SCOL20
追い風が吹いていると思われている女性起業。しかし、女性起業をめぐり、先週二つのブログが話題になっていました。

プチ起業、ママ起業が、非正規雇用の問題とつながっているということ
安売りするハンドメイドイベントに出ない理由

内容としては、真剣に事業を営んでいる女性たちからの、安値を付けて採算がとれないと思われるような「プチ起業」をしている女性たちに対する批判でした。

女性起業支援をしていると、必ずこうした論点は出てきますし、今回のブログを書いた方々の言い分ももっともだと思います。今回は、どうしてそういう意見が出てくるのか、プチ起業をしている人たちにぜひ知っておいていただきたいことを書いていきたいと思います。

■事業を始めたらもっとも大切なことは何か
まず私がいつも起業セミナーや、起業家さんたちのご相談に乗るときに最初に聴くことがあります。それは、「起業したら何が一番大切なことになると思いますか?」という質問です。さて、何でしょうか?

売上?キャッシュ?人材?もちろんすべて正解です。でも、それらはすべて、事業を継続させるために必要な要素なのです。したがって、この質問に対する答えは、「継続」です。

一度事業を始めてお客様がついたら、その方々のために事業を続ける責任が出てきます。そのためには、なるべく早い段階で確実に利益を上げて儲け続けなくてはなりません。必要な手元現金がなくならなければ、事業継続自体は可能ですが、損失を出し続けるということは、その現金が目減りしていくことを意味しています。つまり、事業の継続とは逆方向に進み、ついには倒産、ということに向かっているのと同じことなのです。事業撤退の判断が必要な局面に至るケースもあります。

■儲けることは、経営者としての責任
どうしても私たち日本人は、特に女性は、「儲ける」という言葉に汚いイメージがあったりすることが多いのではないでしょうか。さらに、女性は長らく消費者としてのプロでしたから、当然「安さ」には敏感です。安くなければ売れないのではないか、という恐怖感で価格付けをしてしまいがちな方がとても多いのです。

お金を投じて、材料を買い、モノを作り、あるいはサービスを提供するための準備をし、販売してお客様からお代をいただく、そこまでにかかっているものはすべてコスト(=投資)です。投資は、確実に現金という形で回収しなくてはなりません。回収することで、ようやく、継続してお客様にサービスを提供し続けるという責任を果たすことができるからです。

お金を儲けることはいけないと思っていませんか?逆です。わずかであっても得られた利益を使ってよりよい商品やサービスを考え、提供し続けていくことが、むしろ、ファンとしてついてくださったお客様に対して責任を果たしていることなのです。

■自分の労働もコストである
お客様のために安くすることが大事、と思っていると、なるべく自分に払うコストを削って考えてしまうケースが多くなりがちです。何かを手作りして売る場合などで、材料費は含めるけれども、自分の労働コストは現金で払っていない、あるいは要らないからコストに含めない、というのがよくあるケースでしょう。しかし、実際に自分の懐から現金が出ていっていなくても、労働コストはかかっているのです。たとえば次のように考えてみましょう。

もし、その事業をしていなければ、ほかのことをして稼ぐ手段もあったはずです。たとえばどこかのお店でパートで働く、ということを想定してみましょう。時給1,000円として、働いた時間数をかければ、その分の「得られたかもしれない利益」を自分の事業をしていたために取りはぐれた、ということになります。

こうした「取りはぐれた利益」のことを「機会コスト」と言います。たとえば、A、B、Cという複数の選択肢がとれるときに、Aという選択肢をとった故に、ほかのB、Cの選択肢を取れなくなります。B,Cのうち、大きな利益のほうが、「機会コスト」です。

したがって、自分の時間という経営資源を投じた労働時間は、実際にお金は出ていなくても、コストになるのです。

■プチ起業と本格事業とでは目指すところが異なっている
プチ起業の場合、こうした自分の労働コストを計算に入れないことが多く、手元にごくわずかなお金が残る、ないしは場合によっては赤字というケースもあるかと思います。しかし、こうした事業をすることで、他人に喜んでもらえる、自分の充足感を得られる、といった価値観や生き方が否定されるべきではありません。投入し続けるお金があるのであれば続けることは可能ですし、それによって得られる満足感や人とのネットワークなど、お金に換算できない価値が多くあることも事実です。

ただし、厳しい言い方をすれば、お金を投じ続けて、自分の充足感を得る、ということをずっと続けるのであれば趣味と同じ、ということになります。本格的に事業をすることになれば、顧客に対する責任として継続することが大前提になります。そのためには、それが個人事業であれば、得られた利益から自分の生活費をねん出することが求められますし、法人事業であれば、人件費、というコストが売上から引かれた上で、次年度に繰り越す利益を出すことが必要になるのです

プチ起業と本格事業は目指すところが異なります。まずは自分がやりたいのは充足感を得ることや仲間を作ることが主眼で利益は二の次でよいのか、それとも、利益を得て継続を目指す「事業」なのかそれを明確にすることが必要です。これは個人の状況によって、どちらが正しいとか間違っているとかいうことでは全くありません。

ただ、プチ起業として始めると、資金的には投入金額の方が膨らんでくるわけですから、そのままの価格設定では継続がだんだん難しくなってくることが多いはずです。そこから本格事業展開をしたいのなら、事業をすることで手元にいくら残したいのかを算定し、その利益を得られるような売上を計画しましょう。自分の労働コストはもちろん、かかる経費はすべて計算した上で、それを上回る売上が必要になります。おのずと、商品やサービスに付加価値を付けて競争力あるモノ・サービスを適正な価格を付けて売らざるを得なくなるはずです。

本格的に事業をしようという方は、自分の商品やサービスにそれだけの価値をつけ、お客様に選ばれ続ける努力が必要になってきます。モノやサービスが飽和状態の今、この努力は並大抵のものではありません。こうした本格事業展開にはぜひ、専門家にご相談いただければと思いますし、私自身もそういうお手伝いをしたいと思っております。

《参考記事》
■仕事セーブ要因のある女性こそ、経営者という選択肢も検討を (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/39955025-20140721.html
■「ニッポンのお母さん」はレベル高すぎ?OfficeCOM(小紫恵美子)ブログ
http://officecom-ek.com/?p=206
■銀座にお店を開いたコンサル出身の女性社長がオススメする”ひらり戦法”(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/41328157-20141013.html
■女性が経営者にむいている理由 小紫恵美子
http://sharescafe.net/38119326-20140407.html
■結局「女性活用」って何すればいいの? 小紫恵美子
http://sharescafe.net/38770445-20140511.html

小紫恵美子 中小企業診断士 OfficeCOM代表

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