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■海外留学・就業者が就職難に??

秘密保護法が施行される12月10日の数日前に、内閣情報調査室(内調)が2011年に出した政治文書が共同通信の情報公開請求で明らかになりました。

http://www.47news.jp/CN/201412/CN2014120701001439.html

共同通信によると、その文書は「海外で学んだ経験がある者は国家機密を漏らす」という内容で、「学歴や職歴調査の必要性」を強調していたようです。特に国家公務員を志望する人には注意が必要とのこと。

■そこまで騒ぐべきものなのでしょうか?

国家公務員を目指す際には、まず国家総合職の試験をパスした上で、各省庁の職員と面接する官庁訪問をしなければ内定(正確には内々定)はもらえません。その官庁訪問の際に準備をしなければならないのは、面接カードと身上書になります。この身上書が、いわゆる学歴や職歴調査の一つなのですが、今回の一連の報道は、さらに一歩踏み込んで、経歴自体を確認する作業(バックグラウンド調査もしくはトラックレコード)が必要だと内調が訴えたことでした。

一般的な就職にはトラックレコードが使われることはないので知らない人も多いと思いますが、金融機関への転職経験がある場合お馴染みの話でしょう。トラックレコードとは、金融機関から依頼を受けて、調査会社が提出履歴書内の経歴が正しいのかを確かめるものです。ご存知ない方だと、過去経歴の調査はなんとなく気持ち悪い感覚があるものでしょう。しかし、金融機関は大事なお金を取り扱う業種のため、トラックレコード等を使って他業種よりも少しだけ厳しめに採用しなければならないというのは仕方のないことだと思います。当然過去に犯罪に関わったり懲罰を受けた方の採用を見送るということは、ひいては皆さんが利用する金融サービスの安全性を向上するためのものと考えると必要なプロセスとも考えることができるでしょう。

なので、今回の報道にある内調の「海外で学んだ/働いた経験」は、ひいては国家の機密安全関わるため、最低限調査が必要なものと捉えることもできるのかと思います。内調という機関自体は、簡単に言えば日本版CIAであり情報を守る義務があるわけだから、その立場と目的を国民に理解してもらえるよう説明する義務があると思うのです。

最近では機密情報を海外に盗られる事案が数多くあり、軽いもので言えばヘッドハンティングからの情報流出、重い場合だと(ハニートラップ等で)弱みを握られて取引に応じてしまうこともあるわけです。日本国内では常識でも海外では常識ではないことがたくさんあるのです。弱みがたくさんある人間や口が軽い人間の採用には特に気を付けなくてはいけないのは、日本版”CIA”という立場で考えると、ごく自然なことでしょう。理解ができる範囲です。


■誰もが監視対象になる?


今回問題となっているのは、”海外(就学/就業)渡航経験者全て”がその調査対象に入るかのような表現であり、事情が分からない多くの人にとって不安材料になってしまった点です。しかし、これは事務作業の多さからして現実的に無理でしょう。それに国家公務員の応募にしても、官僚を含む重要ポストやその幹部候補に対するバックグラウンド調査は必要であっても、国家公務員全てに適用するのは少し乱暴な議論に聞こえてしかたがありません。トラックレコードの存在意義を知らない人からすれば、海外渡航しただけで目をつけられるとなれば、海外に行くことすらためらう事になってしまうのではないでしょうか?

本件について海外の反応を聞いてみると、UKの友人は、UKでは要職以外の国家公務員に適用している話は聞いたことないそうです。またUSの友人は、クリントン元大統領の海外留学さえ違反にするなら憲法で保証されているはずの個人の選択の自由が侵されるため、国民に受け入れられるモノではないと言ってました。

国際社会で通用する人材の育成を促進するべきはずなのに、行き過ぎる規制のおかげで、なかなか育ちませんなんていう悪い冗談が現実にならないように慎重な検討が必要だと思います。

■なぜ今になって、トラックレコードの要求なのか?


ところで、機密情報管理を目的としたトラックレコードであればもっと前から議題にあがってもよかったはずなのに、よりによってなぜ今なのでしょうか。

これは恐らくですが、どこにも属さずに現地人として働く日本人の増加が少なからず影響しているものと思います。外務省が発表する海外在留邦人数調査統計(2013年10月1日時点)の職業別推移を見ると、「その他」「自由業関係者」(合計6630人)で前年度比増加傾向にある一方で、民間企業関係者(2058人)で前年度比減少傾向であることがわかりました。いまだ、民間企業関係者が海外移住全体の54%とトップですが、「その他」「自由業」も全体で20%を超えており、さらにそれが増加傾向なのであれば看過できなくなったのではないでしょうか。
そして、「どこの企業にも属せず制約を受けずに海外で働く」とは業務内容に国境がないため、(海外からの影響を受けやすくなるという仮説のもと)トラックレコードを要求するのでしょう。もちろん理由は、これに限ったことではないのですが。

こちらも、グローバル化で世界が近くなった(おかげで海外で働くことができる)のに、それを全否定するような自己矛盾がないような検討が必要になると思います。


■絶妙なあんばいの規制ができるか?

確かに国益を左右する情報は慎重に管理する必要があります。しかし、トラックレコード等規制ばかりし過ぎてしまうと、海外経験のある優秀な人材が国外に出て行ってしまったり、海外在住組が日本に帰国しないインセンティブが働き、直接的・間接的に情報が国外流出してしまうことも考えなければいけないでしょう。これは、日本経済にとって大きな損失です。

反発の大きい規制や監視は、それだけリスクがあるということも理解して、実行していただきたいと思います。


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JB SAITO  マサチューセッツ大学MBA講師


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