くのママの本音ではないだろうか。近年、再び専業主婦志向が強まっているのは、そのような背景もあるのかもしれない。

子どもの側から見ても、私自身の体験談で恐縮だが、私の母は私が中学を卒業するまでは専業主婦だったので、帰宅して親がいるというのは、やはり、無意識ながら安心できるものがあった。

この点、「クラウドママ」は専業主婦の良い所を取り入れた、新しい働き方ということができよう。朝、家事を済ませ家族を送り出した後、自宅のパソコンに向かって仕事を始める。子どもが学校から帰ってきたら、休憩がてらおやつを用意し、夕飯を準備する時間までまたパソコンに向かう。そんな働き方が可能になるのだ。

「クラウドママ」ならば、発注した企業と約束した「納期」さえ守れば、柔軟な働き方が許され、仕事と家庭の両立を無理なく実現することができるわけだ。

■「クラウドママ」は長時間労働問題をも緩和させる!?
第3のメリットは、「クラウドママ」が広がれば、長時間労働が緩和されるということである。これは、「クラウドママ」自身というよりも、社会一般が享受できるメリットだ。

私が独立前に勤めていた会社の後輩は、現在育児休業をとっているが、彼女は英語とタイ語を操るバイリンガルで、損益計算書や貸借対照表も読みこなし、エクセルやパワーポイントも使いこなすことができた。また、私が退職する直前に育児休業から復職した先輩は、仕事をテキパキこなす有能な社長秘書である。

私の元同僚の話はほんの一例であるが、我が国において、そのような高度なスキルを持った多くの女性が、育児休業を取得したり、結婚や出産を機に退職したりしていることは間違いない。彼女らが「クラウドママ」になったら、クラウドソーシングする側の企業にとっては頼もしい戦力になることは疑いないであろう。「クラウドママ」にとっても、せっかく身に付けたスキルを錆付かせることなく、能力を発揮する場を得ることができる。

そして、クラウドソーシングされる仕事が増えれば、企業内の社員は長時間労働から解放されるし、もはやサービス残業が許される時代ではないので、正社員に高い割増賃金を払って残業をさせるよりは、「クラウドママ」に仕事を依頼したほうが、コスト的にも優位性があるのではないだろうか。

また、長時間労働から開放されたならば、パパのほうも育児に積極的に参加しやすくなるであろう。これは「クラウドママ」の副次的効果だ。「クラウドママ」の普及は、ママの子育てに貢献するにとどまらず、パパの育児への参加にさえもつながるのだ。

■結び
このように、育児に取り組むママにとってはもちろん、企業側にとっても多くのメリットがある「クラウドママ」という働き方が定着すれば、日本の育児環境は大いに改善するのではないだろうか。

「クラウドママ」が我が国に定着することを、私は願ってやまない。

《参考記事》
■女子大生でも分かる、3年間の育児休暇が最悪な結果をもたらす理由。 中嶋よしふみ
http://sharescafe.net/archives/31977168.html
■育休取得でも増えない女性の出産後就労。本当にマタハラが原因? 後藤百合子
http://sharescafe.net/41707534-20141103.html
■出産後も仕事をやめずに働いた方がいい3つの理由 小紫恵美子
http://sharescafe.net/40839083-20140915.html
■女性の職場復帰を阻む一番の壁をなくそう! 誰でも利用できる保育サービスをつくるために「普通の人」ができること Woman type
http://sharescafe.net/40430667-20140820.html
■偽装請負の被害者にならないために知っておきたい最低限のこと 榊 裕葵
http://sharescafe.net/35179827-20131127.html

あおいヒューマンリソースコンサルティング代表
特定社会保険労務士・CFP 榊 裕葵

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