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1月1日の朝まで生テレビで竹中平蔵氏が「正社員をなくしましょう」と発言をしたことについて、最近ネットで話題になっています。「正社員をなくす」という言葉がキャッチーであったことから、賛否両論あふれておりますが、女性活躍推進の視点からこの点について考えてみたいと思います。

同番組での竹中氏の発言は、派遣法の改正にいたる議論の中で出てきました。非正規労働者の人数を減らすような規制を導入すべきという意見に対して、竹中氏は「いろいろな働き方がある中で、正社員でも中小企業で不利益を得ている人たちもたくさんいる。そうした中では労働監督をしっかりしていかないといけないし、同一労働同一賃金にもっていかなくてはいけない、これは一致した意見だ」という趣旨の発言をしています。それに対して、田原氏が、「本当にそうなのか、実現するのか」という論調で質問をする中で、竹中氏が議論の中で見落とされているポイントとして、2点指摘しています。

ひとつは非正規だからかわいそうというわけではなく、そういう働き方を望んでいる人たちも多いということです。厚生労働省が派遣について実施した調査では、「正社員に変わりたい」という人と「非正規のままのほうがいい」という人を比べると、実は「非正規」と答える人が多いとのこと。そしてもう一つは、派遣が増えた理由として、日本の正規労働が国際的に見ても異常に保護されていること。そのため、同一労働同一賃金を目指すのであれば、そのように異常に保護された正社員をなくさないといけないとの考えを示しています。

こうした前後の文脈をあわせて読むと、働く女性をサポートしている私の立場から言うと「何かおかしいこと、おっしゃっていますか?」というのが率直な感想です。

■終身雇用と年功序列の組み合わせは、報酬の後払い
「正社員をなくせ」という発言が議論の対象になっているわけですが、この発言に瞬間的に反発を覚える人たちは、現在、正社員というポジションで利を得ている人たちだと思われます。なぜみんなが正社員というポジションを欲しがるか。それはまさに竹中氏が指摘している通り、正社員はめったなことをしなければ、解雇されることはなく、定年まで安定的な収入が確保され、うまくいけば昇進、昇給という見通しが立つからでした。

しかし重要な観点がこの議論には抜けています。それは、終身雇用を約束する一方、報酬は年功序列にするということです。わかりやすくいうと、長期間の滅私奉公の結果としての昇進・昇給と引き換えに、若い時には長時間労働や、理不尽な組織の重圧に耐えさせている、ということです。また、終身雇用・年功序列型企業では、中途採用は不利に扱われますので、転職の自由も制限されるという面もあります。

確かに、この「40年取引」は、企業が長期的に成長するのであれば、見合うものでした。しかしながら、人口が減少に転じ、グローバル競争にさらされ成長率も大幅に鈍化した環境において、この「40年取引」は若い人にとっては魅力が薄くなっているのです。若年層の離職率が高まっているのはこういう面もあるのではないかと考えています。

■終身雇用と年功序列セット前提だと、女性は働き続けることも評価されることも難しくなる
このように、正社員は、「終身雇用と年功序列セット」のもと、報酬後払いシステムによる長時間労働が求められます。女性にとって、これでは最初から正社員でい続けることが難しいことを宣言されているようなものです。理由は、女性が産む性であること、そして体力等の性差を乗り越えられないこと、さらに、男女の役割分担意識が強いこと(これは、戦後のごく短い期間で日本の「伝統」のように誤認されただけなのですが)が挙げられます。

意欲ある女性が「終身雇用と年功序列セット」に乗ろうとすれば、男性並みに長時間働き、場合によっては出産や育児に関わることをあきらめたりしなければいけなかった。あるいは、出産育児も経てせめて終身雇用のほうに乗ろうとすれば、年功序列に阻まれ、昇進はできず、いわゆる「マミートラック」に甘んじなければならなかったのです。日本企業における管理職比率の性差はこの証左です。

