転職女子
厚労省が先週発表した11月の有効求人倍率(季節調整値)は、二か月連続の改善で前月比0.02ポイント上昇、1992年5月以来22年6か月ぶり高水準の1.12倍となりました。求人数が増加している一方で、新たに職を探し始めた人がマイナス10.9%と大きく減ったことで有効求人倍率が改善したらしいのですが、このように統計上雇用回復が確認される現状について、『増えているのは「非正規」社員がほとんどで格差が広がるばかり』といった批判も時折見られます。そのような批判は妥当なのでしょうか。

■雇用回復が「非正規」ばかりという批判は妥当か?
いわゆる「正社員」の終身雇用制度を核とした現在の日本型雇用システムの中では、今回のような雇用の拡大やリーマンショック後のような雇用の収縮といった雇用環境の急激な変化に対する緩衝材として、「非正規」雇用の人たちが使われてきました。

人減らしのときに真っ先に減らされるのですから、人手が急に必要になって増やそうという時もそこから手が付けられるというのは、雇用システムを根本から変えない限り、当たり前に起こる現象です。雇用回復が「非正規」中心という現状は、現在の市場の景気回復期待が、まだ企業が短期的な(上方の)雇用調整しか考えない程度の弱いものだということを反映しているに過ぎないのだと思います。

そういう意味で、雇用回復は数字ほど良くはないという批判は当たっているのかもしれません。

ですが、現在の日本型雇用システムを所与として考えれば、いわゆる「非正規」だろうが何だろうが、失業状態だった大勢の人がそこから回復して経済的に以前よりベターな状況になっているのなら、何も悪いことはないはずです。

■「非正規」から「正規」へのステージアップ転職が増加中
さらに、ここに来て潮目が変わってきたように思える話を見聞きするようになってきました。

日経電子版「日経WOMAN」(12月12日付)の「新入社員ここから講座」によれば、(1)大手企業事務職を中心にこれまで「非正規」だった職種を「正規」で採用、(2)転職後年収が上昇傾向、(3)職種によらず「非正規」から「正規」への転職が増加、(4)35歳以上の転職成功事例が増加、(5)未経験職種への転職成功事例が増加などの傾向が確認されているようです。日経WOMANの記事ですので、いずれももちろん女性に関してです。

我が国の転職市場ではこれまで一般に、実際に本人の能力や性格が募集職種の要件にマッチしていても、次のいずれかに当てはまると採用側から嫌われやすいと言われてきました。

・転職回数が多い。
・一社あたりの在籍期間が短い。
・キャリアに空白期間がある。
・キャリアに一貫性がない。
・35歳以上で管理職経験がない。
・現職が「非正規」雇用である(「正規」を希望する場合)。
・女性である(総合職や専門職を希望する場合)。

先の日経WOMANの記事は、このうち後半の3つの条件が緩みつつあることを、女性の転職市場を定点観測しているキャリアコンサルタントの皆さんが実感されているということでしょう。

■身近にも増えてきた従来の常識を覆す転職成功例
最近、知人女性から、都合7度目の転職をした話を聞きました。今年初めには一般事務の派遣社員だったアラフォーの彼女は、3度の転職を経て、元の二倍以上の収入を得るまでになりました。また、都合3度目の転職を目指していた別の30代半ばの女性は、昨年までなかなか面接に至らなかったのが今年に入ってトントン拍子で上手くいき始めました。ほぼ同時に3社から内定をもらい、年収増の転職ができました。別の40代半ばの方は、契約社員職種に応募したところ、最終的に「正規」の好条件で採用されました。

実はこの三人にはある共通点があります。それは、ITエンジニアとしてシステム開発やカスタマーサポート等の経験とプログラミング・スキルがあり、加えて英語がビジネスレベルで使えるという点です。一人目の女性も、数年前にいったん結婚退職する前はバリバリの技術職でした。単純に「非正規」から「正規」へのステージ替えによる年収アップだったのではなく、いったん下車したキャリアパスへの復活のストーリーだったわけです。

英語に関して言えば、最新技術への関心が高いITエンジニアは英語の資料を読むことが多く、読むのはそれなりにできるという人が多いのですが、ビジネスレベルで使える人はまだまだ一定の市場価値があるようです。年3回転職をした女性の場合はTOEIC900点台後半と、ちょっと努力しただけでは難しいレベルですが、800点台くらいであれば普通の人でも努力すれば届きますし、それだけのメリットはあるように思います。特にこれから転職を考えられている方にはおススメです。

■今後はIT分野のスキルが強力な武器に
IT業界が慢性的に人手不足だというのはよく言われる話ですが、最近は特に需給がひっ迫しているようです。おそらくそれが、彼らの転職がこれほど上手くいった一番の要因でしょう。

例えば、日経新聞(12月8日付「月曜経済観測」)でテンプホールディングス水田社長が、「IT分野は技術者の派遣や業務受託が好調で、顧客の注文に応えきれない。明らかに人手不足」、「当社の正社員を派遣する特定派遣の稼働率は8~9月にIT分野で95%、(中略)人繰りの制約を考えると、ほぼ100%」などと語っています。派遣業界からのこうした嬉しい悲鳴からも、既にこの分野では「非正規」雇用の増減による短期的な雇用調整ではまかないきれない状況になっていることが良く分かります。

ITビジネスやIT関連業務では、インドや中国をはじめとしたアジア諸国へ開発・サポート業務等を移転する動きも引き続き見られますが、それを加味しても、今後も成長の余地が十分ある分野なのではないでしょうか。ですので、この業界を目指してITスキルを磨くことは合理的な選択と言えるでしょう。

