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私が、依頼者の代理人として解雇予告手当の請求をする裁判を行っていたときのことだ。第一回目の裁判の際、最初に私が裁判所から言われたことはこんなことだった。

「及川さん、とりあえず半分でどう?」

労働者を解雇する際には、30日前に予告をするか30日分の賃金を支払わなければならないのだが、解雇予告手当というのはその手当金のことをいう。裁判所が言っているのは請求している金額の半額で折り合わないか、ということなのだ。

■簡易裁判所の裁判って実際はどうなの?
司法書士を主人公としたドラマ「びったれ!!」で簡易裁判所の裁判シーンが登場することがある。簡易裁判所とは、身近な紛争を取り扱う裁判所だ。取り扱う事件も金額にして140万円までとなっていて、比較的小規模な事件を取り扱っている。

平成25年度の司法統計によるとこの簡易裁判所の事件では、弁護士や司法書士といった専門職が代理人として付いていない事件が約70%に達する。ほとんどの事件では、本人同士の裁判となっているのだ。

以前、トラブルに巻き込まれた際、相手と対峙するときは交渉力の格差を埋めることが大切だという記事を書いたことがある(「裁判官も巻き込まれる賃貸住宅の清算トラブル」)。

これは裁判手続を利用するときも同じだ。

裁判所を知らないまま裁判に臨むと、「こんなはずじゃなかった」という結果になりかねない。今日は、簡易裁判所を利用するときの注意点を紹介してみよう。

■裁判所は相手を引きずり出すところじゃない。
トラブルになるとどうしても感情的になってしまう。「裁判所に引きずり出してやる」と鼻息荒く裁判所に出かけて行って、相手がどんなにひどい奴か…ということを並べ立てても裁判には勝てない。

裁判所は、訴えてきた人に権利がちゃんとあるかどうかを見ている。例えば、お金を貸したけど返してくれない…というときは、お金を貸すという約束をしたのか、実際にお金を貸したのかという点に着目している。借用書や領収書など、証拠となるような書類がない場合はどれだけ裏づけがあるか、ということが大切となる。

相手が人として信用できるかどうか…ということばかりを主張していてもうまくはいかないのだ。

度々、裁判所の人が話を聴いてくれない…という話を耳にすることがある。確かにそのような裁判官がいるのかもしれないが、裁判のポイントではない部分に熱心になっているせいかもしれない。

裁判をする上での「情報力の格差を埋める」ための第一歩は、自分の行おうとしている事件のポイントを知ることだ。何がポイントになるかわからない…という場合は、司法書士などの専門職に相談に行くのも一つだ。

■裁判所は和解がお好き?
裁判となると最終的には必ず判決が出る、ということではない。一般市民同士の裁判であれば、裁判所で行う和解で事件が終了することが多い。和解とは、判決にたどり着く前にお互いの合意で事件を終了させることだ。裁判所は、事件の進行をみながら和解の打診をしてくる。

裁判で勝っても、相手が自主的にお金を払ってこなければ、相手の預金や給料などの差し押さえる手続をしなければならない。空振りに終わることも少なくない。裁判所としては、空振りに終わる可能性があるのなら、和解として自発的にお金を払わせた方がお金の回収率がいいはずだ、と考えている。

そのためにはお互い譲歩して和解をしないか…と持ちかけてくるのだ。

■納得がいかないときは裁判所に説明を求めるべきだ。
なんとか和解に持ち込もうとする意識が強く働くのか、特に理由を示すことなく、強く譲歩を迫ってくる裁判官に出会うことがある。冒頭で「とりあえず半分でどう?」という話を紹介したが、その一例だ。「半分にまけてやるから支払ったらどうか…」「半分くらいはしっかり払わせるから折れたらどうか…」ということだ。

「裁判沙汰」などという言葉があるとおり、日本で「裁判」というと気軽にやるものではない。トラブルとなって裁判にまで発展してしまった以上、自分の主張に理があるのかどうか、裁判官の考えをききたいと考えるのは、自然なことだ。

根拠の分からない和解案が示された場合は、なぜそのような和解の提案となったかを裁判官に尋ねてみるとよい。

裁判官に尋ねるときは、その事案ごとのポイントについて、裁判官が自分の言い分のどこがおかしいと考えているかを訊いてみる。

裁判官の考え方を受け入れることができない場合は、控訴をするかどうかを検討すればよい。もちろん控訴をするとなると、時間も拘束されるだろうし費用もかかる。自分の置かれた状況を踏まえて、どこまでやってみるかを自分で選択するのだ。

■まとめ
誤解のないように言っておくと、すべての裁判官がいきなり理由を示すことなく和解の打診をしてくる…というわけではない。和解を打診する上で、理由をしっかりと説明してくれる裁判官にもよく出会う。

裁判とは、一般の人にとっては非日常なのだ。数多く経験するわけではない裁判という手続においては、事前にしっかりと準備をしなければならない。なかには和解を急かされる場面に遭遇することもあるだろう。そのようなときは、裁判官の考えを尋ねてみる…ということが突破口となって、自分の納得のいく選択につながることもあるのだ。

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及川修平 司法書士

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