また、様々な理由で、その「セット」に乗らない・乗れない女性は、正社員を保護するために導入された非正規労働者の立場で働くことを強いられました。今の「正社員」としての働き方は出来ない人・したくない人たちは、厚労省の調査で「非正規の方がいいと思う」と答えるのかもしれませんが、それは待遇の格差に納得しているということではないのではないでしょうか。介護や病気と付き合いながら働く人たちが今後増加の一途をたどる現在、働き方をどうするか、評価をどうするかがようやく議論され始めたところです。

■終身雇用と年功序列セットにかわる評価制度としての「同一労働同一賃金」
「終身雇用と年功序列セット」の結果、給与や地位は年齢や性別と強く連動することになります。つまり、この仕組みを維持することが困難になっている以上、給与や地位を仕事内容に連動させる「評価」の仕組みを新たに作らなくてはなりません。それが、竹中氏が冒頭の発言の前段で言及していた「同一労働同一賃金」です。

同一労働同一賃金とは、原理上はとてもシンプルな評価方法です。たとえその人がフルタイムで雇われていようと、パートタイムであろうと、同じ仕事をした人は、同じ賃金だということです。現在職場では、同じ仕事をしているにも関わらず(場合によってはパートの人のほうが高い生産性をあげているにも関わらず)、フルタイムの人のほうが給与も2倍、福利厚生まで入れるとそれ以上の格差があるといわれています。

なぜ日本ではこんなことがまかり通るのか。それは、日本では正社員の人と、非正規雇用の人の仕事は違う、という認識があるからです。確かに正社員でないと出来ない仕事もあると思います。付加価値の高い仕事の賃金は高く設定され、誰でも出来る仕事は、それなりの賃金となるでしょう。つまり、「仕事」に値段がつくことになり、「人」に値段がつくのではなくなる、ということです。

会社が払える人件費は一定額であるとするならば、同一労働同一賃金を適用すれば、全体としては、非正規社員の報酬があがり、正社員の報酬は下がることになるでしょう。正社員の方で抵抗がある人も多いかもしれません。ただ、現状の終身雇用と年功序列セットの維持は、今までも書いてきたようにもはや維持不可能です。そのため、一定の時間はかかりつつも「同一労働同一賃金」の方向に向かうことになると思われます。

とすれば、正社員の側は、自分の給与を増やしたければ、単価が高く設定された付加価値の高い仕事をまかせてもらえるようにならなければなりません。一方、現在引き受けてしまっている過剰な長時間労働(サービス残業や有給休暇の未消化など)をなるべく是正していくことが、自らの待遇向上に加え、新しい制度への移行にメリットとなりうるでしょう。

誰かが得をすれば、だれかが損をする。そんな風にきゅうきゅうとするよりは、全体を見ながら、経営者も現場でも、どのように人の仕事を評価したらいいのか、真剣に議論し考える必要があります。職務記述書を作成するなどして試行錯誤を繰り返すことになるのだろうと思います。大事なのは、先延ばしにせず、今できることを考えることです。社員のことですから、社員の同意を得られなければ、どうしようもありません。そのためには、経営者と現場と、コミュニケーションをより一層図り、使命感や理念が持続するようにしたいものです。

《参考記事》
■2015年は長時間労働崩壊元年に(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42734491-20150104.html
■「大丈夫」じゃないのはお母さんだけじゃない。 (小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42520618-20141222.html
■「女性活躍推進」すら着手しない企業で成長はムリ。(小紫恵美子 中小企業診断士)
http://sharescafe.net/42290659-20141208.html
■「ニッポンのお母さん」はレベル高すぎ?OfficeCOM(小紫恵美子)ブログ
http://officecom-ek.com/?p=206
■結局「女性活用」って何すればいいの? 小紫恵美子
http://sharescafe.net/38770445-20140511.html

小紫恵美子 OfficeCOM代表 中小企業診断士

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