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先週、サイボウズ社の動画「大丈夫」が一部で大きな話題となりました。私もつい、電車の中で見てしまい、激しく後悔しました。涙が止まらなくなってしまったからです。

動画のあらすじはこのようなものです。西田尚美さん演じる主人公“大沢綾子”はフルタイム勤務の働くママ。ある日、大事な会議中に保育園から、息子のハル君が発熱したのでお迎えに来るようにとの電話がかかります。早々に会議を後にし、小走りで保育園へ向かう綾子さん。送り迎えはいつからかママの仕事に・・・。保育園からの帰り道、明日熱がまだあった場合の「シミュレーション」をあれこれと頭の中で思いめぐらせながら、ハル君を抱っこすると、ハル君が、「ママ、大丈夫?」と・・・。

「私は、きちんとお仕事を頑張れているだろうか、君をちゃんと愛せているだろうか、、そして、自分を愛せているだろうか」、この綾子さんのつぶやきに、自問自答してしまったお母さんも多かったはず。それくらい、日本のお母さんは、追い詰められている、とこの動画を見て考え込んでしまいました。

■いくら働いても結局家事育児が女性の役割になってしまう現実
実際に、小さな子供をもつ、働く母親にとって、このムービーの内容は、本当によくある風景です。たとえば、このムービーにも、夫にLINEで連絡をとるけれど「ごめん今気づいた。会議終わらない・・・」という返答、という場面があります。

「一応期待はするけれど、たぶん無理だよね。」これがおそらく、多くの妻たちの心の中の声でしょう。私の周囲もそうですが、共働きの夫婦の妻の側は、忙しく働く夫に平日は育児や家事を期待することそのものをたいていあきらめています。夫も忙しそうに働いていることを知っているし、夫にも仕事を頑張ってほしいと思っているからこそ、です。一方、期待してだめだった経験を何度か重ねると、そのたびにがっかりしたりイライラしたりするよりは、最初から期待しないほうが、夫にやさしく接することができる(あるいは自分も感情を害すことがなく、面倒がない・・・)という、妻側の配慮や事情もあるのです。

実際に、内閣府「子育て世代の男性の長時間労働」によれば、6歳未満の子供がいる家庭で夫が家事育児に携わる時間について、日本は1時間7分、内、育児時間は39分という結果になっています。ちなみにもっとも多いのがスウェーデンで3時間21分(うち育児時間は1時間7分)、アメリカは3時間13分(うち育児時間は1時間5分)、となっており、家事は3分の1、育児は2分の1と相当の開きがあります。

共働き率が上がり、少しずつ男性側の家事育児の時間は増えてきてはいますが、それでもまだ、女性がその9割を担っているのです(総務省統計局データ「共働き世帯における家事関連時間 妻の分担割合の推移」より)

■今この状況で何を変えられるのか

現在の企業で働く仕組みは、多くは大学卒業後の一斉採用から始まり、定年まで1日の大部分を労働時間として供給できる男性を前提に作られています。一方で、女性は、採用時の段階での差別こそずいぶんと減ってきましたが、産む性であること、また、男性と比べて性差(体力など)もあることから、この仕組みの中で、昇進しながら働き続けるということが困難です。出産育児という観点で見ると、ライフステージによって、仕事に時間をさける時期とそうでない時期があるからです。

働き方を柔軟に変えられる制度にしていくために、以下のような「働く仕組みを変えていく努力」を、企業の側にも求めていきたいと思います。

(1)柔軟な雇用制度、評価制度に
働く時間を減らしたい時期、家族に向き合いたいという時期に、現在のように育休をとる、という方法以外に、仕事を少し減らす、あるいはいったん会社をやめて再びもとのポジションに戻れる仕組みがあれば、選択肢が広がります。

