教室1
去年のクリスマスに奨学金についての記事「借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。」を書いたのですが、思いがけず大勢の方に読んでいただきました。前回記事で明らかにした点、主張した点は概ね次の通りです。

・就学中は奨学金の返済はないので学生が奨学金返済困難に陥ることはない。
・貸与型奨学金は実質的にローン契約だが、借り手に有利に設計されている。
・在学中や、失業、経済的困窮時などは、誰でも奨学金の返済猶予措置を受けられる。
・若年層の奨学金返済困難は、大学進学が十分な付加価値をもたらさないことが主因。高等教育の在り方と、日本型雇用の構造的問題という、二つの大きな問題が根幹にある。
・大学進学を投資と考えて、リスクやリターンを自分なりにしっかり考えるべき。

やや理屈っぽ過ぎる内容だったかもしれませんが、これらの点については奨学金を借りている又は借りようとしているすべての人に頭の隅に置いていただきたいと思います。

■減免制度の認知と金融リテラシー
日本学生支援機構が毎年実施している「奨学金の延滞者に関する属性調査」は、延滞者(3か月以上延滞)と無延滞者の属性を比較することで、返済困難者に見られがちな傾向を探っています。

日経新聞(4/22付)も指摘していますが、H24年度調査結果によると、延滞者の85%が年収300万円未満(無延滞では約6割)で返済猶予等の減免措置の対象となる人が多い一方、返済猶予制度で57%(無延滞では53%)、減額返還制度では75%(「知らない」と「あまり知らない」の合計、無延滞は65%)が制度の存在を「知らない」と回答しています。また、「知っている」場合であっても約3割は申請すらしていません。

これでは、本来であれば返済困難に陥る必要がなかったにも関わらず、制度を知らないが故に返済困難となっているケースは少なくはないでしょう。調査結果から大雑把に考えて、返済困難者の半数程度は該当しているのではないでしょうか。

無延滞者にも制度を知らない人は多いので、日本学生支援機構が制度の周知徹底を十分に図っていないという面はあるかもしれません。ですが、無延滞者の大部分は制度を利用しなくても良い人たちであるのに対し、延滞者は今まさに危機に面しているわけです。にもかかわらず、制度を知らない人がむしろ多いというのは、延滞者側の意識に問題がある場合も少なくないと考えざるを得ません。問題解決思考や金融リテラシー等の面で未熟なのでしょう。

一般の住宅ローン等でもそうなのですが、金融機関として一番困るのはローンがデフォルト(債務不履行)することなので、返済額減免や期間延長等の条件変更に応じてくれる場合は案外多いのです。基本的な金融リテラシーとして、知っておくべきことだと思います。

そういう前提が分かってないと、読み手の不安を煽るような記事や情報に簡単に踊らされてしまいます。

先日も、『2013年3月に「中小企業金融円滑化法」が終了したため住宅ローンの条件変更が難しくなった。住宅ローン破綻対策には賃貸併用住宅が有効。』という、いくつか疑問符が付きそうな内容のニュースが複数のニュースメディアで実しやかに配信されていましたが、三菱東京UFJ銀行の開示資料から作成した図に示すように、「中小企業金融円滑化法」以降も銀行の条件変更への姿勢に大きな変化は見られません。これは金融庁の指導に沿った措置でもあります。
MUFJ条件変更

自分が本当に必要と考えて賃貸併用住宅を建てるならいいのですが、記事に踊らされてそうしてしまうのは、それこそ失敗の元だと思います。

■自分で申請書類を作成しない人は危ない
「奨学金の延滞者に関する属性調査」は、延滞者と無延滞者の違いをくっきりと浮き上がらせており非常に興味深い質問が多いのですが、奨学金申請時に誰が書類を作成したかという項目でも両者は大きく異なっています。作成者が「本人」または「本人と親等」であるのが、延滞者では56%であるのに対し、無延滞者では約8割です。

また、他人から勧められずとも自ら申請した人の割合は、無延滞者が延滞者の約2倍です。他人からの勧めがあった場合でも、無延滞者はその4分の3が家族からの勧めであるのに対し、延滞者では学校関係者や友人の勧めが過半を占めています。

これらを総合的に考えると、無延滞者と比べて延滞者は、自らの借金である奨学金を借りるという行為を、他人任せにしている傾向がうかがえます。

また、他人任せにした結果、無延滞者では遅くとも貸与手続きが終了するまでには95%以上が奨学金の返済義務について理解しているのに対し、延滞者の30%以上はその時点で返済義務を理解しておらず、更には卒業後に返済を開始する段階でも2割は返済義務を理解していませんでした(「いつ理解したか不明」を含む)。

お金を借りるときにそれを将来返済しないといけないと思っていない人が奨学金を借りるべきでないというのは、おそらくすべての人が思うことなのではないでしょうか。

奨学金の返済可能性に一番影響があるのは、どのような就職ができるかという点ですが、これは奨学金を借りる段階では分かりません。せいぜい少しでも良い大学に入るよう頑張るくらいです。

ですが、奨学金が自らの借金であることを理解した上で、自ら能動的に奨学金を借りることを決断し自ら手続するだけだったら、誰にでもできます。金融リテラシーを学ぶこともできます。奨学金返済困難に陥らないために、仮に陥ってもそこからリカバリーするために、そういう心掛けを大事にすると良いと思います。

奨学金問題や働くこと、問題解決思考などについては、以下の記事も参考にしてください。
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。
http://sharescafe.net/42555365-20141225.html
■一年で3回転職したアラフォー女子、年収倍増は幸運だけが理由じゃなかった。
http://sharescafe.net/42650114-20141230.html
■有馬記念から考えるダブルバインド克服方法。
http://sharescafe.net/42605108-20141227.html
■ジャパンカップG1の時給は60億円!? 馬主という仕事の意外すぎる真実。
http://sharescafe.net/42224151-20141206.html
■恒例の年初のご祝儀相場、今年は「微妙」と考える根拠。
http://sharescafe.net/42677785-20150102.html

■まとめ
・返済困難時の奨学金の猶予措置については十分に周知されていません。
・奨学金は借金なので、金融リテラシーが未熟なまま借りてはいけません。
・問題解決思考が苦手な人はいざというときに困ります。要注意。
・申請手続きを他人任せにしていると返済困難のリスクが高まります。
・大学進学と奨学金借入について、リスクとリターンを良く考えましょう。

本田康博 証券アナリスト・馬主・個人投資家


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