プログラミング等のITスキルは、また、IT分野以外を専門とする人にとっても今後ますます重要になると、ホリエモンこと堀江貴文さんや、楽天三木谷社長なども主張されています。あらゆるモノやコトがITと密接に係るようになってくると、自社の商品やサービスをきちんと理解し扱う上でも、そうした知識があるとないでは大きく違うだろうということは容易に想像できます。

文系出身の人の中には、自分にプログラミングなんてできるのだろうかと不安に思う方も少なからずいるかもしれません。ですが、ほとんどの場合、そうした心配は杞憂でしかありません。

プログラミングというのは、コンピューター用の言葉を使ってコンピューターとコミュニケーションをとる作業です。基本的にコンピューターには人間ほど柔らかい発想ができないため、人間のほうがコンピューターに合わせて、逐一論理的に話してあげる必要があります。こちらが論理的に説明しさえすれば、コンピューターは圧倒的な計算力と記憶力で人間を助けてくれます。結局、プログラミングが苦手な人というのは、理系とか文系とかの括りは関係なく、論理的な話ができない人ということになるのです。

■『相性』が大事
先ほど転職成功例として紹介した3名のうち2名は外資系企業への転職でした。よく言われるように、一般に外資系企業の方が、転職回数や性別、キャリアの寄り道などに寛容な傾向があるのは間違いありません。ですが、外資系だからと言って皆がそうかと言えばそんなわけはなく、例えば、リクルートワークス研究所の調査で日本と似た転職経験の分布が報告されているドイツの企業では、転職回数を理由に早い段階で落とされるケースが多いように見受けられます。

また、一口に外資系企業と言っても採用担当者が日本人の場合と外国人の場合、人事部が決定権に影響する場合と採用部署だけで決められる場合等、個々のケースで大きく違ってきます。もちろん国内企業も然りです。自分と相性の良い企業や採用担当者に巡り合うまで、多少の辛抱は必要でしょう。

リクナビNEXTが実施したある調査では、人事担当者の14%が「転職回数は気にならない(「10回以上は気になる」を含む)」と答えています。この数字、私自身は意外と多いなと感じたのですが、いかがでしょうか?こういう数字を知っているだけで、大変な転職活動にも前向きに取り組めるようになる気がします。

また、人材紹介エージェントとの相性も重要です。転職回数が多い等といった順調に進展し難そうな候補者の場合、最初にいくつか紹介して上手くいかないと半ば見限ってしまうエージェントや、そもそも全然紹介してくれないエージェントもいれば、多少難しめに思える募集でもどんどん積極的に紹介した上、熱意を以て企業に売り込んでくれるエージェントもいます。まずは、いろんなエージェントと話してみるのが良いでしょう。

■一年で3度の転職は許容範囲か?
私の周囲では4回や5回の転職というのは当たり前で、私自身4度の転職を経験してきました。それでもさすがに一年で3度の転職というのは、これまで聞いたことがありませんでした。その点だけを見れば、評価を大きく下げてもおかしくはなく、認められるには、その合理性と必然性をきちんと説明できなくてはなりません。彼女の場合、3度の転職によって好条件を得られているところを見ると、この点はうまく説明できているのでしょう。

一般に、短期での退職が合理的であると認められるのは、就労条件に問題がある、体調の維持が困難、採用時の説明と実際が重要な点で異なる、ハラスメントがある、家族を支えるため等です。会社の仕組や業務内容について相互に齟齬がないよう、採用される側からは少しでも不明な点があれば採用前にしっかり質問して確認しておくことが大事ですし、採用する側には候補者や社員に対し誠実に説明する姿勢が求められます。

そうして就職しても、結果的に会社に入ってしまってから本当に合わないことが判明した場合は、できるだけ早く辞めるのが賢明です。その理由が上記のようなものなら、基本的に問題視はされないはずですし、もし問題視するような会社があれば、そこは自分には合わない会社だと割り切るべきでしょう。

採用する側には採用する側の理屈があります。ですが、採用される側がそうであるように、それは必ずしも均一ではありません。

こうしなければダメだとかそういう拘りはなるべくなくし、採用する側の意図をはかりつつ、いろんな可能性を見据えながら自らの効用を最大化できる居場所を探すのが、理想的な転職活動なのではないでしょうか。

以下の記事もぜひ参考にしてください。
■「安定した雇用」という幻想。~雇用のリスクは誰が負うべきか?~
http://sharescafe.net/42556186-20141224.html
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。
http://sharescafe.net/42555365-20141225.html
■ジャパンカップG1の時給は60億円!? 馬主という仕事の意外すぎる真実。
http://sharescafe.net/42224151-20141206.html
■競馬は投資になりうるのか検証してみた。
http://yasuhonda.wpblog.jp/?p=216
■有馬記念から考えるダブルバインド克服方法。
http://sharescafe.net/42605108-20141227.html

■まとめ
・現在は、「非正規」中心の雇用回復から全体的な雇用回復への過渡期です。IT分野の転職市場が特に活況を呈しているようです。
・転職3回以上、35歳以上、ステージアップなど、これまで転職が難しかった属性でも成功例が増加しています。
・プログラミングと英語は、転職の強力な武器になります。
・転職回数を気にしない企業も一定割合存在しています。(ドイツ系以外の)外資系企業が狙い目です。
・過去の転職の経緯については、合理性や必然性を説明できることが重要です。
・企業との相性が大事ですが、人材紹介エージェントとの相性も大事です。いろいろ試しましょう。
・なるべく拘りを持たずに、いろんな可能性に目を向けるのが転職成功への近道です。
・転職にはリスクがあります。リスクとリターンを良く考えましょう。

本田康博 証券アナリスト・馬主・個人投資家


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