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先週、スイス中銀が行った対ユーロ上限維持政策の撤廃がもたらした衝撃は、これまで「ロスカット」の有効性を信じていたFXの個人投資家にとって、特に大きかったのではないでしょうか。

■ロスカットの仕組みがスイスフランショックを増幅
ロスカットとは、FX取引などで評価損が一定レベルに達したところで保有するポジション(スイスフランの売り等)と反対の取引を行うことで損失を確定し、それ以上損失が膨らまないようにするものです。FXは預入れ資産の数倍から数十倍の取引を行うことが一般的ですが、ロスカットの仕組みによって損失が預入れ資産以上にならないようにしています。

ところが、今回のスイスフランショックでは、スイス中銀の発表を受けて相場が急反転したことで、ロスカットのためのオーダーが一度に大量発生し、それに見合うだけの取引が成立しない状況、すなわち、スイスフラン売りポジションのロスカットのためのスイスイフラン買いオーダーのみが大量に発生し、スイスフラン売りオーダーがほとんどない状況になりました。

買いたい人ばかりで売りたい人がほとんどいないわけですから、当然為替レートはスイスフラン高の方向へ大きく傾きます。それが更なるロスカットのオーダーとスイスフラン高につながり、結果、過去に類を見ないようなレベルの急激な為替ショックとなったわけです。

そして、ロスカットできずに預入れ資産以上の損失を被った投資家は大きな借金を抱えることとなり、また、多くの投資家が一度に損失を出した取引業者は資金繰りに行き詰まり、破産の危機に追い込まれました。

ロスカットという仕組みは通常はとても有効なリスク管理方法なのですが、皆が同じように採用しているため、いったんある方向に大きく動き始めると、そうした動きを増幅してしまうのです。

日銀もスイス中銀に負けず極端な政策をとっていますので、円絡みの為替ペアでも同程度のショックが起こる可能性はないとは言えないかもしれません。

ロスカットは絶対的な安全弁ではなく、信用取引は大きなリターンを得られる可能性を提供する一方で相応に大きなリスクと隣り合わせであることを、いま一度確認しておきたいと思います。

■過去にもリスク管理がショックを増幅した例は多い
今回のケースではロスカットがショックの増幅器となったわけですが、過去にも同様にリスク管理の経営指標がマーケットにショックをもたらした例は少なくありません。

例えば、2003年に、日本の長期金利(10年物国債の金利)が当時史上最低の0.43%をつけた直後に2%近くまで急上昇(国債価格は急落)した「VaRショック」では、多くの金融機関がVaRという同じリスク管理指標を用いていたために、一つの金融機関が国債を売り始めたところ他の金融機関も同じ行動をとり始め、瞬く間に売りが売りを呼ぶ展開となりました。

また、比較的記憶に新しいサブプライムローンショックやリーマンショックでも、きっかけはきっかけとしてあったのですが、それを増幅したのがVaRや時価会計といったリスク管理の仕組みであったことは、いくつもの研究が示しています。

ショックを増幅しない包括的なリスク管理手法なんていうものがもし発明されるなら、発明した人はノーベル経済学賞間違いない、かもしれません。

ところで、VaRショックのとき史上最低と言われた長期金利は0.43%でしたが、日銀の国債買入プログラムの下、昨日20日に、長期金利はとうとう史上初めて0.2%を割り、0.195%を一時つけました。

弓は強く引けば引くほどに威力を増すと言いますが、スイス中銀のように突然矢を射るようなことがないように、できるかぎり緩やかに発射してもらえるようお願いしたいものです。

以下の記事も参考にしてください。
■スイス中銀がもたらした衝撃。
http://sharescafe.net/42920887-20150117.html
■スイスフラン急騰。社員がFXで大借金を背負った場合の会社の対応。
http://sharescafe.net/42951013-20150119.html
■海外馬券の販売開始か?日本での馬券売上のインパクトとマネーロンダリングの可能性。
http://sharescafe.net/42936449-20150119.html
■ジャパンカップG1の時給は60億円!? 馬主という仕事の意外すぎる真実。
http://sharescafe.net/42224151-20141206.html
■有馬記念から考える「にっちもさっちもいかない状況」の克服方法。
http://sharescafe.net/42605108-20141227.html

■まとめ
・スイスフランショックを増幅したのは、ロスカットというリスク管理の仕組みでした。
・リスク管理の仕組みは、通常はとても有用です。
・リスク管理の仕組みは、ショックがあったときにショックの増幅器として働きます。
・ショックの増幅器となるのは、弱気相場で市場参加者の行動の相関を高めるためです。
・いまはVaRショック時を遥かに超えるマグマが溜まっているかもしれません。

本田康博 証券アナリスト・馬主・個人投資家


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