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先月24日、金融庁が「主要行等向けの総合的な監督指針」及び「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」の一部改正案を公表しました。

時事通信社の記事『イスラム金融、邦銀本体も=金融庁が監督指針改正へ』(2/24付)は、以下のように伝えています。
金融庁は24日、利子のやりとりを禁じたイスラム教の教義に基づく「イスラム金融」について、邦銀が本支店でも取り扱うことを認める監督指針の改正案を公表した。現在は海外現地法人で行えるが、海外支店でも提供できるようにし、邦銀がイスラム圏での融資を行いやすくする。
今回の監督指針改正案は、銀行が『顧客又はその関係者の宗教を考慮して、商品の売買、物件の賃貸借又は顧客の営む事業に係る権利の取得が含まれる資金の貸付けと同様の経済的効果を有する取引』を行う場合の適格要件を明確化するものです。記事にもあるように、邦銀が直接イスラム金融を扱えることを目的とした変更です。

■イスラム金融のしくみ
じつはイスラム法では、お金がお金を産む「利子」を受け取ることがコーランで禁止されています。金融取引で金利という概念を使えないのは痛いのですが、そこをイスラム法が容認しうる方法でいろいろ「工夫」することで通常の金融取引と経済的に同等の価値を実現するのが、いわゆる「イスラム金融」なのです。

そして、ここで言う「工夫」が、監督指針で言うところの「商品の売買」、「物件の賃貸借」及び「顧客の営む事業に係る権利の取得」にあたります。但し、そうした取引が適正かどうかは、銀行に設置されるイスラム学者委員会で事前に認定される必要があります。

「商品の売買」を用いた最も単純なローンの仕組みでは、銀行とローンを借りる顧客とが、何らかの商品の売買契約を二つ同時に結びます。銀行は一方の契約では購入者となり、他方では販売者となります。販売価格を購入価格より高くし、そのタイミングを一定期間後とすることで、売買額の差額がその期間の金利見合いとして、銀行の収益となります。

■規制緩和の意義
「バイアルイナ」と呼ばれるこの方法では、銀行による商品の売買はあくまでも形式的なものです。監督指針改正案は、この形式的な商品売買について、『当該商品の売買代金に係る信用リスク以外に商品に関するリスクを銀行が負担していないこと』と、はじめて定義したのです。

つまり、イスラム金融を行う銀行は、売買を顧客がちゃんと履行するかどうかという顧客の信用リスクだけをとるべきであり、その他のリスク、例えば銀行が保有する間に商品が売買不能となるようなリスク等をとってはいけない、というのが、金融庁が定めるイスラム金融を行うための要件なのです。

商品売買を用いた他の方法のほか、賃貸借契約や事業の権利取得に係る方法においても、これと同様に顧客の信用リスク以外のリスクをとらないことが、金融庁が考える許容可能な「形式的な取引」であり、邦銀がイスラム金融を直接行う要件になります。

ここで、税務の知識やビジネスセンスのある方であれば、「形式的とは言っても売買取引だと、消費税がかかって効率の悪いファンディングになるのでは」と、考えられるのではないでしょうか。確かに、この方法でイスラム金融を行うには、形式的な取引については消費税を賦課しないという扱いが必要になります。

この点については、おそらく、不動産の特定目的信託を用いた日本版スクーク(イスラム債)で、組成に伴う不動産の信託及び買戻しについて税法上は不動産の譲渡がなかったものとして扱われるのと、同様の扱いとなるのではないでしょうか。

■イスラム金融拡大への期待
現地法人ではなく銀行本体がイスラム向けの融資業務等を行うことができるようになれば、国内でだぶついた資金を高成長のイスラム諸国で運用することが可能になります。また、イスラム圏での資金の出し手としてプレゼンスが増せば、オイル等の他の重要分野での交渉力にも影響があるかもしれません。

2兆ドル超とも言われるイスラム金融市場では、今のところ大きく出遅れている日本ですが、今回の規制緩和を契機に、ガラっと状況が変わることも考えられなくはないように思います。ジャパニーズ・バンカーの頑張りに期待します。

是非、以下の記事も参考にしてください。
■借金返済のために風俗店で働く女子学生の問題が、本当は奨学金のせいではない明らかな理由。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/42555365-20141225.html
■話題沸騰「正社員制度をなくしたらどうなるか問題」を、ファイナンス論的に考えてみた。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/42781228-20150108.html
■ちきりんvsイケダハヤト「通勤手当廃止」論争で語られなかった「住まいの問題」緩和策。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/42894098-20150115.html
■一年で3回転職したアラフォー女子、年収倍増は幸運だけが理由じゃなかった。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/42650114-20141230.html
■海外馬券の販売開始か?日本での馬券売上のインパクトとマネーロンダリングの可能性。 (本田康博 証券アナリスト)
http://sharescafe.net/42936449-20150119.html

■まとめ
・金融庁は、銀行監督指針を改正することで、邦銀が直接イスラム金融を行うことを認める見通しです。
・利子を認めないイスラム金融では、商品売買等の形式的な取引によって通常の金融取引を模倣します。
・監督指針が定めるイスラム金融の要件は、形式取引に係る追加的なリスクがないことです。
・イスラム金融における邦銀のプレゼンスが増せば、他にも良い影響があるかもしれません。

本田康博 証券アナリスト・馬主・個人投資家

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