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今年4月に5%から8%に増税になった消費税ですが、これに伴い実施された「子育て世帯臨時特例給付金」事業で、福祉給付金の申請率が、低い結果にとどまっています。これの結果に様々な自治体が給付率を上げるべく、期間延長や申請書の再送付といったことに乗り出しています。

■進まぬ給付金支給状況
今回給付する臨時給付金には2種類あります。臨時福祉給付金とは、今年度の住民税に課税されていない低所得者層を対象に原則一人1万円が支給される家計支援策です。支給対象としては、年金暮らしの高齢者が多いのが特徴です。また子育て世帯臨時特例給付金は、児童手当が支給される子どものいる世帯で、子供一人当たり1万円を支給するという制度になっています。

この2つの臨時給付金のうち、支給状況が特に問題になっているのは高齢者世帯を中心とした臨時福祉給付金のほうです。「手続きがよくわからない」「通知をうっかり捨ててしまった」などから「そもそも自分が支給対象でないと思った」といった理由から支給対象であるにも関わらず、申請しないケースがあるそうです。こういったケースから給付率が上がらず、5割程度にとどまっている自治体も存在します。

■支給にも税金が使われている
この臨時給付金は市町村が窓口になって配布していますが、国の制度として行われ、市町村が窓口となって給付を実施しています。給付の財源は国から、事務コストも国が負担することになっています。このコストは給付の1割から2割近くになると言われています。

まず、申請書を対象だろうと想定される世帯に申請書類を郵送する、返送するのでそのための郵送料、臨時給付金を振り込むための銀行手数料、給付金事業のためにかかった人件費などがあります。また、申請のない人に確認のために電話をしたり、訪問したりする自治体もあるそうですから、これまた2重3重にコストがかかってきてしまいます。

今回の臨時給付金は、あくまでも一回限りで、消費税の税率を上げる上での国民を納得させるための措置であり、期限付きの申請です。申請がないと、どういった事情があったかどうかに関わらず、自動的に辞退したことになって給付をされないことになってしまいます。

では、給付金を効率よく配布するにはどうすればよいのでしょうか?元気な高齢者であれば、本人証明を持参したうえで窓口まで来て給付というのも原始的な方法ではありますが、その場で納得出来たうえで給付できる1つの方法かもしれません。給付金を配布するという行為は税金を使って給付するわけですから、できる限り効率よく国民に配布することが重要であると考えられます。

ただし、一回限りというのは、制度として確立されているものでないため、非常に効率の悪いものとなってしまいます。臨時給付金は、政治的に税率を上げることを国民に納得させるためのカンフル剤的な手段としては有効ですが、次に続かないために「行き当たりばったりの愚策」になってしまいがちです。

■臨時給付からの脱却の必要性
実はこの給付金、ある一定の品目に絞って税率を低くし、消費税の負担を少なくしようとする軽減税率を導入する代替案としても考えられています。日本では軽減税率ほど話題になっていない制度ですが、諸外国では「給付付税額控除制度」として導入され、施行されている制度です。

給付付き税額控除とは、納税額を少なくする税額控除と手当給付を組み合わせた制度で、給与等の税額を計算する上で税金が算出されると、その税金から一定額を控除し、税額が少ない、または全くないケースでは給付を受けることになります。例えば、10万円の給付付の税額控除を行う場合、税額が15万円の人は5万円を納付し、(10万円の税額控除)、税額が5万円の人には5万円は税額控除し、あとの5万円は支給されるという仕組みです。給付金の支給は軽減税率を導入するより逆進性の問題が緩和されると言われています。

今までにも平成元年4月の消費税3%に導入に際しても高齢低所得者等に一時金1万円が給付され、平成9年の5%への税率上昇時にも高齢所得者に1万円が給付されてきました。今回の給付金も給付額が同じですが、これ以上の税率アップを考えているのであれば、場つなぎ的な方策はもう終わりにしなければなりません。

■簡素で国民に理解の得られる政策を
税率の引き上げや保険料負担の上昇、年金支給額のカットなど、現在の政策は国民の不安を煽るようなものが多く、この先の生活はどうなるのだろうと思う人も少なくないでしょう。

そういった中で、国民の安心を支えるために、財政面で持続可能で安心できる財源の確保が重要な課題とされています。施行コストの低い、そして何より国民の理解が得られるような政策を実現して欲しいものです。

【参考記事】
■消費税 軽減税率導入の問題点
http://sharescafe.net/40635462-20140902.html
■政治家任せはもうやめよう!ーウェブサイトWhere does my money go?(税金はどこへ行った?)に期待すること。
http://sharescafe.net/41465708-20141021.html
■消費増税を機とする「税抜経理」への移行に注目 カイケイ・ネット
http://sharescafe.net/41637093-20141106.html
■消費税増税の影響はまだ不明?来年の4月以降が資金繰りの正念場 カイケイ・ネット
http://sharescafe.net/41600415-20141029.html
■大学で簿記3級を教える事は正しい 中嶋よしふみ
http://sharescafe.net/41604444-20141029.html

浅野千晴 税理士

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