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一般消費者として自分自身の買い物を振り返ると実感して頂けると思いますが、人間は嫌いな誰かから商品を買いたいとは思いません。死ぬ程欲しい商品が、死ぬ程嫌いなオッサンの経営しているお店でしか売ってないというのなら別ですが、誰だって嫌いな人間に自分からわざわざ接触したいとは思っていません。人間の感情は、私達商売人にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。

■どうせ同じ商品なら、あの店で買いたい
嫌いな従業員がいるお店で商品を買いたくないという心理は 単純に嫌いな人との接触を避けたいからという理由だけではありません。どうせ同じ商品を買うなのら、自分が好きな人や自分にとって身近な人から買おう、または買ってあげようと多くの人が考えます。例えば我が子が就職した事をきっかけに、彼らが勤める企業の商品を購入した経験を持つ親は少なくないでしょう。

ですので、お店の外観や販促物を含めた印象や、そこで働く従業員の接客での立ち居振る舞いが、少なくともお客様に嫌悪感を抱かせない程度のレベルである事は、商売では必須です。逆に言えば、多少なりとも好印象やシンパシーを与える事に成功すれば、売り手の人となりやお店のたたずまいが商品の付加価値となり、購入動機につながる可能性も高まります。お客様に与える売り手の印象は、それくらい重要なファクターだというわけです。

■高い信頼は、信者のお客様を生む
ただ単に好意がある・好感がもてるというだけではなく、それに信頼が伴なうようになると同業他社との差別化も加速し、価格という購入フィルターが外れてきます。他のお店ではもっと安く売っていても、あえて値段は高いけれど信頼できる従業員のいる店で買う、という判断を行なうお客様が増えます。

信頼出来るお店、信頼出来る従業員というフィルターを通して提示された商品は、その信者となったお客様にとっては全てが「いいモノ」です。いつもバツグンに美味しい料理を出してくれる居酒屋の大将が「今日のサンマは最高に美味いよ」と言えば、きっと多くのお客様は注文するでしょうし、いつも体調を相談しているドラッグストアの薬剤師さんが「あなたにぴったりの栄養ドリンクが入荷しましたよ」と言えば、きっとあなたは購入するでしょう。

このように、信頼する人がすすめるモノは「信頼するその人が勧めてくれるから」という理由だけ購入に至る場合が珍しくありません。通常の買い物でしたら商品のスペックや価格、今の自分に必要かどうかを吟味してから購入に移る慎重なお客様でさえ、そのプロセスをすっ飛ばし、すすめられるままに購入を決意する事すらあります。

■信頼までの3ステップ
売り手がお客様から信頼を得られれば、上記のような関係性が生まれますが、いきなり信頼されるなんて事はまず起こり得ません。商売に限らず、誰かが誰かに「このお店の人が言ってる事は信頼出来る」と判断される為には、それより先にまず、相手に好意を持ってもらう必要があります。しかも誰かに好意を持ってもらえるようになる為には、さらにその前段階として「興味をもってもらう」という過程が存在します。しかもその全ての過程で、期待を裏切らないという実績も必要となります。

興味 ⇒ 好意 ⇒ 信頼

この感情の流れで、人は人との人間関係を築いていきます。これは、売り手がお客様からの信頼を得るという状況になる為には、まず最初に売り手に興味を持ってもらわなくては何も始まらなという事を意味します。数十年の長期にわたる取引となるお客様との信頼関係も、出会いとなる最初の接触、すなわち最初にそのお客様が目にした広告宣伝や、初めての接客対応で興味を持ってもらう事に成功したからこそ現在の関係があるという事です。では、お客様が売り手の広告宣伝や接客サービスを目にする際に必要な要素は何でしょう。

■感情の振り子を理解しよう
人間の感情を振り子に例えてみます。振り子が右側に最大に振れた状態を「好き」や「面白い」というポジティブな感情だとします。もう一方、左側には「嫌い」などネガティブな対極の感情があります。では振り子がどちらにも振れない「好き」と「嫌い」のちょうど間に位置する感情、それは何でしょう。「ふつう」でしょうか? いえ、日常会話ではよく口にする言葉ですが違います、普通という感情は人間には存在しません。。

好きと嫌いのちょうどまん中に位置するもの、それは「どっちでもいい」「何とも思わない」という感情です。感情と書きましたが、こんなものは感情でも何でもないんです。一言で言えば無感情、興味がない状態です。チラシやテレビCMをながめていても、全く記憶に残っていないなんて事がありますが、この「販促物がお客様の心に全く響かない、引っ掛からない」という状態が正にこれです。無感情、興味が湧かないという状態では、人間の心も身体も決してそれに反応することはありません。

■感情が動かないものは、この世に存在しないに等しい
信頼関係はもちろん、認知度も無いに等しい状態で、お客様がはじめて目にするチラシや看板などの販促物で興味を抱かせたり、興味を持ってお店に訪れたお客様に、好意を抱かせる接客対応でリピートにつなげる。限られた商圏内に住むお客様を着実に増やしていくには、こうした地道な手順を繰り返していくしかありません。

人間は感情の生き物です。誰かに印象を残す為には、まず相手の感情を動かさなくてはなりません。いわゆる喜怒哀楽と言われるもので、平常心との落差が大きければ大きいほど、良くも悪くも相手の印象には残ります。売り手が行なう広告宣伝や接客対応によって、お客様の感情の食指が動かないと、並み居る競合他社の中からお店が選ばれ続けるなんて事は起こり得ないわけです。

お店の販促活動や接客対応がお客様に与える印象は、同業他社に埋もれる事なくお客様の感情の振り子を動かせているのかを、常に確認しながら商売の流れをデザインしましょう。お客様に興味や関心を抱かせる事が出来ない販促や接客では、もはやこの世に存在していないに等しいと言える程、競合他社がひしめき合う商圏では印象に残り難い商環境が存在します。

経営に関しては以下の記事も参考になります
■マイノリティの動向から、マニアの種を見つけよう
http://www.impact-m.net/?p=856
■愛される商売人の条件
http://www.impact-m.net/?p=842
■競合他社との差別化は、まず既成概念の払拭から
http://sharescafe.net/42588461-20141229.html
■お客様の満足感を維持出来ない、過度の集客を見直そう
http://sharescafe.net/42475834-20141222.html
■お客様を選ぶ本当の目的は、WIN-WINな関係を構築する為
http://sharescafe.net/42403682-20141216.html

福谷恭治 商売力養成コンサルタント インパクトマーケティング代表 

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