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先日、東京競馬場で開催されたジャパンカップG1は伏兵エピファネイアが優勝し、馬主であるキャロットファームが日本最高賞金2億5千万円を獲得しました。レース時間だけで見ると2分23秒そこそこで2億5千万円ですから、(あまり意味はありませんが)時給に換算するとなんと60億円超。一馬主としては羨ましい限りです。

■中央競馬の恵まれた賞金体系
テレビのバラエティ番組等で高収入の騎手が紹介される影響もあるのか、競馬の賞金はジョッキーが貰うものと誤解している人もいるようです。時々競馬をあまり知らない人から「あの賞金って馬主さんも少しはもらえるの?」と聞かれることがありますが、実はレースの賞金って「全額馬主のもの」なのです。一般の人には意外にも思える事実ですが、これは恐らく世界共通です。

JRA(日本中央競馬会)の場合は、馬主団体である日本馬主協会連合会と日本調教師会との間での取り決めにより、馬主が100%獲得した賞金の中から調教師に10%、厩務員・調教助手に5%、ジョッキーに5%を成功報酬として支払います。賞金全額を貪欲な馬主に渡すと成功報酬を支払う前に他に流用されかねないとの心配からなのか、JRAが馬主の代わりに支払う仕組みになっています。一般の方の中には「レースで体を張って実際に稼いでくるジョッキーが5%ってちょっと少ないのでは…」という意見も大いにありそうですが、実際には経済的なリスクをすべて引き受ける馬主の取り分が圧倒的に多いのです。

先に挙げたジャパンカップは世界的に見てもレベルの高い日本最高峰のG1レースですが、他のG1レースで優勝賞金は概ね1億円から2億円強のレンジ、その下のG2、G3クラスの重賞でも数千万円と高額に設定されています。

日本以外の多くの国では、日本の重賞の一つ下のランクのオープン特別クラスと同程度の賞金のG1レースも珍しくはありません。また、グローバルスタンダードと比較すると、年間3456レースの4割以上を占める一度も勝ったことのない馬ばかりが出走する未勝利馬クラスのレースですら優勝賞金が500万円というのは、極めて恵まれていると言えます。加えて、二着以降にも順に一着賞金の40%、25%、15%、10%、7%、6%、5%と、八着まで賞金が出るのは日本(JRA)だけではないでしょうか。

さらに、各種奨励賞や付加賞の他、「特別出走手当」という名のまったく特別ではない出走手当がほぼ全馬を対象に40万円ほど支給されます。この他、給付金や見舞金の制度もとても充実しています。(但し、地方競馬については状況が全く異なります。)

そこで、そんなに恵まれた賞金体系の下で馬主がどのくらい儲かっているのかを、容易に取得可能な2013年一年間の馬主獲得賞金ランキングとJRAの事業報告書等を参考に試算 してみました。試算にあたっては一頭あたりの馬代金を1200万円と仮定する等いくつかの重要な仮定を置いた上で、各馬主の保有頭数、出走数、稼働率、本賞金以外の収入等をシミュレートし、馬主ごとに所有馬一頭あたりの年間損益を計算しています。試算の対象となる馬主は1375名(法人含む)で、出走回数約5万回、総保有頭数約8千頭です。

■死屍累々?馬主に厳しい諸事情
試算の結果は馬主にとって非常に厳しいものになりました。一頭あたり損益の分布は、最も損失の大きい-1000~-800万円の区分が最頻で、そこから急激に右肩下がり。+1000万円超のレンジでは薄くテールの長い分布です。平均も-250万円とマイナスですが、全体の約半数は-450万円超の赤字で、かろうじてプラスになるのが全体の四分の一以下です。

一方、一頭あたり1000万円以上儲かるラッキーな馬主はたったの6%となりました。単純にリスクとリターンのバランスを考えると、投資対象としてわりが悪いと言えるでしょう。(注:高額馬を所有する場合、最大損失は-1000万超にもなるが、ここでは全馬1200万円として試算。)

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実はこれは私自身にとっては予想通りの結果でした。世界的に見ても恵まれた賞金体系や給付金・見舞金制度がありながら日本の馬主業が経済的に割の合わない投資となっている第一の理由は、馬主が負担する維持費が非常に高額で且つまったくと言って良いほど交渉の余地がないということです。

東日本馬主協議会の「H24年度預託料実態調査報告書」によれば、JRA施設に入厩して調教師や厩務員が面倒を見る期間の預託費は平均月63万円。これに対しJRA施設外にいる間の預託費は20~30万円程度です。レースに出走すれば賞金を稼ぐことができる一方で、出走のためにJRA施設に入厩すると高額の預託費を払うことになります。預託費が主要な原資となっている厩務員の収入は、民間企業で言えば地銀以上メガバンク以下くらいでしょうか。大変な仕事ではありますが、中々良い条件だと思います。

これに加えて、そもそも競走馬の購入費が安くないということと一頭の平均稼働期間が一年半程度と短いことも、馬主業を容易ならざるものにしています。平均稼働期間については、2歳夏からの一年間で一勝できれば(怪我がなければ)数年間は現役生活を送れるものの、その間未勝利で終わった場合は基本的に即引退という「自動入替促進メカニズム」が効いています。

昨年一年間の登録馬が5113頭でデビュー馬を含む未勝利馬のレースが1500ちょっとなので、無事勝ち上がれる馬は概ね全体の3割程度でしょう。JRAで競走馬としてデビューした馬のうち7割は一年に満たず退場を余儀なくされるのです。馬主にとっても馬自身にとっても、未勝利での引退は辛いシナリオです。

こうした馬主の損益分布についての試算は私自身も他にあまり見たことはありませんが、馬主やプロフェッショナルとして競馬に携わっている皆さんがご覧になれば、レベル感としてはそう遠くないと思うのではないかと思います。一般の皆さんにはどうなのでしょう? 意外な結果に感じられるのではないでしょうか?

馬主業と投資に関しては以下の記事も参考にしてください。
■シミュレーション結果が示す、馬主業の真実。
http://yasuhonda.wpblog.jp/?p=144
■資産形成に大事なのは、自分がどれだけ「リスクに耐えられる人間」か!?
http://sharescafe.net/42081564-20141126.html
■資産形成、その前に!「日経平均株価」って何社の平均かご存じですか?
http://sharescafe.net/41617181-20141030.html
■投資信託の『性格』は2つに大別できる!?
http://sharescafe.net/40526423-20140827.html
■好調のNISA 税優遇を受けられない事態を防げ。
http://sharescafe.net/37894310-20140327.html

■まとめ
・競馬の賞金は馬主が全額受領し、その一部を成功報酬として進上する(天引きされる)仕組みになっています。
・日本(JRA)の賞金体系は世界的に見て恵まれており、特に弱者に手厚くなっています。
・それにも関わらず、日本(JRA)の馬主の概ね四分の三程度は赤字経営と推察されます。
・馬主の赤字経営の主な要因は、高額な預託費と馬代金、自動入替促進メカニズムによる短い稼働期間です。
・投資のリスクやリターンについては、自分なりにしっかり考えましょう。

本田康博 証券アナリスト・馬主・個人投資家


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