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■「家族のためだから」
人は、「オレ、オレのためだから」と言われると、ころりと騙されやすいのでしょう。特に身内の人間のこととなると尚更です。振り込め詐欺の被害額を見ればよくわかります(昨年は過去最高)。

同じ心理で、「奥様のためだから」「お子様のためだから」と、遺された人のことを言われるとやはり人は弱いものです。今年から相続税が増税となり、今まで相続税がかからなかった家庭でも、課税される可能性が出てきました。少しでも家族に多く遺したい、負担を少なくしたいというのは人情です。

そこで、「相続税対策にもなりますよ」と保険商品を薦められる場合が増えてくるわけです。生命保険などの商品は、遺された家族が妻と子2人なら1500万円(500万円×法定相続人の数)の金額が非課税となるからです。しかし、保険商品なら何でも相続税対策となるかは甚だ疑問です。それは、次の3つの点からチェックできます。

1. 元本保証にならない
2. コストが高い
3. テコの原理が働かない

■元本保証にならない?
これから退職金をもらう人や現役世代の人で資産がある人は、金融機関から一時払いの変額年金保険などを勧められることがあるでしょう。ここでは一時払いの変額年金保険について、相続税対策になるか絞って検討してみます。

この商品は、運用成績によっては満期の年金原資が増えたり減ったりする個人年金保険です。満期前に死亡すれば死亡給付があり、遺族保障にもなります。生命保険と個人年金と投資信託を組み合わせたような保険商品です。「運用で個人年金を増やすこともできるし、万一の時は家族にお金を残せますよ」というのが、勧誘の囁きです。

一時期、運用成績が悪化して、元本保証だと思い込んでいた契約者から、相当の元本割れが起こったことでトラブルや訴えが続出したことがありました。そのため、金融機関もこの商品を積極的に勧めなくなっていましたが、ここへきてアベノミクス効果による資産運用対策と今年からの相続増税対策により、またぞろ増えてくる気配があります。

最近は運用成績が下がっても死亡給付金は基本給付額(いわゆる元本)が保証される型を販売するのが一般的となりました。ここで注意しなければばらないのは、「資産が増える可能性があるものには、元本保証がない」というのが投資商品の原則であるということです。これはリターンを得るためには、何らかのリスクを取らなければならないという鉄則です。

いくら「保険」とか「年金」という名称が付いていても、変額年金保険は運用商品と考えた方がいいのです。ということは、元本保証型といっても、保険料で積み立てた何割かを運用に充てており、いわば元本維持費用及び欠損穴埋めのための補填費用を含むため手数料が高くなっているのです。

■手数料は毎日引かれコスト高
さらに購入時の初期費用、保険商品としての関連費用、運用商品としての関連費用、純保険料、年金の管理費用、途中解約時の解約手数料と、手数料のオンパレードです。普通、モノをセットで買うと安くなるものですが、なぜか金融商品はいろいろなものがセットになると、逆に手数料がどんどん高くなるのです。

ところが、これらの手数料は契約者にはなかなか意識されていません。私たちは、その都度現金で手数料を払うとなると、その金額がすごく気になります。手数料とは違いますが、消費税の金額を買い物のたびにレシートで見せられるとびくっとします。それなのにカードとなると、あれやこれやと買ってしまいがちです。金融商品も手数料が落ちるたびにレシートが送られてくると、もっとコスト意識が高まると思いますが、これは無理でしょう。

仮に、1000万円の一時払いで変額年金保険に加入するとします。平均的な商品をモデルとして、10年満期で手数料は大雑把に200万円以上かかります。初期費用が最初に50万円(5%として)引かれ、運用関係費用(約0.5%)と保険関係費用(約1.5%)190万円、ほかに運用に充てる資産(特別勘定)の純保険料(約1%)も合わせて10年でざっと250万円くらいになります。

これらは実際に契約者がその場でお金を払うわけではありません。自分が申し込んだ商品の積立資産から毎日控除されていきますので、本人は意識することなくコストを負担していくことになります。もちろん、運用成績によっては資産が増えることもありますが、元本を保証してもらい、少しでも受取額を増やしてもらうための代償としてこれだけ払うことになるわけです。

■テコの原理が働かない 「逆レバレッジ」
生命保険に係る非課税枠でどれだけ相続税が軽くなるか試算してみると、課税遺産額が1億円、法定相続人が3人(妻と子2人)の場合、一時払いの変額年金保険1000万円に加入しない場合と加入した場合の相続税の総額の差は、75万円です(ほかの要件がない場合で今年からの相続税法で試算)。

この75万円の税金を浮かすために、先の例では倍以上の250万円も払うのと同じことになるのです。これでは「逆レバレッジ」です。保険の最大のメリットは、少額の払込み金額でも数十倍、状況によっては数百倍の保険金が受け取れるレバレッジ(テコの原理)効果にあります。加入したてで保険料数万円支払っただけで死亡した場合など、レバレッジは相当倍にもなります。しかし、こと変額年金保険の一括払いでは、死亡給付の場合は払った額ともらう額はほぼ同額程度なので(10年で元本が何倍になるか考えてみてください)、相続にあたってはまったくテコの原理が利きません。

■相続税対策にはならない? 
こうしてみると、一般のサラリーマンが、相続税対策のためにもなりますよと勧誘されて変額個人年金保険に入るメリットはほとんどありません。退職金とそれまでの預貯金で老後資金を考えている人は、そもそも相続税が課税されないのが一般的な現実です。法定相続人3人なら、4800万円までの基礎控除があるからです(3000万円+法定相続人1人当たり600万円×3人)。さらに配偶者には1億6000万円までの非課税枠があります。要するに、これだけでもう商品の勧誘をまともに相手にしない理由があります。

ついでに言うと、相続税対策に向かないなら、老後の個人年金として運用すればいいではないかと言われるかもしれません。しかし、これもメリットはありません。すでに見たように、購入し、保有しているだけでもコストがかかりすぎます。今後、株式市場の活況によって年金資産の運用が良くなっていくにしても、コスト分は確実に差し引かれます。それに、変額年金保険で運用される投資商品は限定されていて、選択の余地が多くありません。であれば、個別にコストの安いインデックス・ファンドなどの投資信託を購入したほうがよほどましです。

このように、コストや効果を考えると変額年金保険は相続税対策や資産運用対策に不向きというか意味がないのがわかります。ところで、中にはこういう人もいるでしょう。「確かにコストなど金額面では不利かもしれないが、保険商品というのは保障と同時に安心と利便性も買っている。そのための手数料はしかたないではないか」

それは、その通りです。お金の損得で決めるのではなく、手数料を払って面倒なこと(保険と年金と運用)をひとまとめにやってくれる方を選ぶのも行動心理としてアリかもしれません。つまるところ、「家族のためだから」と言われた時、その場ですぐに決めないで、あなたはどっちを優先するかを考えてからでも遅くはないということです。

【参考記事】
■雇用延長はあてにしない 定年前に現役より稼げるフリーの「契約請負人」で働こう 
http://sharescafe.net/42517207-20141221.html
■定年年齢に掛かるアンカリング効果 ~ 「碇(いかり)付け」の意識 
http://www.tfics.jp/
■年俸制の契約社員でも未払残業代を堂々と取り戻せる法 
http://sharescafe.net/42292529-20141208.html
■目先の損得にとらわれない これからの年金、早くもらう方法と多くもらう方法 
http://sharescafe.net/41566040-20141026.html
■改正投信法を機に、毎月分配型投資信託をこれからどう活かすか 
http://sharescafe.net/42145749-20141129.html





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