実際、大企業では少しずつ、「いったん会社をやめて元のポジションに戻れる仕組み」ができてきているところがあります。こうした制度は、子どもを持たない夫婦が、お互いの転勤に合わせて使ったり、あるいは家族の介護等で一時会社を離れる際に使ったりすることができるので、働き方が多様化する今後にマッチした仕組みになります。出産や育児も、留学と同じように考え、帰ってきたときのポジションを会社側と相談、準備しておけば可能です。

(2)休暇制度の見直し
もともと、育休や産休などの休暇制度は、仕事と生活の両立のための準備期間として位置づけられているのがその趣旨です。政府から「3年抱っこし放題」という話もありましたが、育児は最初の3年思う存分時間を割けばあとは問題なし、などという短期的なものではないですし、これだけ環境変化の激しい社会で3年も組織から離れていると、戻ったらまた一からやり直し、ということになるのは容易に想像できます。

職場から離れれば離れるほど、企業の側は負担が増え、また、本人も復帰がしづらくなります。もちろん出産は大事業ですから、出産後の身体の回復が最優先事項ではあるのですが、お母さんとお子さんの体力と気持ちに合わせて、ここも柔軟に対応できるようにすべきだと思います。

たとえば、育児介護病気に伴う通院などを想定した半日休暇の拡大など、就業規則に加えて柔軟に対応しようとしている企業もあります。「制約条件と付き合いながら、働き続ける」ことをもう少しできるように企業も従業員も歩み寄ることができるのではないでしょうか。

(3)短時間労働に合わせた業務の細分化
これまでのように、長時間会社に労働を提供し続けることができる人は減っていきます。その分、短時間だけ働きたい、という人が今後は増えてきます。子育て中の女性の中にはそのような働き方を望む人が多いでしょうし、それ以外に高齢者や、介護をする人たちの中にもこうしたニーズが増えるでしょう。

たとえば、仕事を見直し、正社員一人でしていた業務を複数の人で分担できるようにすることで、人手不足をカバーします。そして、なるべく定着率を高めることが必要です。細切れの仕事になるからこそ、ほかのメンバーとの連携を取ることが必要で、一度できた連携を一人が辞めたことでまたやり直し、となるのは、やはり効率が悪いからです。

多くの人が望む働き方に業務を合わせるという企業側の歩み寄りで、人手不足や定着率の悪さを解消できれば、企業としての魅力も増し、よりよい人材が集まるという好循環が生まれるのではないでしょうか。

■お母さんたちだけの問題でもなく、育児だけの問題でもない
冒頭のサイボウズ社の動画にあったように、日々働き、子どもを育てながら、様々なことに想いを巡らせ行動しなくてはならないのが働く母親です。この動画をみて、様々な思いを持たれた方も多いでしょう。

でも、長時間労働に加えて家事育児までマルチタスクで動かなくてはいけないのは母親だけではありません。これからは介護や病気と付き合いながら、制約条件を抱えて働く人が増えるのが日本社会なのです。

今の長時間労働を前提としたとしたままでは、企業側も従業員側も疲弊してしまいます。制度が整ってきた育児ですら、今回の動画のように、母親が一人で闘う構図になっているのです。他人事ではありません。これを、「ああ、また働く母親の大変さをアピールしているのね」と片付けるのではなく、自分事として捉える人がひとりでも増えること、そして、企業側も、制約条件を抱えて働く人たちを前提とした業務の配分を考えて、お互い様の精神で歩み寄っていく必要があると思います。

《参考記事》
■「女性活躍推進」すら着手しない企業で成長はムリ。(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42290659-20141208.html
■出産後も仕事をやめずに働いたほうがいい3つの理由 (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/40839083-20140915.html
■「ニッポンのお母さん」はレベル高すぎ?OfficeCOM(小紫恵美子)ブログ
http://officecom-ek.com/?p=206
■「ママたちのプチ起業」論争が炎上中。その理由は? (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/41811124-20141109.html
■結局「女性活用」って何すればいいの? 小紫恵美子
http://sharescafe.net/38770445-20140511.html

小紫恵美子 OfficeCOM代表 中小企業診断士

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