スマホ女子s
全編100分のうち20分が性描写として話題の映画「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」が、バレンタインデーの前日2月13日に世界同時公開されました。いわゆるポルノ映画ではなく、女性をターゲットとした官能恋愛ストーリーです。

■爆発的に売れた原作小説の衝撃
日本では一般にはそれほどではないように思いますが、欧米での注目度は凄まじく、例えば、Googleで"fifty shades of grey"を検索すると、ヒット数は1億件以上にも及びます。”Harry Potter”で1億8000万件くらい(カタカナでは200万件程度)ということを考えると、あのキワドイ内容で1億件というのは驚くべき数字だと言えるでしょう。

この作品は、一般向けメディアだけでなく、ブルームバーグやフォーブス、ウォール・ストリート・ジャーナルといったビジネス・金融向けメディアがこぞって、毎日のように様々な切り口で取り上げているのが特徴的で、例えば、ブルームバーグ・ビジネスのある記事では、映画中に出てくるヘリコプターや車、調度品、洋服等について、ブランドや値段等を一々細かく調べて紹介しています。

グローバルにビジネスをされている方なら、話のネタとして軽い気持ちで観てみるのも良いかもしれません。

なぜこれほど注目されているかと言えば、イギリス人女性作家E.L.ジェームズによる映画の原作三部作が、じつは世界全体の累計販売数1億部を超す大ベストセラーだからです。いったん火がついてからの売れ行きが爆発的だったことから、「ハリー・ポッター」を超えた「史上最速のベストセラー小説」とも呼ばれています。

大雑把に言って、販売部数の半分近くが米国で、3割ほどがイギリスやオーストラリア等ですが、52カ国語に翻訳され、英語圏以外でも、ドイツやフランス、スペイン、ブラジル、オランダなどでミリオンセラーです。最も売れた2012年には、出版元であるランダムハウス社の売上総利益は前年比22.5%増の21億ユーロ、営業利益は前年比75.7%増の3.25億ユーロを記録。フィフティ・シェイズ・バブルに沸いています。

また、ニューヨーク・タイムス等によれば、小説の影響で米国の「大人のおもちゃ」市場が2013年に7.5%も売上げを伸ばすという外部効果もあったと言われており、欧米、特にイギリスや米国では、まさに社会現象と言って良いほどの衝撃をもたらしているのです。

■誕生秘話とこんなに売れたワケ
この原作小説ですが、最初に書かれたときは、プロフェッショナルなメディアで提供されたわけではありませんでした。元々は、一大ブームとなった吸血鬼物語「トワイライト」シリーズ(ステファニー・メイヤー著)のファンサイトに投稿された、「トワイライト」のキャラクターを登場させた二次創作小説でした。

口コミで人気が広まったことから、登場人物をオリジナルのキャラクターに変える等の変更を加え、2011年に小さな出版社から電子書籍として出版。その後、ランダムハウス社傘下の出版会社が権利を買い取り、2012年に改訂版が発売されたとたんに、上述のような爆発的な大ヒットとなったのです。

2012年は、米アマゾン社のジェフ・ベゾス氏が報告書の中で「我々は今まさに、我々がこれまで期待してきたような変化の最中にいる」と語ったように、電子書籍の売上が大きく伸びた年でした。北米だけで見れば、2012年までの3年間の電子書籍市場の成長率(年率)は100%を超え、倍々増で増えた時期です。

前年には電子書籍専用端末がかつてないほど販売されており、また同時期にKindle Fire等の比較的安価なタブレット端末が広く流通したことで、この作品がメイン・ターゲットにする30代以上のマダム層にとっても電子書籍が身近になっていました。

電子書籍は、紙媒体とは異なり、周囲にはどんな本を読んでいるか分かりません。また、購入する際も、書店で購入するときに感じるはずかしい気持ちに耐える必要もありません。シャイな女性でも、めくるめくようなエロティシズムの世界を、誰にも知られずこっそりと楽しめるのです。

実際、フィフティ・シェイズ三部作の売上は50%が電子書籍と言われています。これは、ランダムハウス社全体(但し、その1割はフィフティ・シェイズ)の平均20%と比べ、極めて高い比率です。

フィフティ・シェイズのような性描写の多い女性向け官能恋愛小説というのは、おそらく元々大きなニーズやウォンツがあったのでしょう。社会的な配慮や消費者側の羞恥心などから、従来の紙媒体ではそうした潜在的な消費者にうまくリーチできなかったところを、電子書籍がブレークスルーしたのです。

フィフティ・シェイズのヒットは、著者本人がインタヴュー等で語っているように、口コミという要素が大きかったのだろうと思いますが、本質はそこではありません。

どんな内容であっても消費者に直接リーチできるという電子書籍によるイノベーションが露わにした「普通の女性向けの、性描写が充実した官能恋愛モノ」というほぼ未開拓の消費市場に対し、キッチリ見合う商品をタイムリーに提供できたことが、フィフティ・シェイズが爆発的に売れた本当の理由なのだと思います。

■著作権にかかわる「大人の事情」
「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイで最もスキャンダラスなのは、セックスでもボンデージでもない」と題されたワシントン・ポストの記事は、この作品に著作権問題が生じる可能性を指摘しています。全世界で1億部を超える売上を記録した作品に実際に著作権問題が生じることになれば、本当に大変な事件です。

この小説が元々「トワイライト」の二次創作(デリバティブ・ワーク)であったことは上述の通りですが、記事によれば、作品の著作権に含まれるのは出版権や放映権のような一般にイメージされやすい権利だけでなく、二次創作を誰に許すかという権利も含まれています。

「トワイライト」の著者メイヤーはファンによる二次創作に寛容なので、現実的には問題が生じる可能性は小さいと思われますが、仮に問題となった場合は、いったん二次創作と一般に認知されたものが、登場人物等のマイナーチェンジを行ったことで二次創作ではなくなったという主張が通るかどうか、といったあたりが争点になるのでしょうか。

ちなみに、Turnitinというパクリ検知ツールによって変更前後を比較したところ、89%が一致したとの結果が出たとのことです。

デリバティブにはリスクがつきもの、というオチでした。

是非、以下の記事も参考にしてください。
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/42555365-20141225.html
■話題沸騰「正社員制度をなくしたらどうなるか問題」を、ファイナンス論的に考えてみた。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/42781228-20150108.html
■ちきりんvsイケダハヤト「通勤手当廃止」論争で語られなかった「住まいの問題」緩和策。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/42894098-20150115.html
■一年で3回転職したアラフォー女子、年収倍増は幸運だけが理由じゃなかった。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/42650114-20141230.html
■海外馬券の販売開始か?日本での馬券売上のインパクトとマネーロンダリングの可能性。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/42936449-20150119.html

■まとめ
・「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」は、米英などでは社会現象レベルの注目度です。金融・ビジネス系メディアもこぞって取り上げています。
・爆発的に売れた原作小説は、元々は別の人気シリーズの二次創作として誕生しました。
・電子書籍による「イノベーション」と、「本当のニーズ」への「タイムリー」なアプローチが、短期間での驚異的な成功をもたらしました。
・二次創作として誕生したが故に著作権が完全にクリアとは言えない、という見方もあります。
・デリバティブ(二次創作)にはリスクがつきもの、というのは分野をまたいで共通するようです。

本田康博 証券アナリスト・馬主・個人投資家


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